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2021年4月にグランドオープンし、東京工業大学の新たなシンボルとなっているHisao & Hiroko Taki Plaza(以下、Taki Plaza)。隈研吾氏による設計で、階段状のフォルムが特徴的な建物です。同大卒業生で(株)ぐるなび取締役会長・創業者である滝久雄氏の寄附を受け、"つながる"をキーワードに、構想から4年あまりをかけて作られました。Taki Plazaの設立に伴い、学生支援課など学生をサポートする部署がTaki Plaza地下1階に移転。旧来のオフィスを一新してフリーアドレスを導入しています。また、働き方に合わせて働く場所を選択するABW(Activity Based Working)の考え方で「東工大流働き方改革」を推進しています。構想から中心となって携わってきた職員の方々にお話を伺いました。
生支援課、学生支援センター、留学生交流課、グローバル人材育成推進支援室のオフィス移転計画は、2021年4月から遡ること4年程前から始まりました。当時、学務部学生支援課支援企画グループ グループ長だった笹川祐輔さん(現・総務部安全企画課安全管理グループ グループ長)は、こう振り返ります。
「Taki Plazaに学生の交流を生む仕組みを作るためには、教職員側の連携・協働が不可欠です。一方、学生支援に携わる各部署は、同じ学務部で業務上の繋がりはあるものの、オフィスの場所が違い、コミュニケーションが不十分だという課題がありました。そこで、Taki Plazaへのオフィス移転に伴い、これまで別の建物で学生支援を行っていた各部署を集約して連携を強め、さらに、学生支援センターを改組し、これまで以上に学生支援を充実させようと考えました」(笹川さん)
1年目は執行部の理解を得るには至らなかったものの、笹川さんらが粘り強く交渉を続けた結果、改組の承諾を得て予算の確保にも成功。新オフィス稼働に向け、具体的な検討が始まりました。
「Taki Plazaは学生のための場所なので、教職員用のオフィススペースは限られていました。一方、移転計画を機に立ち上がった学務部業務改善ワーキングチームからは、オフィスに溢れる紙資料の整理、個人情報書類の管理といった書類に関する課題や、職員同士の打合せ時間や場所がないなどコミュニケーションの課題が挙がってきました。限られたスペースを有効に使いつつ、ペーパーレスやコミュニケーションの活性化・円滑化を図りたいと考えコクヨさんに相談したところ、フリーアドレスやABWについて教えてもらいました」(笹川さん)
国内のみならず、海外の大学への視察や企業・官公庁のオフィス見学などを経て、フリーアドレス化の意思を固めたものの、フリーアドレス化に不可欠なノートPCの導入と固定電話のモバイル化という壁にぶつかりました。
「当初は情報システム関連の部署からはセキュリティ面でもコスト面でも難しいと言われましたが、大学全体のDX推進を検討する会議でフリーアドレスやABWの有効性を訴えたところ、Taki Plazaの新オフィスに試行的に取り入れてみようということになりました」(笹川さん)
幾多の壁を乗り越え、2021年1月末に新オフィスに移転。現在、学生支援課2グループ、留学生交流課1グループ、学生支援センター1部門、グローバル人材育成推進支援室の職員約50名が1フロアで働いています。
【Taki Plaza地下1階の新オフィスの特徴】
・グループ単位で大まかなエリアを決めた上でフリーアドレスを運用する「グループアドレス」を採用し、個人の固定された席はなし。
・「来た人から順に、毎日違う席に座る」というルール(席はマグネットボードで管理)。
・個人の持ち物や書類を保管するパーソナルロッカーを設置し、持ち運び用のモバイルバックを配布。
・自分がその日に座る席とは別に、モニター付きのソファーブースやミーティングスペース、集中ブースなど、用途に応じたスペースを設置。
ソファーブース
ミーティングブース
集中ブース
パーソナルロッカーとモバイルバッグ
職員へのアンケート調査を行ったところ、毎日席を変えることについては、「よい・ややよい」が85%、職場のコミュニケーションについては、「(よくなったと)思う・やや思う」が82%、ペーパーレスの進捗については、「感じている」が79.5%と、概ね良い反応でした。具体的には、「部署を越えてコミュニケーションが生まれる」「無駄なものを少なくしようという意識が高まる」「周囲の会話が自然と聞こえてくることで情報が入りやすくなった」「書類の電子化が進んだ」といった声が寄せられました。特にペーパーレス化は順調に進んでおり、複写機の年間コストは100万円単位で削減できる見込みだそうです。
一方、フリーアドレスを大学全体に展開すべきかについては、「思う・やや思う」は65%に留まっています。その理由について、「部署や業務によって向き・不向きがあると考えられる」と笹川さんは分析します。さらに、ノートPCの使い勝手についても、「よい・ややよい」は60%とやや低め。使い勝手がよくないとした理由の多くが「セキュリティ面からWi-Fi環境になっておらず、ノートPCの利点を活かせていない」となっており、課題も見えてきました。
実際に新オフィスで働いた感想を、笹川さん、笹川さんと共に構想から携わった伊藤由美さん(現・学務部教務課大学院グループ)、今年度からお二人の業務を引き継いだ平田優一さんに伺いました。
「コミュニケーションの質と紙の量は、大きく変わりましたね。従来型のオフィスでは紙が確実に増えますし、会話は特定の人に限られていました。一方、フリーアドレスだと、些細な事柄でも相談を受けることが増えました。また、グループで瞬時に集まれるミーティングスペースがあるので、会議室を取る手間もなくなりました」(笹川さん)
「以前は他のグループの人と話すことはほとんどなかったのですが、今は隣の席になった人と自然に会話が生まれます。業務上のアドバイスをもらったり情報を交換したりすることも多く、とてもいいですね。一方、『同じグループ内のコミュニケーションが取りづらくなった』という声があったので、週1回、グループで同じ机に集まる曜日を設けることも検討中です。気軽にミーティングができるスペースがあって、重宝しています」(伊藤さん)
「フリーアドレスだとちょっとした会話が生まれて、他のグループではどんな仕事をしているのか、今どんなことで忙しいのかがなんとなく把握できるのがいいですね。また、集中スペースがあることで、業務効率も上がっていると感じます」(平田さん)
「作りっぱなしにしない」というのが笹川さんのモットー。使う人の声を反映し、より良いオフィスにしていくため、各グループ1〜2名ずつからなる「オフィス改善委員会」を設置し、今も課題や意見を持ち寄り話し合っています。
「オフィス改善委員会は、"キレイで働きやすい職場を作る!〜自ら動く〜"をキャッチフレーズに活動しています。職員の意見を参考にしたこれまでの改善例としては、他部署の業務や担当者がわかるようSlackの各自のプロフィールに担当業務を入力するようにしたり、窓口に近い席を窓口対応の固定席として担当者が日替わりで座るようにしたり、モバイル携帯の音色を部署ごとに変えてどこの部署宛の電話なのか音で分かるようにしたりといったことがあります。今後は、各自が自主的にオフィスをキレイに保ち、環境を改善するよう促していきたいと考えています」(笹川さん)
人事異動により学生支援課を離れた笹川さんですが、2021年7月からは大学の業務改革推進チームにも兼任で所属し、「東工大流働き方改革」を推進し続けています。Taki Plazaでの試行を受け、フリーアドレスやABWの他部署への導入も検討中で、ノートPCへの切り替えも来年度以降順次計画しています。
「学生支援センターの改組や新オフィスの環境により、課やグループの枠を越えた学生支援が可能になり、組織自体が強くなってきていると感じる。このいい流れを大学全体に広げていきたい」と笹川さん。「Taki Plazaやオフィスに込められた想いやコンセプトを引き継ぎ、実践し、伝えていきたい。使う人にとって、より快適で使いやすい場所にしていきたい」と平田さん。
東京工業大学の職場改善&働き方改革は、これからまだまだ進化していきそうです。
写真左から、総務部安全企画課安全管理グループ グループ長・笹川祐輔氏、学務部教務課大学院グループ・伊藤由美氏、学務部学生支援課支援企画グループ・平田優一氏