#中学校 #高校 #2023年12月
普連土学園中学校・高等学校(東京都港区)は、1887年にキリスト教フレンド派により創立された伝統ある女子校です。生徒同士の学び合いを促進するため、2023年夏に「生徒ホール」をリニューアルしました。中心になったのは、有志の生徒たち。どのようにプロジェクトを進めていったのか、生徒2名と生徒たちを見守った教職員の方々にお話をお聞きしました。
リニューアル前の生徒ホール
多目的室として使用されてきた生徒ホールは、大きな机が置かれイスが並ぶ、よくある学校の一室でした。自習や部活動の集会などで使うことはあったものの、利用者は多くはありませんでした。そんな生徒ホールのリニューアルの話が出たのは、2022年秋のこと。青木直人校長は当時をこう振り返ります。
リニューアル前の生徒ホール
普連土学園中学校・高等学校 校長 青木直人先生
「生徒の主体性や能動性を高めるために、生徒同士が教え合い学び合える生徒のための空間があったらいいね、という話が教員間で出たのが始まりです。そこで、あまり使われていなかった生徒ホールを、本校らしい居心地の良い空間にリニューアルしようということになりました。生徒たちが使う場所なので、生徒たち自身に作ってもらおう、生徒たちに任せようと考え、作った後も利用ができる中学2年生から高校1年生に呼びかけたところ、14人の生徒が集まってくれました」(青木校長)
普連土学園中学校・高等学校 校長 青木直人先生
英語科教諭・広報副部長 松井瑞穂先生
集まった14人の生徒のうちリーダー的な役割を担ったのが、鈴木愛花さんと村林しゅりさん(ともに現・高校2年生)。プロジェクトを担当した英語科・広報副部長の松井瑞穂先生が、「この二人なら核となってくれる。安心して任せられる」と考え、直々に声をかけました。
英語科教諭・広報副部長 松井瑞穂先生
プロジェクトメンバーによる打ち合わせの様子
「14人のメンバーで週2回ほど集まって、どういう空間にしたいかを話し合いました。図書館などの静かに勉強をする自習室とは違う、友達と楽しく勉強できるスペースにしたいというのはみんな一致していました。女子高生が集まって、話しながら勉強しやすい空間を考え、コンセプトはカフェ風な空間と決めました。そこで、目指す雰囲気に近い空間を画像検索したり、図書館司書の先生に相談してカフェ集のような書籍を購入してもらったりして、イメージを具体化していきました。並行して、松井先生と私たち二人はラーニングコモンズなどがある他校に視察に行き、そこで感じたことや写真などをメンバーに共有しました」(鈴木さん)
プロジェクトメンバーによる打ち合わせの様子
写真左:生徒会 メンバー 村林しゅりさん、写真右:生徒会 副会長 鈴木愛花さん
「友だちと会話しながら勉強できる空間、カフェのような雰囲気のリラックスできる空間、というコンセプトは早々に決まったのですが、具体的に何を置くのかや、どのような内装にするのかについては、さまざまな意見が出ました。例えば、寝転べるクッションを置きたいという声もあったのですが、あくまでも勉強するための場所なので、その軸に照らし合わせて採用するかどうかをみんなで判断していきました」(村林さん)
「二人が中心となって、本校で大事にしている対話による話し合いを実践してくれました。多数決ではなくみんなの意見をみんなで検討してまとめていく姿や、自分たちで考えたことを教員に訴える行動力、決断のスピード感など、見ていてとても頼もしかったです」(松井先生)
写真左:生徒会 メンバー 村林しゅりさん、写真右:生徒会 副会長 鈴木愛花さん
事務長 渡邊億徳さん
生徒たちによる話し合いと並行して、事務長の渡邊億徳さんは、家具や内装工事の発注先を検討していきました。
「夏休み中に工事を終えるためのスケジュールや予算、また、本校からオフィスやショールームが近く、生徒が実際に足を運んで見に行きやすいという点から、コクヨさんを選びました。エリアにより床の色を分けるゾーニングや、吸音パネル、室内用グリーンの設置など、コクヨさんにプロの視点でアドバイスをいただきながら、具体的に家具や内装を決めていきました」(渡邊さん)
事務長 渡邊億徳さん
村林さんが描いた生徒ホールのイメージ図
そこでも中心になったのは、生徒たちでした。村林さんが作成したイメージ図をもとに、コクヨが家具や内装を提案。品川のショールームに14人全員で足を運び、実際にサンプルを見ながら、何を置くか、どのような色にするかなどを決めていきました。
「見た目だけでなく、座り心地や機能性を確かめたうえで選んでいきました。例えば、カウンター席の高さなどは、いろんな身長の人がいるので、みんなで試してみて一番快適な高さを選びました」(村林さん)
村林さんが描いた生徒ホールのイメージ図
ファミレス席、2人用のカフェ席、カウンター席と、その日の活動や気分に合わせて席を選べるよう、座席のバリエーションも豊富。壁にかかっているのは吸音パネル。色はフレンド派のタペストリーのカラーを参考に選択したそう。
夏休み期間に工事を行い、8月末にリニューアルが完了。完成した新しい生徒ホールを見て、「みんな興奮した」と言います。
「私たちのイメージ通りに仕上がっていて、言葉で言い表せないくらいの達成感がありました。他の生徒たちからも頑張ったねと声をかけてもらって、うれしかったです」(村林さん)
「先生たちが干渉せず見守ってくれたことで、自分たちがつくりたかった生徒ホールをつくることができました。プロジェクトを通して、メンバーみんなが成長できました。私自身も、いろんな意見があるなか、自分たちの掲げる理想に合っているかどうかを考えつつ、リードする力がついたと感じます」(鈴木さん)
「生徒たちが一生懸命に頑張る姿を見てきたので、生徒たちの思い通りの空間になっているか、初めて新・生徒ホールに足を踏み入れたときはドキドキしました。みんなの満足そうな笑顔を見てホッとしましたし、とてもうれしかったです。私自身も教室のリニューアルは初めての経験で、多くのことを学ばせてもらいました」(松井先生)
ファミレス席、2人用のカフェ席、カウンター席と、その日の活動や気分に合わせて席を選べるよう、座席のバリエーションも豊富。壁にかかっているのは吸音パネル。色はフレンド派のタペストリーのカラーを参考に選択したそう。
利用時には、クラス、番号、名前、入退室時間を記入するルールに
現在、生徒ホールは平日放課後(16:00〜17:30)と土曜日(8:30~15:00)に開放されており、リニューアル前と比較して利用者は増え、学年を問わず毎日多くの生徒で賑わっています。利用ルールも生徒たちで決めました。
「例えば、利用時には、クラス、番号、名前、入退室時間を名簿表に書いてもらっています。これは、保護者から生徒の所在について学校に問い合わせがあった際に、いつ誰がどこにいたかという記録があると対応がスムーズなためです。他校で実践していたルールを採用しました。自分が利用者だったら、いちいち書くのは面倒だなと思うかもしれませんが、目的が分かれば納得できます。ですから、利用ルールを作る際は、何のためのルールなのかを意識するようにしました」(村林さん)
利用時には、クラス、番号、名前、入退室時間を記入するルールに
みんなが気持ちよく使えることを最優先に決められた「利用ルール」
「実際に使うなかで、変えた方がいいルールや加えた方がいいルールが出てくると思うので、みんなの意見を聞きながら調整していく予定です。例えば、時計を置いてほしい、昼休みも使えるようにしてほしい、遅くまで補習がある日は利用時間を延長してほしいといった声が上がっていて、それぞれ検討中です」(鈴木さん)
みんなが気持ちよく使えることを最優先に決められた「利用ルール」
生徒ホール内に設置されたお菓子の自動販売機。商品のラインアップも生徒たちで決めているそう
実は、生徒たちに大好評なのが、「お菓子を食べながら勉強ができる」という点。普連土学園ではお菓子の持参は禁止されていますが、今回、生徒たちの熱心な訴えの末、お菓子の自動販売機の設置(=生徒ホールではお菓子可)が認められたのです。
「アイスの自動販売機を置きたいという意見があったのですが、学校側からそれは難しいと言われてしまいました。でも、あまりにみんなからの要望が強いので、お菓子の糖分がいかに脳にいいかなどのエビデンスや生徒アンケートのデータを集め、お菓子のメリットを主張しました。その結果、なんと学校からOKが出たんです」(鈴木さん)
「私としてはアイスOKとしたかったのですが、本校は教員間にも民主主義が浸透しており、トップダウンでは物事を決められないのです。私も生徒を応援していましたので、外部の方による教員研修会で生徒の意見をサポートするようなコメントをいただいたりして、生徒ホールではお菓子OKという意見で合意を得ました。生徒が自分たちで規則の一部改定を勝ち取ったことは、学校を生徒が主役の場にする、生徒の自主性を伸ばすという意味において、とても大きいと考えています」(青木校長)
生徒ホール内に設置されたお菓子の自動販売機。商品のラインアップも生徒たちで決めているそう
今後は、大学生チューターに来てもらう、生徒がいない長期期間中や試験期間中は教職員にも開放するなど、生徒ホールのさらなる活用法を検討中です。
「高大連携の一環で、教職志望の東京理科大学の学生にチューターに来てもらう、という取り組みを試験的に始めています。放課後、生徒ホール内に席を設けて在室してもらったのですが、予想以上に多くの生徒が質問に来ていました。今後は、本校の卒業生などにも来てもらい、学習相談や進路相談ができるような仕組みを整えていきたいと思っています。また、本校のネイティブの教員によるイングリッシュ・カフェのような取り組みなどもやってみたいですね」(松井先生)
「良いものを長く使うのが普連土学園の方針です。今回、有志の生徒が主体的に活動し、とても素晴らしい空間ができたので、長く大切に使ってほしいと思います。ちなみに、リニューアル工事にどれくらいのお金がかかったのか、最後に金額を生徒に見せたのですが、見たこともない桁だと驚いていました。経済的な視点も感じてくれたのではないかと思います」(渡邊さん)
「学校説明会で小学生や保護者の方に、本プロジェクトや生徒ホールのご紹介をしているのですが、好評をいただいています。また、今後は生徒ホールの愛称も全校生徒の公募で決めたいと思っています」(青木校長)
生徒たちによって新しい姿に生まれ変わった生徒ホール。まさに、生徒による、生徒のための空間となっています。