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ym-01ができるまで

まだ誰も見たことがない、
存在感のある家具を作るために。

ゆったりとした佇まいのラウンジチェアーを中心に、
木の表情が美しいアイコニックな家具がラインアップされたym-01。
デザインを手がけた芦沢啓治さんと、担当としてプロジェクトを
進めてきたコクヨの佐川翠里さんが、
形になるまでを振り返りました。

―― ym-01の制作に向けて動き出したのは、いつ頃、どんな経緯で、だったのでしょうか?
芦沢:お話を頂いたのは、1年半ほど前。高知県で保全に携わっている「結の森」という森林の木材を使って家具を作りたいとのことで声をかけていただきました。
佐川:保全は2006年から続けています。健全な森を作るために大切なのは、適正な間伐。スギやヒノキの間伐材をいかに製品に活かしていこうか、コクヨ社内で課題になっていたんです。SDGsの動きが高まる中、サステナブルな製品を増やしたいという思いもあり、新たな家具シリーズを作ることになりました。
芦沢:森林が国土のおよそ7割を占めるにも関わらず、建築であれ家具であれ、輸入材に頼らざるを得ない現状は残念ですよね。だから国産材を使っていこうというyuimoriのコンセプトには共感しました。でもいざ進めるとなると、スギやヒノキで家具を作るということ以外はまっさら。どういうものをデザインしていくか、大きな方針を固めるところからの検討でした。

佐川:コクヨはもともとスチール家具メーカーなので、オールウッドのプロダクトを作る知見が少なく、ましてやスギやヒノキなどの国産針葉樹を素材にとなるとなおさら知見がなくて。芦沢さんにブランドの思いを伝えて、形にしていただくという進め方でした。
芦沢:そうですね。大変な作業だったけど、コンセプチュアルな部分と具体的な形が重なる瞬間を探ることこそが、デザインプロジェクトの醍醐味。1000本ノックではないけれど(笑)、いくつも提案して、ああでもない、こうはどうかと繰り返す過程は面白かったです。

“エコだから”より“欲しくなる”ものを。

―― ym-01の中でも、象徴的なのはラウンジチェアーです。これはどんな経緯で生まれたんですか?
佐川:オフィスの中で、多くの人が交わるような空間に置けるチェアーを核にしたいというのは、議論の過程でコクヨからお願いしたこと。それをどこにもないような、インパクトのあるデザインで実現したい、とオーダーしました。
芦沢:難しいですが、大事なこと。国産材でものを作ろうとすると、必然的にコストは高くなる。商品として成り立たせるためには、“エコだから、仕方なく使う“ではなく、”どうしても欲しい“と思わせる造形力を持つプロダクトをいかに生み出せるかが重要でした。最初は、目玉であるヒノキをある程度のボリュームをもって見せるといいのではと思い、今よりも塊感のある土台が特徴のものをデザインしたんですが。

佐川:あれは、すごくカッコ良かったですよね。でもコストオーバーで実現には至らず……。他にも、安全性が保てなくて断念したデザインも。とにかく、トライ&エラーを積み重ねて形にしていきました。
―― デザインを形にするにあたっては、繊細な曲線加工や湾曲を可能にする成型合板の技術を持つ天童木工が加わりました。苦労した部分はありましたか?
芦沢:今回のラウンジチェアーの特徴は、とにかく大きいこと。それが天童木工さんに苦労を強いたようです(笑)。

佐川:そうですね。さらにそこに、座り心地を向上させるための、座面の湾曲具合に関する細かいオーダーを加えたこともあり、結果的にかなり複雑な成型をお願いすることになってしまいました(苦笑)。
芦沢:成型合板って、工業製品のようにボタン一つでできると思っていたんです。でも実際は、プレス機を押すスピードや押し具合など、機械の繊細な扱い方で仕上がりを調整していて、想像よりも個人の高い技能が必要になる作業でした。彼らの職人気質に触れて刺激を受けられましたが、同時に、次はもうちょっと作りやすいデザインにしようと反省もしましたね(笑)。
佐川:(笑)。ある意味、知らなかったからこそ、既視感のない良いデザインに繋がったんだと思います。

ヒノキは工夫次第で活用していける。

―― 国産材を使うというテーマで家具づくりに取り組んで、何か気づきを得られたことはありますか?
芦沢:これまでは和風の建築などに用いられることの多かったヒノキも、デザイン次第で、本来の表情を生かしたまま、現代のオフィス空間に取り込めるものになるんだというのは発見でした。
佐川:はい。まだまだ可能性は広がりそうですよね。
―― では最後に、ym-01の家具をどんな方に使って欲しいですか?
佐川:まずは環境保全に関心のある方に知ってもらいつつ、いずれは森林や林業に興味がなかった人にも広まっていくと嬉しいです。
芦沢:そうですよね。だからまずはこの家具を買った人が、その背景にあるコクヨの結の森の取り組みについて伝えていってくれるようになればいいですね。
いずれ、国産材を使った家具が世の中の当たり前になるように、yuimoriから後押ししていければ嬉しいです。

プロフィール

芦沢啓治デザイナー
2005年芦沢啓治建築設計事務所設立。「正直なデザイン/
Honest Design」を 心掛け、建築からプロダクト、家具のデザ
インまで幅広く活動を展開。2011年東日本大震災時の市民の
復旧をきっかけに、石巻工房を設立。
佐川翠里デザイナー
2018年コクヨ入社。
オフィスチェアーの新製品開発・デザインに携わる。担当製品
に、Wizard4/Join/Eluaなどがある。