Overview
総務省より、自治体DXの一環として「フロントヤード改革」の推進が打ち出され、取り組みを進める自治体が増えています。そうしたなか、システム面の改修に終始せず、職員の執務スペースのレイアウトや業務フローの見直しまで踏み込んだ改革を行なっているのが、三重県桑名市です。今回は、桑名市 市民環境部 戸籍・住民登録課 主任の小田祐毅氏をゲストスピーカーに迎えた「コクヨの官公庁セミナー2024」の様子を、一部抜粋してお届けします。
登壇者
桑名市 市民環境部 戸籍・住民登録課 主任 小田祐毅氏
コクヨ株式会社 八上俊宏
目次
Report
桑名市の書かないワンストップ窓口とは
桑名市の「書かないワンストップ窓口」事業は、引越しや結婚・出産・死亡などのライフイベントに伴い発生する手続きを、システム導入や業務改革により、戸籍・住民登録課でまとめて受付できるようにするというもの。令和4年度デジタル田園都市国家構想交付金事業に採択され、令和5年4月に始動し、約9か月間という短期間で成果を出しました。
課題を明確化するための「窓口体験調査」と窓口業務支援システムの導入
全庁的な調整機関を設置したうえで、最初に取り組んだのが、課題の抽出でした。
小田氏:従来は、住民が庁舎内を何か所も回って、同じような書類を何度も書かなければならない…という課題がありました。この課題をより具体的に洗い出すために行なったのが、「窓口体験調査」です。入庁1年目の職員を中心に、死亡、転入、証明発行のチームに分かれ、来庁者の立場になって実際に窓口を回ってもらいました。そして、どのように移動したか(動線図)、どのくらい時間がかかったか(タイムチャート)、そのときにどのように感じたか(カスタマー・ジャーニーマップ)などをデータとして集め、分析しました。さらに、調査後には職員によるワークショップを実施し、課題を抽出していきました。その結果見えてきたのが、どこで何ができるのか・どのような書類が必要なのかがわかりにくい、待ち時間が長くどれくらいで終わるのかが見通せない、手続きが煩雑、暑い・寒い・狭いなど物理的に不快感がある、どこに何があるかわかりにくい…といった課題でした。
これらの課題を解決するために、桑名市では窓口業務支援システムの導入を決定。最初の窓口で、職員がシステムを用いて来庁者の情報を確認しながら手続きを進め、内容を来庁者が確認して申請書に署名いただく「書かない窓口」の実現を目指しました。さらに、RPAにより申請情報を住基システムに入力し、住基情報の登録・変更事務を迅速に遂行するとともに、ライフイベントに関連する他の課の手続きもシステムを用いて戸籍・住民登録課で受付することで、他の課の窓口へ行く必要がなく、最初の窓口だけでやり取りが完結する「ワンストップ」を目指しました。
執務スペースのレイアウト&業務手順を一新
桑名市のフロントヤード改革の特徴は、バックヤード改革も同時に行うことで、住民の利便性だけでなく職員の利便性も向上させた点です。窓口業務支援システムの構築と並行して、既存業務の見直しを行い、執務スペースのレイアウトを大幅に変更。業務手順も一新しました。
小田氏:従来の執務スペースのレイアウトは、職員の業務内容や動線にまったく配慮しておらず、移動が多く混線していました。そこで、無駄が多くて非効率だったレイアウトを3つのラインを基準に整理し、受付カウンターの什器も新たに購入。これにより職員の動きが非常にスムーズになり、窓口もプライバシーに配慮した仕様になりました。加えて、本当にやるべきことを迅速にこなすという視点で業務手順も見直し、改めました。
「無駄な業務を省くことで、空間自体もコンパクトにできる。業務改革と空間設計は表裏一体」とコクヨの八上。小田氏も「業務フローと空間レイアウトを同時に考えないと、不具合が出てしまっていたはず」と振り返ります。
小田氏:書かないワンストップ窓口の導入によって、来庁者も私たち職員も快適になったのは、職員の動線や受付のフローを検討し、そのうえで職務スペースのレイアウトを変えて…という一連の改善があったからこそ。システム導入だけでは、これは実現し得なかったと思います。例年、繁忙期は職員総出で窓口対応に追われていましたが、今年度はほぼ受付係だけで乗り切り、大きな手応えを感じました。
多様なニーズに応え、オムニチャネルで住民とつながる
令和4年度から「書かない窓口」の実証実験をスタートさせ、令和5年度には「書かないワンストップ窓口」を実現させた桑名市。次に目指すのはオンラインサービスを活用した「行かない窓口」です。バーチャル空間でメタバース窓口の実証実験を行うなど、新たな取り組みも始まっています。
小田氏:住民が庁舎に足を運ばなくてもさまざまな手続きができるのが理想形なので、さらなるDX推進に努め、「行かない窓口」を実現したいと考えています。一方、情報弱者、デジタルデバイドが生まれないよう配慮することも重要です。すべてをオンライン化、バーチャル化するのはなく、従来型の対面窓口も継続し、住民の多様なニーズに応えていく必要があると考えています。
八上:まさにオムニチャネルですね。多様な窓口で住民と接点をもつことが、これからの自治体には求められます。桑名市さんの取り組みは、その先駆けになりそうですね。
コクヨが考える未来の窓口理想形とは
小田氏の発表を踏まえて、コクヨの八上が長く自治体の庁舎空間づくりを担当してきた経験から、次のように述べました。
八上:桑名市さんの事例のように、どういった業務改革を行うのかというBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)からスタートし、そのためにはどのようなシステムが必要か、そのシステムを活用するにはどのような空間やレイアウトがいいのか…と発展的に考えていくことが大事だと私たちも考えています。特に、将来を見据えて窓口だけでなく庁舎全体の空間づくりをどうするかという点については、まだ着目されるケースが少なく、これからの課題です。今後は、窓口業務のオンライン化やリモート化が進み、職員の働き方や働く場所も多様化することが予想されます。そうなると、庁舎のあり方も変わっていくでしょう。具体的には、庁舎空間が住民のためのスペースに用途転換され、カフェやコワーキングスペースのような場所が増えていく未来を描いています。つまり、庁舎が、申請や手続きの場から、多様な人々の協業・共創の場に変わっていくということ。これは総務省が掲げる自治体フロントヤード改革でも示されていることで、今後の大きな流れになっていくのではないかと考えています。
おすすめ資料『フロントヤード改革で変わる庁舎窓口』
また、今後庁舎内スペースはどのようなレイアウトになっていくのか。コクヨが考えるこれからの窓口の理想形や庁舎の空間構築について、段階を追いながら、イメージパースをふんだんに取り入れた資料として「フロントヤード改革で変わる庁舎窓口」を作成いたしました。先進事例として都城市(宮崎県)と桑名市(三重県)での取り組みもご紹介しています。
ぜひご一読いただき、未来の窓口をイメージする参考としてご活用ください。
(作成/コクヨ)