Overview
「自治体DX」「スマート自治体」という言葉をよく耳にするようになりました。その背景には、これから日本が直面する大きな課題があります。デジタルトランスフォーメーションによって行政サービスの何を解決していくのか、自治体職員の働き方や自治体オフィスはどう変わっていくべきなのか。これらの問いに対する示唆を、「官公庁セミナー2022 自治体DXの“イマ”と“ミライ”」でコクヨ株式会社官公庁コンサルティング部チーフコンサルタントの八上俊宏が語った内容を元にお伝えしていきます。
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「自治体DX」の背景に見える働き手不足という課題
「自治体DX」の背景にある課題としては、少子高齢化に伴う生産年齢人口減少によって、自治体を支える働き手が不足していくことが第一に挙げられます。人口減少が深刻化しても自治体による行政サービスは維持していかなければなりません。そのため今後は子育て世代や高齢者などの多様な人々も働き手として活躍してもらう必要があります。
また周知の事実として、AIやRPA等デジタル技術の発展が加速しています。これらの技術を活用することによって定型業務が自動化され、職員は人にしかできないより付加価値の高い業務に注力するなど、人の役割と働き方が変わっていく時代でもあります。
前例のない課題に取り組む「自治体DX」時代の働き方
高度経済成長期は人口がどんどん増えていき、経済も右肩上がりに成長して税収も豊かになっていく時代でした。そのため、「子どもの数が増えて学校が足りない」となったら「では学校を増やそう」というように、課題に対する解決策も明確でした。
しかし現在は「子どもの数が減少している。出生率を高めるために何をすればいいか」など、課題そのものが困難で、解決策も複雑です。日本ほどの経済大国で人口減少と少子高齢化が進んでいる国は世界でも前例がなく、他の先進国も日本が取る対応とその結果を、固唾をのんで見守っている状況です。
日本はどこにも前例のない課題に対して、少ない人数で解決に向けて取り組まなければなりません。これからは縦割りの組織に留まらずに多様な人と協働し、課題を解決する働き方が求められます。そのためにはリソースを確保する必要があります。これまで定型業務に取られていた時間と労力をDXによって大きく削減し、確保したリソースを企画立案業務や相談業務など創造性が高く、人にしか担えない業務に振り替えていくことが求められるのです。
また、前例のない課題に有効なアプローチとして、オープンイノベーションという方法が考えられます。オープンイノベーションとは自組織内だけではなく、他部門や他自治体、企業、大学、中央省庁、住民などとアイデアや技術を共有して協働することで新たな価値を生み出すこと。オープンイノベーションに取り組むには、それに適した働き方や環境が必要です。
自治体オフィスはどう変わっていくか
従来の自治体は上意下達式のピラミッド型組織でした。業務内容は年間で定型的に決まったものが多く、前例踏襲で解決できる課題が大半でした。また、管理職の指示通りに動くことが期待されるため、取り組む姿勢も受動的になりやすいという側面がありました。こういった働き方に合わせたオフィスレイアウトが、組織図をそのまま机の配置に落とし込んだ「島型対向式レイアウト」です。
このレイアウトでは管理職がメンバー全員を見渡すことができるため作業の進捗状況を把握しやすく、遅れやトラブルが生じた場合もフォローしやすいといったメリットがあります。全員が同じ時間に同じ場所で働き、紙をベースに定型的な仕事をする前提においては、非常に有効なレイアウトだったといえます。グループごとの島と島の間が文書保管用のキャビネットで仕切られてしまっても、縦割り組織においてはグループ内のコミュニケーションが最優先となるため、横方向のコミュニケーションが取りづらくてもあまり問題はありませんでした。
しかし、これからの時代は先述したように「前例のない課題」の解決が求められます。前例のない課題は、上司も先輩もその答えを持っていないため、自部門を出て他部門や庁外へと答えを探しに行く必要があります。必然的に仕事の仕方も非定型的になり、突発的な仕事への対応など柔軟さが求められます。また、オープンイノベーションに取り組む上で重要なのが、自ら考え判断し、能動的に取り組む姿勢です。そうした仕事をしていく上で効果的な働き方が「ABW(Activity Based Working)」です。
ある時は一人で集中して資料を作成したり情報を探すといったソロワークに取り組み、午後からはそれらを元にチームメンバーとリラックスしながらアイデアを練り上げ、翌日には部門をまたいだメンバーが集まりアイデアを元に議論していく。そうした業務内容に一番合った場所をその時々で選択することで生産性を上げていく、ABWという働き方が望ましくなっていきます。そのため集中ブースや協業スペース、リフレッシュスペースなど様々なスペースを設けておき、業務内容や目的に合わせて最適な場所を選んで移動していけるようなオフィスが求められます。
まとめ
行政改革や人口減少によって職員の人数が減っていく一方で、多様化するニーズに対応した行政サービスを提供するためには、創造性の高い業務に取り組むための働き方改革が不可欠です。デジタル技術を最大限活用してリソースを増やし、オープンイノベーションや組織横断型のプロジェクトで前例のない課題に対する答えを探っていく。そのためには、これからの自治体オフィスはコミュニケーションが取りやすく、生産性の上がる環境であることが重要となってきます。従来のように全員が同じ場所に同じ時間に集まって一斉に同じ仕事をするのではなく、課題に対するアプローチ方法に合わせた新しい働き方と、それを実現するためのオフィス環境を創り上げることが重要です。
(作成/官公庁コンサルティング部 チーフコンサルタント 八上)