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本記事では、ユニバーサルデザインに配慮した自治体庁舎空間を実現するために必要な情報をまとめています。サインの工夫によってユニバーサルデザインに配慮した自治体庁舎空間を実現する方法を、最新の実践事例を交えて詳しく解説します。
目次
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庁舎におけるサインの重要性
具体的な方法に入る前に、まずはユニバーサルデザインの視点でサイン計画を行うことの重要性についてご説明します。自治体庁舎を利用する人の多くは、初めて庁舎を訪れた人、または前回訪れてから時間が経っている人です。多くの人にとって行き慣れた場所ではないために、「案内サイン」を頼りに目的のフロアや窓口へ向かうことになります。
"急いでいるから早く手続きを終わらせたい"
"とても悩んでいることがあるから、然るべき相手に相談したい"
―――このように、あらゆる人が、さまざまな理由で利用する場所です。そのためには、
"どこに行けばよいのか?"
"まず何をすべきなのか?"
"どんな手続きが必要なのか?"
がサインによってすぐに理解できることが重要です。そのためには、見た目の可愛らしさやキャッチーさにこだわるのではなく、あらゆる人にやさしい=ユニバーサルデザインなサインであることが不可欠なのです。
では、ユニバーサルデザインに配慮したサインはどうしたら実現するのでしょうか?ポイントは①表示 ②配置 ③管理の3つです。以下、それぞれについて詳しくご説明します。
表示:見つけやすさと区別のしやすさ
表示は、「視認性(見つけやすさ)」と「識別性(区別のしやすさ)」に分解することができます。サインの大きさや文字の大きさは、視認性に影響します。また、字体もサインに適しているものとそうでないものがあります。下の画像は字体の比較例です。文字の太いところと細いところの差が大きい明朝体(一段目)よりも、太さが均一なゴシック体(二段目)の方がサインに向いていると考えられています。
また、どんな色を用いるかということも、庁舎のサインにおいて重要だと考えられます。それは、「色の見え方は人によって異なる」という理由です。通説では、男性は20人に1人の割合で何らかの色覚障害を持っていると言われています。また、高齢者に多い白内障では、視界が黄変したりぼやけたりします。
つまり、サインに使う色に関しても、なるべく多くの人が区別できる色の組み合わせを用いることが重要です。また庁舎のエリア毎にテーマカラーを設定する際も「見え方の違い」を考慮することで、色覚障害がある人でもずいぶんと識別しやすくなります。
それ以外に工夫する点としては、多言語対応があります。外国人の利用が多い自治体では、サインに英語表記を並列するなどの工夫が求められます。
配置:利用者をどう誘導するか
配置とは、どこにどんなサインを配置し利用者を誘導するかということです。人が迷うポイントに、最適な内容のサインが配置されることが重要です。一般的に、サインには大別して4種類あり、目的地に対して以下のサインが矢印の順に配置されていることがポイントです。
(a)案内サイン→(b)誘導サイン→(c)名称サイン→((d)規制サイン)
例えば(b)誘導サインが抜けていると、分岐があった際に迷って目的地にたどり着けない可能性があります。また、柱で空間の見通しが悪い場合は、柱にサインを配置し対応することもあります。サインの種類によって、配置の際に適した高さもそれぞれ異なります。
管理:組織変更にどう対応するか
自治体は、法律の変更に伴い組織変更が生じます。特に自治体の庁舎窓口においては、変更に都度対応せざるを得ません。例えばマイナンバーの施行においては、自治体は従来の窓口を1つマイナンバー用の窓口に置き換えるなどの対策を行っていました。
組織変更やレイアウト変更を考慮するのであれば、1回設置したらそれっきりのサインではなく、メンテナンスのしやすいサインを採用することが重要です。例えばマグネットなどでサインの表記部分が貼り替えできる仕様であれば、組織変更にも柔軟に対応できます。
サインでユニバーサルデザインを実現した自治体庁舎の事例
直方市役所
庁舎案内がわかりづらいという課題を抱えており、窓口カウンターやサイン表示等の抜本的な見直しを実施しました。来庁した市民にとって分かりやすく、迷わず安心して利用できる窓口を目指して、窓口カウンターやサイン表示等の抜本的な見直しを実施しました。
1F エントランス
これまでエントランス正面にあった総合案内の位置を移動したことで見通しが良くなり、視認性が改善しました。
1F 待合
窓口案内サインは、黒地に白文字を採用し、明るさの度合である明度に強弱を付け、識別性を高めています。窓口毎に異なるカラーをアクセントに採用し、見分けやすいよう工夫しています。各窓口周辺には高い位置に突き出しサインを設置しており、遠近あらゆる方向からの視認性を高めています。
1F 税務課窓口
税務課は時期や状況によって窓口利用人数が異なるため、その場で仕切りの位置を水平方向に調整できるフェルトタイプの仕切りを採用。繁閑に応じて、別の課に持ち運んで使用することもでき、柔軟に対応することができます。
神戸市北区役所
駅舎と直接接続するビル内にあり、多くの方が行き交う商業・業務施設の上階に位置しており、利用者が迷わずに目的のフロアや窓口に辿り着けるよう、サイン計画に工夫をしています。
サイン計画には、職員で行ったワークショップで出た意見を反映。複数ある出入口に配慮したサイン配置やフロアごとのテーマカラーの設定など、利用者にとってわかりやすいサイン計画を実現しました。
4F市民課・保険年金医療課のフロア
複数ある出入口のどこから入っても、利用者が迷わないように工夫しています。各窓口についている番号サインも、複数の方向から見やすいよう配慮しています。
5F 税のフロア
主に2方向に出入り口があるため、サインはどの方向からでも見えやすいように視認性を高めています。
柱回りには誘導サインを設け、利用者が迷わないよう工夫しています。
6F 福祉のフロア
組織変更や業務内容変更に伴う、窓口位置のレイアウト変更を考慮し、カウンターサインは着脱式のマグネットシート仕様を採用しています。窓口名称を変更する場合には、サインシートを職員の方が容易に交換できます。都度大掛かりな工事が不要であるため、運用コスト削減につながります。カウンター用イスの背の色を各フロアのテーマカラーに揃えることで、利用者にとって現在地が分かりやすくなっています。
まとめ
コクヨが考える、自治体庁舎のユニバーサルデザインについては以上となります。今回はサインを中心にご紹介しましたが、ユニバーサルデザインは家具・動線・サインという3つの要素で実現します。あらゆる人が快適に、安心して利用できる庁舎空間づくりの参考にしてみてください。
(作成/コクヨ)