仕事のプロ
今すぐできる在宅ワークの生産性向上術
姿勢&運動で最高のコンディションをキープする
心身の状態は仕事の生産性に大きく影響する。ついケアを怠りがちだが、心身を最高のコンディションに保つために「姿勢」と「運動」は重要だ。今年1月に『仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること』(東洋経済新報社)を上梓した、(株)DeNA CHO(最高健康責任者)室室長代理の平井孝幸氏にお話をお聞きした。
30分に1回のストレッチで 生産性の低下を予防
平井氏が忠告するのが、「座りっぱなし」のリスクだ。長時間座り続けることで、体だけでなくメンタル面も凝り固まってしまい、生産性が低下してしまうのだ。これを避けるためには、定期的にストレッチをして体をほぐすことが有効だ。 「30分〜1時間に1回、パッと立ち上がるだけでも違いますし、部屋を歩いてみるとなお良いです。また、座ったままできるストレッチでも効果があります。例えば、右手を挙げて、そのまま左側に倒していきましょう。このとき、息を吸いながら倒していきます。右脇腹の筋肉がグーっと伸びるのを感じられるはずです。伸ばし切ったら、息を吐きながらもとの位置に戻します。同じことを左手でもやります。これは腰痛に効くストレッチで、呼吸と組み合わせることで呼吸筋のストレッチにもなります。DeNAで実施した腰痛撲滅プロジェクトでもこのストレッチをやったのですが、腰痛持ちの社員の85%ほどが痛みが改善したと答えました」 「また、座ったままグーっと天井を見上げるのもおすすめです。デスクワーク中はどうしても俯き気味になりますが、このストレッチにより首の前側が伸びて後ろ側が縮まり、バランスが取れるんです。上を向く際に顎を出そうとすると、より首の筋肉を伸ばすことができます。また、できる方はそのまま後ろにグーっと反ってみると良いでしょう」 「肩甲骨をほぐすことも大事です。座ったまま姿勢を整えたら、息を吸いながら、両肩をグーっと持ち上げましょう。できるところまで上げたら、息を吐きながらストンと落とします。これを3回。肩を上げるときに、肩甲骨をぎゅっと寄せてもいいでしょう。肩や背中のコリに効きますよ」
歩いて仕事の生産性アップ! 心身の不調が解消し発想力が高まる
在宅ワークの機会が増えると、気になるのが運動不足だ。健康のためにランニングを始めたという人もいるだろう。しかし平井氏は、「走るのはリスクが高い。まずは、正しい歩き方をマスターすることから始めてほしい」と忠告する。 「運動=走る、ジム通い...というイメージがあるかもしれませんが、激しい運動は体への負担が大きくリスクもあり、健康の維持・増進という観点では私はおすすめしません。特に走ることに関しては、正しい歩き方ができていない状態で行うのは非常に危険です。正しい歩き方をマスターしたら、まずは早歩きに挑戦し、1日中歩き回っても足が痛くならないくらいになって初めて走る...というステップを踏むべきだというのが私の考えです。おすすめの運動は歩くこと。仕事の生産性を高めるという観点でも、とても有効です」 歩くことの最大の効果は、「ネガティブを払拭してポジティブを伸ばすこと」だと平井氏は言う。 「正しく歩くことで、腰痛や冷え性、気分の落ち込みといった心身のネガティブな状態の改善が見込めます。また、心拍数が上がってテンションが上がる、脳が刺激されて新しい発想やアイデアが生まれるという、ポジティブを伸ばす効果も期待できます。シリコンバレーの企業のなかには、社内にトレッドミルがあって歩きながらミーティングができるところもありますし、京都の哲学の道も、まさに歩きながら考えた先人たちの道です。私自身、歩くのが大好きで、大概の問題は歩くことで解決できると思っているほど、その効果を信頼しています」
歩くコツは基本姿勢でリラックス 骨盤を意識して腰から足を振る
では、正しい歩き方とは、どのような歩き方なのだろうか。姿勢と同様、自分が気持ち良いと思えることが第一だが、いくつかのポイントがあると平井氏は言う。 「猫背になるなど姿勢が悪いと、小股でちょこちょこした歩き方になってしまいます。まずは、"背骨の真上に頭がくるようにし、頭をできるだけ高い位置にもっていく"という基本姿勢を意識しましょう。この姿勢を維持し、リラックスした状態でゆっくりと歩くと、自然と腰から足が振れるようになります。歩くときにはつい足の筋肉に力を入れがちですが、太ももやふくらはぎにムダな力が入らないよう意識します。足を前に振り出した反動でスイスイと進むイメージで、骨盤の動きを意識してみるといいでしょう。慣れてきたら、インナーマッスルを意識してみましょう。これを鍛えることで代謝が良くなり、太りづらい体づくりにつながります。また、肩甲骨を動かすことを意識しながら腕を振ると、肩のストレッチにもなります。肩甲骨が動くことで歩きやすくなり、歩幅も大きくなります」 日常生活のなかで歩く機会を大事にし、歩き方を意識して丁寧に歩いてほしいと話す平井氏。特におすすめなのが、階段の活用だ。 「階段は最高の健康・美容器具です。エスカレーターよりも空いていますし、ぜひ活用していただきたいと思います。上り方にはコツがあります。足の筋肉を使って上の段に上がろうとするのではなく、足を下に下ろしたときの反動でスッと上がってみてください。こうすれば無駄な筋肉を使わないので足への負担が少ないですし、筋肉がついて足が太くなる心配もありません」
社員のヘルスリテラシーを高め 主観的健康感を高めることが組織の生産性向上につながる
正しい姿勢や歩き方を身につけ実践することで、心身のコンディションが良い状態に保たれ、それが仕事の生産性の向上にもつながる。そうした直線的な効果とともに注目したいのが、「主観的健康感の向上が生産性向上につながる」という実証データだ。 「主観的健康感、つまり、自分は健康に気を遣っている・健康であるという感覚が高まると、仕事の生産性が上がるという結果が出ています(※2)。一方、健康診断の結果が良くても、生産性は上がりません。ですから、企業の健康経営を考えるうえでも、社員一人ひとりの主観的健康感をいかに高めるかが重要になってくるのです。コロナ禍による外出自粛や在宅ワークの増加で、健康な人と不健康な人の二極化が進みました。つまり、ヘルスリテラシーの高い人は、時間の自由度が高まったことで健康により気をつけるようになり、そうでない人は不健康のスパイラルに陥ってしまった...ということです」
※2:「企業の「健康経営」ガイドブック〜連携・協働による健康づくりのススメ〜(改訂第1版)/経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課」
コロナ禍を機に改めてヘルスリテラシーの重要性を痛感し、DeNAでの実践をまとめた『仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること』を上梓した平井氏。「本著に書いたことをすべて実践していただく必要はない」と言う。 「できそうなことをどれか一つでもやってみていただき、そこからプラスのサイクルに転じてもらえたらうれしいです。ヘルスリテラシーが高まり、主体的健康感が高まれば、仕事の面でも間違いなくプラスの効果があります。何よりも、自分に最適なやり方を探すことを楽しんでいただきたいと思います」書籍紹介
『仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること』(東洋経済新報社)
平井 孝幸(Hirai Takayuki)
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)CHO(最高健康責任者)室室長代理。慶應義塾大学卒業後、ゴルフ事業で起業。2015年に従業員の健康サポートを始め、健康経営の専門部署CHO室を立ち上げる。2019年には健康経営銘柄を獲得。翌年も連続して獲得する。2018年DBJ(日本政策投資銀行)健康経営格付アドバイザリーボード、PGA(日本プロゴルフ協会)経営戦略委員会アドバイザーなどを歴任。東京大学医学部附属病院で研究員も務める。著書に『仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること』(東洋経済新報社)。