仕事のプロ

2025.04.23

積み上げてきた「見えないキャリア」を元に、これからのWILLを描く

キャリアを考える:シニア世代のキャリア

50歳を過ぎて役職定年などステージの変化や気力体力の衰えと、さまざまな不安を抱えるミドルシニア世代。これまでは築き上げてきた知見を後輩に継承することを大きな役割と考えられてきたが、人生100年時代を迎え、誰もが人生のキャリアビジョンを自律的に考えることが求められるようになっている。キャリアを考える連載第12回目は、シニア世代は今後のキャリアをどう考えていけばいいのか、コクヨのキャリアコンサルタントの吉澤利純が語った。

転機を迎えるシニア世代のキャリア

ユングのライフサイクル理論では40代が「人生の正午」、つまり折り返し地点だと考えられていましたが、今では70歳までの就業機会の確保が企業の努力目標として課されるなど、ぐっと後ろ倒しになっています。一方で50代にもなると仕事における体力や気力に衰えを感じ始めたり、役職定年や再雇用など外部環境においてもステージの変化を感じるようになります。
これまで一生懸命取り組んできた仕事の第一線から離れ、担ってきた役割を後輩に委ねることを寂しく感じたり、かつての部下を上司としてプレイヤーに戻ることにプライドが傷ついてしまったりと、モチベーションを保ち続けるのが難しくなります。中にはこうした転機に対応しきれず、自己効力感が低下して愚痴ばかり言うようになったり、これまで築き上げてきたやり方や肩書に固執してしまう場合も。

また近年はデジタル技術の進化もめまぐるしく、これまでのやり方が通用しなくなったり、積み上げてきた技術があっという間に時代遅れになってしまうことも。社内のコミュニケーションツールなど、次々に新しいツールが導入されても、「使い方がわからない」と言って避けていては、あっという間に世の中の流れから置いていかれてしまいます。

一方で現在の50代の多くは、これまで「自律的にキャリアを考える」ことを求められる、といった経験をあまりしてきていません。企業に入ることができれば、終身雇用と年功序列といった「安定」と引き換えに企業への忠誠を求められ、「仕事は与えられるもの」であって、キャリアという言葉は昇進昇格など今とは別の意味で使われていた世代です。
そんななかで急に「自律的にキャリアを考える」ことが大切と言われて戸惑うのは、そうした背景もあります。
人生100年時代と言われ、今までよりも長く働くことが当たり前になっている今の社会においては、シニア世代も一人ひとりが自分はこれから何をしたいのか、どう生きたいのかといった今後のキャリアを考えて、実践していく必要性に迫られているのが現状です。




これまでを棚卸したうえで、今後のWILLを考える

そうした現状に向き合い、これからどうしていきたいかを考えるにあたって、まずはこれまでの自分自身の経験、つまりキャリアの棚卸をすることをオススメします。会社から与えられるMUSTについてあまり深く考えずに取り組んできたのであればなおさら、「これまで何を思ってどんな仕事をしていたのか」「その時の経験から何を得たのか」「どんな人からどんな影響や刺激を受けた、気づきを得たのか」「なんのために頑張っていたのか」など、仕事だけでなくプライベートも含めて、これまでの自分を形作ってきたことを振り返ってみてください。

この連載でも紹介した「ライフラインチャート」を書いてみるといいですね。自分の強みや得意なこと、成功経験や失敗体験、一緒に仕事をしてきた人とのつながりなど、これまで自分が積み上げてきた「目には見えないけど大切なもの」つまり自身の「キャリア」を意識的に「見える化」してみるという作業です。そうすることで、自分がこれまで何に突き動かされて仕事をしてきたのか、自分の判断に影響を与えたものは何だったのかなどに気づけて、改めて自分のWILLが何なのか、大切にしたい価値観は何かを考えるきっかけになるはずです。

そのうえで、これから先の人生で自分は何のために働きたいのか、どんな役割を果たしたいのか、などのビジョンを考えていきましょう。子育てなどがある程度落ち着いたのであれば、これからはお金を稼ぐための仕事中心の生活ではなく、プライベートを充実させることや人生を楽しむことの優先順位が高まるかもしれません。今後の人生は何を軸にしていきたいのか、改めて考えてみてください。




シニアこそ柔軟に新しいものを受け入れ、アップデートを

これだけ多様な働き方が許容される時代になってきているので、例えば週3、4日は仕事をして、残りは別の好きな活動をするという風に軸足を少し会社、仕事からずらしていくなど、柔軟な生き方にシフトしていくことも考えられます。同時に企業側も、こういったシニア世代に対して今後何を期待し、どう活躍をしてもらいたいのか、新たな役割や期待する貢献について考える必要があると思っています。

もし会社からこれまで積み重ねてきたキャリアとは違う、新しいことに挑戦する機会を与えられたら、及び腰にならずにシニアこそ挑戦すべきだと思います。人は年を重ねるごとにどうしても失敗を恐れて保守的になりがちですが、思い切ってやってみることで新しい発見や学びにつながり、これまでの経験との相乗効果で新しい価値を生み出せるかもしれません。
AIなど新しい技術が次々に登場していますから、これまで積み上げてきた知識や経験はいったん横に置いて、アップデートしていく柔軟さも必要です。そんな風にシニア世代こそ、積極的に新しいMUSTに前向きに取り組むことで、新たなCANやWILLに広がり、働きがいや自分の貢献したいものを見つけることにつながるはずです。




吉澤 利純(Yoshizawa Toshizumi)



コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネーター ストア事業、営業、新規事業企画部門を経てワークスタイルコンサルティング部門に所属。 主に、ナレッジシェアリング構築のコンサルティング、オフィス構築、運用改善コンサルティングを担当し、お客様の働き方改革をサポート。

連載監修/河内律子(コクヨ キャリアコンサルタント)
ライター/中原絵里子