リサーチ

2022.10.19

オフィスにおけるD&Iの実践

職場での多様性認識度はまだ発展途上?

近年、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という概念が注目され、1人ひとりの多様性や違いを尊重する動きが社会に広まっている。では職場において、D&Iはどのような形で取り入れられ、ワーカーの認識はどこまで進んでいるのか。コクヨが実施した調査をもとに、オフィスにおけるD&Iの実践状況について解説する。

調査実施の目的

D&Iに関して、コクヨでは2021年12月にも「ワーカーのD&Iに関する意識」というテーマで調査を実施しています。今回は、ワークプレイスにおけるD&Iの現状や課題を探るために、「職場でD&Iがどのように実践されているか」「ワーカーは多様性についてどのような本音を抱いているか」といった実情に踏み込む質問を投げかけました。




オフィスにおけるD&Iの現状

まずは、職場のメンバーや社内環境におけるD&Iの状況を問う質問を投げ、現時点の課題をあぶり出してみました。

「職場は多様なメンバーで構成されている」と回答した人は5割にとどまる

「同じオフィスで働く同僚は、多様性に富んだメンバーだと思いますか?」という質問に対して、「そう思う」と回答した人は54.0%みられました。
この結果からは、多様性に対するワーカーの感度がやや低いことが懸念されます。例えば性別や雇用形態が同じでも、価値観や性格までまったく同じ人はいません。「1人ひとりがそれぞれ多様である」という意識を普段から醸成しておくことで、「普通はこういうもの」といったバイアスを排してフラットに考えられるのではないでしょうか。

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年代別でみると、20代はほかの年代と比べて「職場のメンバーは多様性に富んでいる」と回答した人の割合が低いのが印象的でした。
20代のワーカーは、大学・大学院で多様な専門性や文化的背景をもつ人たちと一緒に学んできた実体験などがあるため、学生時代の環境と比べて「職場のメンバーには多様性があまりみられない」と感じるのかもしれません。あるいは、20代で勤続年数が少ないワーカーだと、職場のメンバーに関する知識が少なく、「多様な人材がいる」という意識を持つに至っていない可能性もあります。

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オフィスで働く"多様な人材"は「中途採用・子育て・非正規雇用ワーカー」

同じオフィスで働く多様な人材について質問したところ、「中途採用ワーカー」と「子育てワーカー」という声が多く目立ちました。こうした人材は多くの職場にみられるため、多くのワーカーが挙げたのも納得できるところです。

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オフィスで導入されている「多様性への配慮」

自社オフィスで導入されているD&Iに関する項目を、ファシリティ面と運用面に分けて挙げてもらいました。
ファシリティでは、「多目的トイレ」と「エレベーター用の車いす用ボタン」、「エレベーター内の鏡設置」(車いすを使う人が乗り降りしやすいため)の3項目を挙げた人が目立ちました。これらは、バリアフリー法によって、一定規模以上の建物には設置が義務づけられています。ですから、自社ビルがその対象となる、あるいは対象のビルにテナントとして入居している企業は、自然とこうした設備を有することになり、「自社オフィスに導入されている」と回答した人が多くなるのでしょう。
一方で、「気分/目的で選択可能な働く場」や「片手で開けられる引き戸」、「更衣室」、「祈祷室」といった企業自身が意図を持って設置する設備は、それほど多くの回答が集まらず、多様性の配慮がまだまだ発展途上である現状がわかります。

運用面では、経営者側のゴーサインですぐに実行できる「服装自由、制服が選べる」や「自ら学べるeラーニング」、「トップからの発信」などの項目には比較的多くの声が集まりました。とは言っても、上位に挙がっている項目でも、「自社で導入されている」と答えたのは回答者全体のうち4分の1程度にとどまっており、実践状況としてはまだ進んでいないことがうかがえます。

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D&Iに対する意識

ワーカーがD&I推進に対してどんな思いを抱いているのかを、複数の質問で明らかにしました。その結果D&Iを肯定的にとらえる人が多い一方で、葛藤を抱える人もみられました。

6割超のワーカーが、職場に多様性があることを肯定的にとらえている

「職場に多様性があることは、あなたが働くうえでよいことだと思いますか?」という質問には、64.4%のワーカーが「よいことだと思う」と回答しています。つまり、6割超の人が多様性をポジティブにとらえていることになります。
一方、「いいえ」「わからない」と回答した人の合計は約35%に上りました。「わからない」と答えた人のフリーアンサーをみたところ、「配慮を過剰にしなければいけないのではないかと、負担や面倒を感じる」という声が目立ちました。このような回答から、D&Iを職場で推進していくためには、研修やディスカッションを重ねて現場の不安を払拭することが欠かせないのだとわかります。

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多様性の推進で働きにくさが増すと懸念する人も

「多様性が進むことによって働きにくさが増すことがあると思いますか?」という問いに対して、「働きにくさが増すことはないと思う」と答えた人は全体のうち4割超みられました。逆に言えば、それ以外の人は何らかの懸念を持っていることになります。
具体的な懸念の声としては、「気軽な会話ができなくなりそう」や「言いたいことがうまく伝わらなくなりそう」などが多く寄せられました。この結果を裏返して考えると、「現状のコミュニケーションは、組織内でマジョリティの人が持っている価値観をベースにおこなわれているのではないか」という危惧が生まれます。「配慮すべき人がいるから」ではなく、普段から1人ひとりが「自分の考える"当たり前"は、ほかの人にとって"当たり前"とは限らない」という意識を持ってコミュニケーションすることを心がけるべきではないでしょうか。

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ワーカー自身のマイノリティ意識

D&Iのベースにあるのは「違いを尊重する」という考え方ですが、その違いに悩んでいる人は少なくありません。ワーカー自身や周囲の人の、「自分はほかの人と違う」「あの人は少数派だ」といったマイノリティ意識について聞いてみました。

職場で「マイノリティであること」で困っている人が4割

「あなた自身やあなたの周りにいる人で、マイノリティであることで困ることがありますか?」と質問したところ、自分自身については41.7%の人が「困ることがある」、周囲の人に関しては42.1%が「困っているように見える」という回答が得られました。つまり5人に2人の人が「マイノリティであること」によって困っていることになり、見過ごせない結果といえます。

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「何が原因で困っているか」については、自分自身だと「スキル・専門性」や「価値観」、周囲の人に関しては「価値観」や「性格」、「ライフスタイル」を挙げる人が目立ちました。いずれも目に見えないものであり、互いに自己開示しないと理解し合うのが難しい項目が上位にランクインしているのが印象的です。

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男性は「スキル・専門性」、女性は「ライフスタイル」や「性別」で悩んでいる

前述の「何が原因で困っているか」の質問を男女別に集計し直したところ、「収入」という項目は共通しているものの、性別によって異なる項目も挙がりました。男性は「スキル・専門性」「雇用形態」、女性は「ライフスタイル」「性別」と回答した人が多かったのです。
女性は出産や育児などによってライフスタイルの変化を経験する人が多く、キャリア形成の面で周囲に取り残される感覚を持つことが困りごとにつながっていると考えられます。男性の場合は、周りから「スキル・専門性があって当然」「正社員で当たり前」と周囲から先入観を持ってみられるケースが多いのではないか、と推測されます。

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まとめ

職場のD&Iを推進していくにあたって、課題の1つとなるのが「多様なニーズや困りごとがあることにいかに気づくか」です。今回の調査結果からも、法的義務の下で最低限のバリアフリー措置や制度設置はおこなわれているものの、まだ十分とはいえない実情がわかりました。
D&Iは、「ここまでやれば十分」といった基準がなく、推進側にとっては悩みどころも多い分野です。それでも、「現状の設備や制度、多くの人が共有している意識によって困っている人や排除されている人がいないか」を常に見直し、他者の価値観を尊重し受け入れるとともに、多様な個の意見を吸い上げられるような仕組みを整えていけば、よりよいD&Iの実践に近づけるのではないでしょうか。



調査概要

実施日:2022.3.26実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第35回「オフィスにおけるダイバーシティ&インクルージョンの実践」

五反田 萌(Gotanda Moe)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
建築学科を卒業後、2015年、空間デザイナーとしてコクヨへ入社。オフィス設計を手掛けたのち、若手社員を起用した「品川SST構築プロジェクト」に参画。今後のワークスタイル設定などを担当したことをきっかけに、ワークスタイルイノベーション部へ異動。空間や働き方に加え、社員のマインドアップ策定など、多面的にオフィス改革をサポートする。

作成/MANA-Biz編集部