HOME > オフィスづくりに役立つコラム > ワークスペース、企業文化、人事制度トータルの変革で実現させる「Work Life Shift」 ~富士通株式会社~
2021.4.12[ 働き方 ]
2020年7月に富士通グループのニューノーマルにおける新たな働き方への変革方針として打ち出された「Work Life Shift」。「働く」だけでなく「仕事」と「生活」をトータルにシフトするとは?ボーダレスオフィスとは?それを支えるインフラや人事制度、企業文化をどう変えていこうとしているのか、ご担当者にお話を伺いました。
総務本部 ワークスタイル戦略室
室長 赤松 光哉 様
総務本部 ソリューション総務部
山岸 綾 様
富士通株式会社
https://www.fujitsu.com/jp/
―――「仕事」と「生活」をトータルにシフトするとは具体的にどう変わっていく?
赤松:これまではどちらかというと「仕事」を中心に「生活」の時間を調整しているケースが多かったかもしれませんが、これからは仕事も生活も両輪でうまく回っていくように、ライフスタイルを尊重して働ける体制を作っていくという考え方です。例えば「通勤」という概念を失くしたため、単身赴任を原則解消しました。配偶者が転勤になった、親の介護で同居するなどの理由で、遠地で働くことも可能です。将来的には「沖縄が好きだから沖縄で働きたい」というのもOKになり、2か月に1度飛行機で通勤という人も出てくるかもしれません。
―――ここまで思い切った変革を実現できた要因は?
赤松:オフィスだけでなく、ICTツール、人事制度、カルチャーを一気にシフトさせたことにあると思っています。オンラインでも仕事が出来るインフラ導入を、システム部門がスピード感を持って進めてくれましたし、トップが率先してリモートワークを実践したら会社の文化が変わりました。
山岸:取締役会や経営会議もすべてオンラインで実施されました。社長は緊急事態宣言の期間中、1ヶ月近く出社しませんでしたし。
赤松:もともと2017年からABWを進めていましたが、5年、10年スパンで進める予定がコロナで一気に進み、社員も思った以上にテレワークへの順応が早かったという感じです。自社だけでなくお客様もコロナ禍で対面を自粛されたので、営業部門も自然とオンラインに移行出来ました。ワークスペースについては、コラボレーションを創出するメインオフィスである「ハブオフィス」、インフラ環境の整った自社拠点である「サテライトオフィス」、自宅や出張先の近くでデスクワークやオンラインミーティングに取り組む「Home&シェアードオフィス」の3種類から、業務の目的に合わせて自由に選択できます。自社拠点のほか、自宅近くで働けるシェア―ドオフィスの組み合わせでワークスペースを確保するため、現在200~300か所のシェアードオフィスを全国で使えるようにしています。
山岸:自宅のテレワーク環境を整えられるよう、月5千円のスマートワーキング手当が支給されるようになり、椅子やディスプレイ、通信環境の整備などに投資出来ています。私も自宅用のホワイトボードシートを購入し、頭の中を整理するのに使っています。
―――「富士通ソリューションスクエア」はボーダーレスオフィス化のフラッグシップオフィスとしてリニューアルされたが、コンセプトは?
赤松:ボーダーレスオフィスということは、特定の組織などのペルソナがなく、富士通社員13万人の誰が使ってもいいオフィスということになります。通常のオフィス構築の場合、部門のリーダーやメンバーに目指したい状態や課題をヒアリングして作ることが多いのですが、このオフィスではどの部門の誰が使う...ということが決まっていません。ターゲットを決めず、特定の誰かではなく誰にとっても居心地のいい空間を目指しました。そこでイメージしたのがカフェです。働く人を観察すると、心地よく働いている人はカフェに多い事に気づきました。くつろげるけれど日常ではない、完全な個室ではなく、音も聴こえてくるけれど自分には直接関係がないというバランスが、居心地の良さを作り出しているのだろうと考え、カフェライクなオフィスを目指しました。
山岸:オフィスの入り口の一番目につく場所に、アートワークで「富士通のパーパス」や「Work Life Shift」という会社の指針を大きく打ち出し、意識の醸成につながることを目指しています。
赤松:オフィスのアイデアを構築していく段階では、あえて社員の意見を聞きすぎないようにしました。対向島型の従来型オフィスしか知らない人からは、現状の課題の改善ポイントや少し先のアイデアしか出てこないケースが多いので。その為、意見を聞くのではなく、エクストリームユーザーをはじめとした社員の観察を通して、顕在化していないオフィスに対するニーズなどを把握しました。。しかし、改善の段階では別です。これから様々な社員が利用していくようになったら、評価はきちんと吸い上げていきます。
山岸:「VOICE」という社員の声をリアルタイムに確認できる仕組みで声を拾い、反映していく予定です。固定の部屋はほとんど作らず、家具などで空間を作っているので、どんどん変えていくことが出来ます。
赤松:ペーパーレスで部門の書類や私物を置く場所もあえて設けていないので、どこででも働けますし「縄張り」的なものもありません。隣にいる人が誰かわからない環境で仕事をするのは、ある意味チャンス。ほんの少しのきっかけでコミュニケーションが生まれてつながりが出来ていくので、偶発的な出会いを仕掛けられたり、つながりが生まれやすそうな人を集める仕組みが出来ないかと考えているところです。
山岸:出社は原則コラボレーションを創出する時だけ、となっているのでブレーンストーミングしやすいようにと、あちこちにホワイトボードを設置したところ、本当によく使われています。一人で考えるのには限界があるので、発散することで刺激になって新しいアイデアの着想につながるのだと思います。
赤松:グループ内コミュニケーションの機会として月に2,3回は日にちを合わせて出社するようにしているチームも多いようです。オンラインでアイデアを書き出してシェアするためのツールもありますが、まだユーザー体験が追いついておらず、リアルで話して発散した方が効果的な場面もありますから。
赤松:まず管理職からジョブ型に変え、これから一般社員に展開していく段階です。キャリアの選択肢としてポスティング制度があることで、チャレンジはしやすくなりますし、透明性は上がります。
山岸:また、一人暮らしの社員などで人と会話しない状況がずっと続くのはメンタルにいい影響がないと考え、月に最低1度は上司と1on1でコミュニケーションを取り、課題共有などを行っています。新人とマネージャーなどが定期的に話をする機会を作ることで、いい効果が出てきていると聞いています。1on1の進め方についても、教育を行っています。
赤松:「EXBORD for Office」の導入が始まっていて、オフィススペースの稼働状況や業務状況を可視化出来るようになっています。利用の少ないスペースやデスクは見直し、オフィスは密になりすぎないようにコントロールするなど分析結果を活用していますが、今後コミュニケーションを生み出す出会いの誘発などにも使っていけたらと考えています。
山岸:また、Work Life Shiftによってワークとライフの境目が無くなるような働き方を防止するため、稼働状況の把握にも活用しています。例えば始業と終業の打刻時間と社内ネットワーク環境にアクセスしていた時間に乖離がある場合、上長に原因確認の依頼メールが飛びます。仕組みとしては、申請していないのに残業しようとすると画面上に終了を促す表示を出すことも出来ます。
赤松:当然ですが、いたるところに消毒液を置く、打ち合わせは会議室ではなくオープンスペース、向かい合わせに座らない、対向島型のデスクにはアクリルパネルを設置するなどは行っています、感染者がオフィス内に出た場合、その人の近くで作業していた人には連絡が入る仕組みもあります。
山岸:それから完全フリーアドレスになって自席と違って机を拭いたりしない人もいるので、清掃の頻度は上げました。ドアノブやレンジなど共用部分も頻繁に拭いてもらっています。
―――今後の働き方予測は?
赤松:働き方を元には戻さない、出社は3割をキープという方針を会社として打ち出しているので、それをどう実践していくか。どうしても出社が必要な業務内容の人とは、なぜ出社の必要があるのかをお互いに納得する必要があります。一方、全然出社せずにずっとテレワークする人に対しては、オフィスに来る価値をどう作るかという課題が出てくるでしょう。我々世代は元々毎日会社に来て対面で仕事をするのが当たり前だったので、やはりFace to Faceで話すことの大切さも感じますが、これから先の若い人たちにとってはオンライン中心のワークスタイルが当たり前で、同僚との距離感も我々とは違ってくるのかもしれません。考えてみれば、我々の親世代では会社の人が会社帰りに家に飲みに来る、結婚する時は仲人を頼むなど、今より距離感はもっと近かったわけです。変わっていくことが悪い方向に働くだけではないのかもしれません。
山岸:私の息子も、友達と遊ぶ約束としたと言って、オンライン上でゲームを一緒にプレイしたりしています。別の友達は韓国から参戦、とオンライン上で輪が広がっていっている。そういう世代が上がってくると、リアルよりオンラインの方がずっと偶発的に出会える可能性は高いと感じるのだろうな、と思います。どちらがいい悪いというのではなく、それぞれの価値観を理解しながら、オフィスやワークスタイルの在り方を考えていきたいですね。
赤松:毎日会社に行くという前提が一度リセットされているので、それぞれにとって働きやすいオフィスにしていかなければならない。従業員に対して実施したアンケートで、今後どこで働きたいかという質問に対して、「家・シェアオフィス」と答えた人が3割、「家と会社の両方」と答えた人が5~6割という結果になりました。海外の先行事例でも7~8割の人がハイブリッドな働き方を求めています。前提として、Work Life Shiftは会社と社員の信頼関係の上に成り立つもの。見えないところにいるとサボるのではないか、という性悪説の考え方では信頼関係は生まれません。社員を信頼し、大切にすることからエンゲージメントは生まれてくると考えています。
―――オフィスは今後どういう位置づけになっていくと考えている?
赤松:現段階では、着想する、イノベーションを起こす時は、頭の中で考えているだけでは限界があります。着想は刺激があるほど広がっていくものなので、オフィスに来た人が刺激や着想に繋げられるような機会や仕組みを作りたいですね。例えばコミュニケーションのきっかけを仕掛ける、人と話してアイデアを発散し、アウトプットできる楽しさを感じられるようなスペースを提供するなど、どうすればイノベーションにつながる場に出来るか、模索していかなければならないと思っています。
会社と社員をつなぐ場。ビジョンやカルチャーを伝える場。富士通のパーパスを壁面アートで表現します。
居心地の良いカフェのようなワークスペース。
可動家具やホワイトボードを組み合わせて様々なディスカッションのシーンに対応。
少人数でのディスカッションのためのスペース。
多人数でのディスカッションの場
オフィスに出社した社員のベースとなるエリア。各アクティビティ・ファンクションの緩衝地帯としてアクセスしやすい位置に配置しています。
オフィスのユーティリティーコーナーを適切な距離に点在配置しています
今回は、富士通株式会社様の取り組みをご紹介させていただきました。
他にも2020年1年間のデータでの振り返りから、1stプレイス、2ndプレイス、3rdプレイス各企業の実例、感染症やワークエンゲイジメントなどの有識者へのインタビューなどをまとめ、様々な視点から熟考と判断を「WORK TRANSFORMTION vol.3」にまとめました。ぜひご一読いただき、これからのオフィスづくりご検討にお役立てください。
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