HOME > オフィスづくりに役立つコラム > 「病気より仕事優先」の意識がコロナによって急転換 ~松本 哲哉 氏 インタビュー~
2021.6. 1[ 働き方 ]
松本 哲哉 氏
医学博士
国際医療福祉大学医学部医学科感染症学主任教授
感染症学、細菌学、免疫学、感染制御学を専門とし、第一線で活躍する。日本化学療法学会理事長、
日本臨床微生物学会監事、日本感染症学会評議員、日本環境感染学会評議員
コロナ禍で大きく変わった
感染症に対する意識感染症を専門分野とする私は、この1年ほどは新型コロナウイルスに関する診断(検査)・治療(抗ウイルス薬の開発)・感染対策・予防(ワクチン普及)に関する活動に従事しています。1年半までは世界に存在しなかった病原体に対して、全世界あげて立ち向かっている中で、私たちも常に状況を見ながら取り組んでいます。
コロナ禍以降、日本人の生活スタイルは当然ながら大きく変わりました。ほとんどの人が常にマスクを着け、ソーシャルディスタンスを保ち、会食をできる限り控えて生活しています。
特に変化したと私が感じられるのは、「感染症への意識」です。例えば仕事の場において、コロナ前は「発熱があっても出社する」というメンタリティーはさほど珍しくなかったかもしれません。実はこのような行動は、欧米のビジネスシーンではあり得ないことです。なぜなら、国や地域によっては医療保険制度が整っていない場合が多く、病気をしてもすぐに受診するのが難しいうえ、医療費も高額です。なので、体調不良にもかかわらず無理をして出社して仕事をがんばっても誉められることはなく、逆に感染を広げかねない行為だと強く非難されます。
「無症状でもウイルス拡散」という
コロナの特性が危機意識を呼び覚ますコロナウイルスの感染者が増え、この感染症の特性がメディアによって広まるにつれ、これまでの「病気より仕事を優先する」といった意識に変化が出てきました。例えばインフルエンザならば、感染していても無症状のままウイルスを拡散させることはありません。ですから極端な話、発熱などの症状が出てから仕事を休む、というスピード感でも遅くはありません。
しかしコロナの場合は、無症状の感染者がどんどんウイルスを吐き出し、周りの人に感染させる恐れが高いのが特徴です。そして1人でも感染者が出て多くの社員が濃厚接触者と判断されれば、最悪の場合は事業所をいったん閉鎖する必要なども出てきます。ましてやパートナー企業や顧客との接触も考えた場合、影響の大きさは計り知れません。
そのため、当然ながら企業の意識も、「職場で感染が広がって大きな被害が出ないように、体調不良者は無理して出社させず休ませる」という方向へ切り替わったのではないでしょうか。もちろんワーカーの意識も同僚に感染させれば迷惑をかけるため「少しでも疑わしい症状があれば休む必要がある」という考え方に変わってきたと思います。コロナ禍によるポジティブな変化を挙げるとしたら、一つは間違いなく、このような「企業やワーカーの意識変化」だと感じています。
ウイルス変異が治まらない限り
コロナ禍の収束は読めないコロナの収束予測について、メディアなどを通じてよくご質問いただきますが、お答えするのはなかなか難しいところです。ウイルスの変異が起こらなければ、日本なら2年ほどでワクチンが6~7割の人に普及し、1日の感染者数が二桁台という状況になって「コロナはある程度収束した」といえたかもしれません。
このような状況はいつ訪れるでしょうか。ワクチンに関してはこの1年ほどで見通しが立ち、集団免疫が獲得される期待はあります。しかし、ウイルスの変異が治まらなければ、「変異ウイルスを押さえ込むためのワクチン」が必要になる......という状況が繰り返されることになります。そうなれば、ある程度の収束が見込める時期は3~4年先になる可能性も出てきます。
コロナ禍での教訓を次に生かさなければ
また混乱を繰り返すことにですから私たちは、まだしばらくはコロナに対応した暮らし方・働き方を続けていかなければなりません。現状の生活では、仕事においても生活においても感染に対する不安がつきまといますし、多くの人はマスク着用や外出自粛などの面で1年以上も我慢を強いられています。コロナがいったん収束したとなれば、そうした我慢から解放されて以前の生活スタイルに戻りたいと考える人は多いでしょう。
しかし、ここで一つ、みなさんに考えていただきたいことがあります。それはたとえコロナが収束したとしても、別の感染症が現れて再び同じような状況になる可能性もあるということです。その際、「新型コロナを経験して学んだことをどのようにして次に活かせるのか」が重要です。
たとえばオフィスでの働き方にしても、今回の経験を生かして「この感染対策の方法やワークスタイルを取り入れれば、もし何かあっても感染に強い職場にすぐに変換することができる」ようにしておくことが重要です。
それによって、もし別の感染症が流行したとしても、右往左往することなくスムーズにシフトできるはずです。同じ事象が起きても準備ができているかどうかで、被害の規模はまったく変わってくるのです。
人間は「のど元過ぎれば熱さを忘れる」のが常ですが、今回のコロナ禍から「次に生かすこと」を私たちは学ぶ必要があります。
今回は、松本哲哉氏のインタビューをご紹介させていただきました。
他にも2020年1年間のデータでの振り返りから、1stプレイス、2ndプレイス、3rdプレイス各企業の実例、感染症やワーク・エンゲイジメントなどの有識者へのインタビューなどをまとめ、様々な視点から熟考と判断を「WORK TRANSFORMTION vol.3」にまとめました。ぜひご一読いただき、これからのオフィスづくりご検討にお役立てください。
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