HOME > オフィスづくりに役立つコラム > コロナ禍による働き方の変化でワーク・エンゲイジメントが二極化~島津 明人 氏 インタビュー~
2021.6.15[ 働き方 ]
島津 明人 氏
臨床心理士/公認心理師
慶應義塾大学 総合政策学部 教授
職場のメンタルヘルス及び従業員と職場組織の活性化に関する研究と実践を行う。著書に『ワーク・エンゲイジメント:ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を』(労働調査会)、『ワーク・エンゲイジメント:「健全な仕事人間」とは』(ダイヤモンド社)、『Q&Aで学ぶワーク・エンゲイジメント―できる職場のつくりかた』(金剛出版)など。
ワーク・エンゲイジメントにおける
働き方の変化の影響は二極化私は産業精神保健を専門として、ワーク・エンゲイジメントやメンタルヘルスの研究を行っています。ワーク・エンゲイジメントでは、横軸を「仕事を前向き・肯定的にとらえているか」、縦軸を「仕事にエネルギーを注いでいるか」で見ていきます。テレワークなどの職場環境がワーク・エンゲイジメントにどのような影響を与えたかは、現在定点観測をしている段階ですが、全体というよりも個別に見ていく必要があると考えています。というのは、職種やワーカーのタイプによって、テレワークという同じ事象でも、これまで以上に活き活きと働くことができている人と、元気をなくしている人に二極化しているからです。在宅勤務によって仕事をする時間や場所が自由に選べるようになり、仕事を組み立てやすくなった、裁量権を持って仕事ができていると感じている人は、これまで以上に活き活きと仕事ができています。一方,会社に行くこと=仕事と捉えていたり、与えられた仕事だけに関心が向いていた人は、テレワーク環境下で周りの人の目が届きにくくなることで、さらに受動的になる傾向があります。自分では仕事をうまく組み立てられず、周りからのサポートも得にくいと状況では悪循環になりかねません。とはいえ、同じ場所・同じ時間に働くという前提が一度リセットされたのは間違いないので、エンゲイジメントが下がっている人に対して今後はどんなサポートが効果的なのか、これから検証していく必要があります。
社内の不公平感を出さないためには
お互いの状況の「共有」が欠かせない同じ企業で働いていても、職種によってテレワークができる人とできない人が出てくると、社内で不公平感が出るといった問題も浮かび上がってくるかもしれません。まずは自分や家族にリスクがあるため出来るだけ出勤を避けたい人には対応するべきですし、現業部門で働いている人、テレワークで仕事をしている人それぞれが、今何が起こっていて、どんなところに困りごとや不安を感じているのかを共有することが大事です。
ワーク・エンゲイジメントでは「組織の資源」と「個人の資源」の2種類の資源が豊富なほどエンゲイジメントが高まるのですが、どの資源と相関するかは組織や仕事内容によっても違います。例えば研究開発部門などでは、裁量権がある、成長できる機会が多いなどの影響が大きくなります。一方、チームワークや組織からのサポートが影響してくる職種もあります。テレワーク中心の働き方では裁量権が増え、その結果、成長機会に時間を使えると、より活き活きと仕事がしやすくなるでしょうが、いわゆる「わいがや」でうまくいっていた組織は、仕事のやり方を変えるなど何か代替する方法を考えなければならなくなるかもしれません。
オフィスで働く意義をどこに置くのか発信し
集まることに意味を持たせられるかが重要これからはオフィス=みんなが毎日集まる場所ではなくなります。今後は、企業が誰とどこでどう働くかを定義づけ、発信するかどうかで生産性やエンゲイジメントに大きく差が出てくるのではないかと見ています。オフィスで働く意義をどこに置くのか、ソロワークで出来る仕事は各自で取り組むようになるので、みんなが集まることならではの意味や意義を持たせられるかどうかが大事になってきます。また、フィジカルとメンタルはつながっているので、あまりに動かず光を浴びない生活を長く続けるのはメンタルヘルスにも悪影響です。オンとオフが切り替えられず荷重労働や深夜労働が増えている社員がいないか、などはマネジメント上、特にウォッチする必要があります。
心理的距離と帰属意識を維持するためにも、
「つながり」を感じられる機会を設けていくまた、感染対策として物理的な距離を保つ必要が出てくる中で、心理的距離をどう維持するかも考える必要があります。オフィスのスペースも物理的な距離を作らなければならない中で、心理的なつながりをどう保障するかはオフィス作りに求められるようになるでしょう。以前は満員電車で1時間以上かけて通勤してクタクタになりながらも、顔を合わせて一緒に仕事をすることで安心感を得ていました。それを働き方改革で変えようとしても、何年かけても変わらなかった10年分の変化が数か月で進み、根本から変わりました。もう完全に元の状態には戻ることはないでしょう。オンライン会議は目的を持った会話をする場なので、一緒にいることで自然に生まれていた目的のない出会いや会話がしにくくなりました。10年後の世界から今を振り返ってみると、人と人とのつながりの大切さに気付くきっかけになった出来事だと感じているかもしれません。
心理的なつながりや帰属意識を保持するためにも、企業はメンバー一人ひとりに「あなたに関心を持ち続けていますよ」「あなたはこのチームのメンバーだよ」というメッセージを発信し続ける必要があるのだと思います。実際にオンラインでの定例会や一緒にラジオ体操、ランチ会などの取り組み例もあります。お互いにつながっていると感じられる機会をいかに設けられるかが大切だと考えています。
今回は、島津明人氏のインタビューをご紹介させていただきました。
他にも2020年1年間のデータでの振り返りから、1stプレイス、2ndプレイス、3rdプレイス各企業の実例、感染症やワーク・エンゲイジメントなどの有識者へのインタビューなどをまとめ、様々な視点から熟考と判断を「WORK TRANSFORMTION vol.3」にまとめました。ぜひご一読いただき、これからのオフィスづくりご検討にお役立てください。
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