2021.11.15

【東京都港区】パイロットオフィス(1)フリーアドレスの導入

顔を上げて周囲に目を向けさせるフリーアドレスのチカラ

Overview

概要

千代田区、中央区と共に都心3区と位置づけられる港区。人口減少が加速化している地方自治体とは対照的に、今後も人口の増加が見込まれる港区において2018年7月、オフィス改革が行われました。フリーアドレスの執務環境実証実験として行われたそのオフィス改革は、港区本庁4F企画経営部企画課をパイロットオフィスとして改修・実証実験を行うというもの。今回はその企画経営部企画課において、パイロットオフィス構築の担当者として奮闘された港区企画経営部企画課の清水雅美氏にお話を伺いました。本コラムではフリーアドレス運用の効果や改修後半年が経過した現在の姿について、ならびにフリーアドレス導入の経緯や担当者としての思いについて、語って頂いた内容を2回に分けてご紹介します。

港区企画経営部企画課 企画担当係長兼務 企業連携推進担当係長  清水 雅美 氏

Interview

インタビュー

——— 今回企画課におけるパイロットオフィス構築では「課内フリーアドレス制」を導入されたということですが。

清水氏
はい、今回企画課では課長を含めて毎日席替えを行う「課内フリーアドレス制」を導入しました。フリーアドレス実現のため、個人で管理していた業務上の資料などを大幅に削減し、現在はそれぞれ個人ロッカーに収まるだけの量となっています。フリーアドレス実現のステップとしては、まず今回の目的を説明し、理解を得るための課内ミーティングの実施、次に不要な紙資料や消耗品の廃棄を行い、その後パイロットオフィスの構築を行いました。

——— 改修後約半年が経過しましたが、企画課の方々の働き方の変化について教えてください。今回、オフィス改修の前後で職員への意識調査を行っていますが、働きやすさに対する総合的な評価が大きく改善しています。そして、各種コミュニケーションに関する満足度も全体的に大きく改善されました。

清水氏
実感として、気軽なコミュニケーションが増えました。毎日席が替わることによって、自然な形で情報交換が行われるようになっています。何よりも、デスクに最低限の書類しか出ていないということの効果を非常に感じています。これまでは、書類に囲まれて仕事をしていました。ある種、自分の巣にこもって仕事をしている感覚です。これが、フリーアドレスになって最低限の書類とPCだけで仕事を行うようになって、意識の面で大きな変化を与えてくれました。少し顔を上げるだけで他の人の様子が分かるようになったので、物理的のみならず心理的にも風通しがよくなり、コミュニケーションがしやすくなったのです。加えて、今回のオフィス改修で設置された打合せスペースもうまく活用されていると感じます。今まではそういったスペースはゼロでしたから。

改修後の企画課オフィス

——— コミュニケーションの増加は、業務上どんな効果をもたらしましたか?

清水氏
例えば、決裁までの業務効率化が挙げられます。決裁の過程において、これまでは課長席に出向いて「今お時間よろしいですか」と話しかけるところから始めていました。今は日によっては課長と隣や向かいの席になるので、心の距離も縮まり、前置きなしに相談できます。以前に比べ、初期の段階から適宜相談できるようになったので、決裁までの手戻りが減り、職員にとっては少ない時間で効率的に決裁をとらせてもらえる環境になったと思います。ただ、課長はむしろ職員から話しかけられる機会が増えたので、これまでよりも自分の時間が確保しづらくなり大変になったかもしれませんが...。

——— コミュニケーション増加により一般職員の業務効率が上がる一方、逆に管理職にとっては自分の時間をどうやって確保していくかが新たな課題になったのですね。改修から半年経ちましたが、運用に関して何か課題や要望の声は上がりましたか?

清水氏
当初は完全フリーアドレスで運用していましたが、現在はニーズに合わせ運用を工夫しています。今年度新任された課長からは、改修後当面は課員としっかりコミュニケーションできる機会を設けたいという要望が出ました。そのため現在は、毎週月曜と火曜に一部の課でグループアドレスを導入しています。他にも、プロジェクトなど集中してディスカッションを行いたい場合など、適宜グループアドレス運用を行っています。

カウンターに設置している企画課レイアウト図。職員は毎朝自分のマグネットを動かす

——— 曜日ごとに運用を変えているということですが、大変さは感じませんか?

清水氏
全く...。実は、席は毎日くじ引きで決めているんです。オフィス改修当初、全ての席に番号を振った座席表とくじを用意しました。企画課職員は朝オフィスに来たらくじを引いて、くじで出た番号の席に座るという方法です。月曜と火曜はグループアドレスになる島のくじを除けてくじ引きをするだけなので、特に難しいことはないですね。

座る席を決めるくじと確認用の座席表

——— アナログなくじ引きという手法だからこそ、後から工夫しやすいのですね。ところで今回フリーアドレスを導入するにあたり、個人で保管していた資料などを削減されましたが、業務への影響はいかがでしたか?

清水氏
席に収納を置いていたらフリーアドレスができないので、個人の書類は個人ロッカーに入るだけ、を徹底しました。その結果、袖デスク、ワゴン、足元棚が不要になったのですが、書類が減って情報セキュリティが確保されるようになりましたし、見た目もすっきりしました。デスクは以前より小さいサイズのものを採用しましたが、不要な書類が置いてないため作業スペースはむしろ増えました。業務への影響ということですが...デスク周りに置いていた書類の大半はいわばお守りのようなもので、必ずしも必要なものではなかったのだなと感じています。現在はモバコ(※持ち運びに特化したファイルボックス)に日々の業務で必要な書類を入れて毎日持ち歩いていますが、私の場合はこれ一つで十分仕事ができています。

ノートPCと書類を管理する個人ロッカー

ただ、収納を大幅に削減できたのは、企画課が個人情報を扱わない部署だからという理由もあるでしょう。個人情報を扱う部門では、そういった書類の管理は続ける必要があります。しかし、一度環境や働き方を見直して整理することによって、そういった部門でも働きやすいオフィスを構築することはできると思っています。

——— オフィスの改修にあたり、コミュニケーションの活性化、ペーパレス化の推進、安全・安心な職務環境の整備、組織改善への柔軟な対応とオフィスコストの軽減といったことを当初想定されていましたが、今回の意識調査結果では、空調や温度に関する満足度も改修前から大きく改善しています。これは当初期待していなかったものの、書類を減らしたことによって得られた想定外の効果ということでしょうか?

清水氏
オフィスの改修にあたり、コミュニケーションの活性化、ペーパレス化の推進、安全・安心な職務環境の整備、組織改善への柔軟な対応とオフィスコストの軽減といったことを当初想定されていましたが、今回の意識調査結果では、空調や温度に関する満足度も改修前から大きく改善しています。これは当初期待していなかったものの、書類を減らしたことによって得られた想定外の効果ということでしょうか?

脚を動かしやすくなり、空気循環もよくなった広い下肢空間

——— 今回、書類に関する什器備品を撤去してデスクをサイズダウンしたことにより打合せスペースを2箇所生み出したということですが、そのうちの一つに電動昇降テーブルを採用されましたね。こちらはどのような場面で活用されていますか?

清水氏
通常の高さにして使うこともありますが、より集中して打合せを行いたい時はテーブルを高くして立ち会議を行っています。課長との打合せの際、課長に次の予定が控えている事が多く、そうすると限られた時間で内容の濃い打合せをしなければなりません。座った状態よりも立って打合せを行うほうが集中できるため、課長から立ち会議を提案されることも多いですね。

電動昇降のミーティングテーブル。モニター付きでペーパレスな打合せが可能

——— 限られた時間でパフォーマンスを最大限発揮するための立ち会議ということですね。

清水氏
ミーティングスペースだけでなく、一部の執務デスクでも電動昇降テーブルを導入しています。くじ引きでこの席に当たった職員は、立って業務をすることもありますし、あるいは座るにしてもちょっとだけ天板を高くして使うなど、それぞれが工夫している場面が見られます。また今回、一部の席にing(※着座時身体の動きに常に追随して、動的に体圧を分散しつづけるイス)を導入しましたが、こちらは無意識に行われる動作を妨げない、邪魔されないといった使い心地です。例えば何か考え事をする時に上を向くような仕草をしますが、そういった姿勢が自然に取れるので、私個人はその席に座れるくじを当たりくじのように感じています。

書類とPC作業とで変わる姿勢を自然にサポートするingチェアー

——— オフィス改修でさまざまな効果を感じてらっしゃるとのことですが、現時点でオフィス空間に不足していると感じる機能や要素はありますか?

清水氏
今回、事情により集中スペースが確保できなかったのですが、やはりそういったスペースの必要性を感じています。今のオープンな環境では、集中して業務を行うには人の声などが気になってしまうので。完全に閉じられた環境でなくとも、自身の業務に集中できるような場所、あるいは運用ができたらよいと感じています。 もう一つは、接客専用のスペースです。今後もしフロア全体でフリーアドレス運用が実現した場合には、庁舎に来た人が、迷うことなく会いたい人に会える環境を整えたいです。

※この事例は、2018年10月に取材したものです。

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