仕事のプロ
渋滞学・無駄学から見るダイバーシティ〈前編〉
仕事の渋滞を解消するのは「科学的ゆとり」
東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授が研究するのが「渋滞学」。渋滞というと、車の渋滞が一番に思い浮かぶが、西成教授の研究対象は車の渋滞から始まって、人の渋滞、仕事の渋滞・無駄へと派生し、その科学的なアプローチは企業や組織の生産性向上や働き方改革を考えるうえでも非常に有効なものとなっている。そこで、渋滞はなぜ起こるのかというメカニズムから、渋滞を起こさない方法、さらに、企業や組織がめざすべき組織運営や働き方、ダイバーシティの可能性などについて、西成教授に解説していただいた。
渋滞しないアリの生態から見えてきた
渋滞の防止・解消のカギは「ゆとり」
渋滞の定義を説明する図。東名高速道路での実際の交通量と密度の関係を表すデータで、渋滞していない場合は交通量が密度に比例して増加していく。渋滞はこの関係が崩れるところであり、交通密度が1km当たり30台弱から流量が落ちて渋滞になることが分かる。様々なデータを調べたところ、1kmあたり25台以上で渋滞になることが分かった。
※1:科学的根拠に基づいた世界基準ともいえる渋滞の定義。ただし、日本の国交省やNEXCO、警察庁で採用している渋滞判定の基準とは異なる。
もっとも効率が良いのは7~8割の稼働率
2~3割のゆとりが仕事の渋滞を防止する
西成 活裕(Nishinari Katsuhiro)
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)の学位を取得。山形大学、龍谷大学、ケルン大学理論物理学研究所を経て現職。ムダとり学会会長、ムジコロジー研究所所長などを併任。専門は数理物理学。さまざまな渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、著書「渋滞学」(新潮選書)は講談社科学出版賞などを受賞。2007年JSTさきがけ研究員、2010年内閣府イノベーション国際共同研究座長、文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出され、東京オリンピック組織委員会アドバイザーも務めている。日経新聞「明日への話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」に多数回出演するなど、メディアでも活躍中。