リサーチ

2022.11.08

コミュニケーションツールの利用変化

ワーカーはオンラインツールをどれだけ使いこなしている?

コロナ禍が到来するまで、ビジネスにおけるコミュニケーションツールといえば電話やEメールがメインだった。しかし、コロナによってテレワークやDXが推進される中で、さまざまなツールが急速に普及してきた。では、実際にどんなコミュニケーションツールが使われるようになり、ワーカーはどれだけ使いこなすことができているのか。コミュニケーションツールの利用状況について、コクヨが実施した調査結果をもとに解説する。

コミュニケーションツールの利用変化

コロナ前と現在を比較して、利用が増えたツール・減ったツールを挙げてもらったところ、約6割のワーカーが「社内での対面が減った」と回答。「社外での対面」についてもほぼ同じ数値でした。逆に「利用が増えた」と答えた人が約75%と最も多かったのが「WEB会議」です。
WEB会議に次いで「増えた」という回答が多かった「チャット、メッセージ、SNS」。これらのツールは、EメールやWEB会議に比べて手軽で、タイムリーに情報を伝え合うことができるのが特徴です。オフィスで対面する機会が減ったことで、気軽にコミュニケーションがとりにくくなった分、チャットなどを活用するワーカーが増えたと推測できます。

一方で「バーチャルオフィス」は、「利用していない」という回答が約8割で、ほかのツールと比べてかなり高い数値でした。近年、注目を集めているバーチャルオフィスですが、ビジネスシーンではまだ浸透していない実態が浮かび上がりました。

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ワークシーン別のコミュニケーションツール

ワークシーン別にどんなコミュニケーションツールが使われているのか、利用状況を聞いてみました。
まず特徴的なのが、いずれのシーンにおいても「個人PCでWEB会議」が一定数みられたことです。特に、「社内業務に関する会議」や「社内業務のチーム打ち合わせ」では約3割と高い数値でした。やはり、コロナ禍を経てWEB会議がビジネスシーンに深く浸透してきたことがうかがえます。

一方で、評価面談やキャリア相談を目的とする「1on1ミーティング」に関しては、「対面」という回答が全体の約5割に達しました。コロナ禍においても、人事に関わる内容は対面で実施されるケースが多いようです。

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コミュニケーションツールを利用する際の課題

多様なコミュニケーションツールをビジネスシーンで使う機会が増えたことに伴って、新たな課題を感じている人も少なくありません。ツール利用時の留意点や困りごとなどを聞いてみました。

ツール利用時にワーカーが注意していること

それぞれのコミュニケーションツールを利用するうえでどんな点に注意しているかを質問したところ、結果的に各ツールの特徴が浮き彫りになりました。
Eメールやビジネスチャットといった文字ベースのコミュニケーションでは、当然ながら「誤字脱字」や「敬語や相手に合わせた丁寧な言葉づかいになっているか」に注意している人が多数みられました。
注目したいのは、電話を利用したコミュニケーションです。敬語・言葉づかいと並んで、「相手に思いが伝わっているか」に注意している人が約3割に上りました。電話は緊急を要するシーンで利用するケースが多いと考えられ、自分の思いが伝わっているかを気にかける人が目立つのではないかと考えられます。

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ツールの使いこなし度

ビジネスシーンで使っている各ツールについて、「ツールの機能を理解して、ストレスなく使えていますか?」という問いに対する回答を年代別に集計し直してみました。
コロナ禍前から多くの人が活用している電話やEメールについては、「全ての機能を使いこなせている」と「一般的に機能は使えている」の合計が、すべての年代で約9割に上りました。

しかし、テレワークの増加にともなって普及したビジネスチャットやWEB会議システム、テレビ会議システム、バーチャルオフィスは、年代が上がるほど使いこなしレベルが下がる傾向があり、いずれのツールも「すべての機能を使いこなしている」と回答した人の割合が高いのは20代でした。特にWEB会議やテレビ会議システムなどは、もともとデジタル活用に抵抗が少ないうえ、会議やミーティングをセッティングする機会も多いと考えらるため、20代の使いこなしレベルが高いのではないかと推測できます。

ツールを使いこなすためのインプットは、現状ワーカー個人に任されている面も強いのではないでしょうか。ワーカーは新しいITスキルなどを定期的にアップデートしていかないと、業務に支障が生じ、生産性低下につながりかねません。そのたえ、企業は社員任せにせず、研修会や勉強会などによって、組織的にスキルの底上げをはかっていくことが求められます。

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ツールを使ううえでの困りごと

それぞれのツールを使ううえで困っていることを聞いてみました。
ここで注目したいのは、特に電話とEメールにおける困りごとです。電話では「言いたいことが伝わらない」と「相手の反応がわからない」の合計が4割超、Eメールでは6割弱みられました。これらのツールは「相手の顔が見えない」のが特徴であるため、話している相手の表情やしぐさからの情報が得られないことが不安につながっていると考えられます。WEB会議利用者がコロナ禍以降増えている原因の1つは、「離れた場所にいても顔を見ながらコミュニケーションできる」ことにありそうです。

これらの結果を踏まえ、それぞれのツールのメリット・デメリットを理解したうえで、タイムリー性を重視するならビジネスチャット、記録として残すならEメール、相手の思いを引き出すなら対面など、用途に合わせて使い分けることが、ツールの選択肢が増えてきた今、ますます重要になってきています。

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コミュニケーションロス

テレワークを推奨する動き方が続く中で、コミュニケーションの質や量が低下する「コミュニケーションロス」を感じている人は少なくないのではないでしょうか。そこで、勤務先でコミュニケーションロスが起こっているかどうか、業界別・部署別の状況を探ってみました。
全体としては、「質も量も下がっていない」と回答した人は約25%に過ぎず、4人中3人は何らかのコミュニケーションロスを感じていることがわかりました。

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今回の調査では、コミュニケーションロスがビジネスシーンで起こっていることを予測し、解決のためのアイデアを自由に挙げてもらいました。

全体的に多かったのは、WEB会議をよりよいものにするためのアイデアです。会議を簡単に召集・開催したり、議事録の自動作成、打ち合わせ後に雑談ができるツール、自動翻訳、名刺交換機能など、近い将来に具現化できそうな機能が多く挙がりました。
また、「オフィスでWEB会議に参加するときはマスクでなくフェイスシールドを使って、互いの表情を見せ合う」といったすぐに実行できるアイデアもあり、ワーカーが自分たちのニーズに応じて知恵を絞っていることがうかがえました。

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今後利用を増やしていきたいツール

「効率よく仕事をしていくために今後利用率を高めたいツール」をワークシーン別に挙げてもらったところ、いずれのシーンにおいても多く挙がったのが、対面とWEB会議でした。この2項目に共通する特徴は「相手の顔を見ながら話せること」で、「表情から相手の反応や理解度を知りたい」というニーズが高いことがわかります。

WEB会議については、前述の「利用するうえで注意していることは何ですか?」という質問で「周囲の環境」という回答が多く寄せられていました。今後、オフィス内にWEB会議ブースが整えられていけば、さらに利用率は上がると推測できます。
なお、意外だったのは各ワークシーンについて「今後利用率を高めたいツールはない」という声が全体の15~20%みられたことです。つまり、2割程度の人は現状のツールに満足していることになり、快適に働けている人が一定数いることが明らかになりました。

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まとめ

調査全体を通じて、コロナ流行から2年半が過ぎた今、多くのワーカーが複数のツールを上手に使い分けながら業務を進めている現状が見えてきました。ただし、バーチャルオフィスは利用者数が非常に少なく、導入済みの企業のワーカーも限られた機能しか使っていないことも明らかになりました。バーチャルオフィスは企業全体や部課単位で導入するケースがほとんどなので、企業は常に先を見すえて新しいツールを検討していくことが求められます。

今後も、ビジネスシーンではオンラインツールによるコミュニケーションが増え、それに伴ってツール機能も充実していくことが予測されています。現状ではコミュニケーションの質・量に課題を感じている人は多いですが、ツールの機能向上によって次第に解消していくと考えられます。
ただし、ここで問題になるのがワーカーのマインドです。出社するのが当たり前だった時代は、オフィスで偶然顔を合わせる機会も多く、そこからコミュニケーションが生まれる機会も多くありました。
しかし、オンラインのコミュニケーションが主流になると、ワーカーが自ら行動しないとコミュニケーションが成立しません。個人の積極性頼みでは今後、チームビルディングなどに支障が起きることが懸念されます。そこで、ツールの使い方だけでなくコミュニケーションの頻度などに関しても、企業側がワーカーに対して積極的に発信していくことが重要といえるのではないでしょうか。


調査概要

実施日:2022.5.25 -26実施

調査対象:社員数500人以上の民間企業に勤めるワーカー

ツール:WEBアンケート

回収数:309件

協力:マクロミル


【図版出典】Small Survey 第40回「コミュニケーションツール」


太田 正樹(Ohta Masaki)

住宅メーカーでの営業・設計・開発業務を経て、2007年に株式会社CWファシリティソリューション入社し、コンサルタントとしてオフィス構築業務に携わる。東芝川崎オフィスリニューアルやKDDIソリューション事業本部移転など多数のオフィス移転・リニューアルにおけるプロジェクトマネジメントを担当。

作成/MANA-Biz編集部