リサーチ
「70歳までの就業機会確保」の現状
およそ4社に1社が就業確保措置を実施済
2021年4月1日、企業に対して65歳から70歳までの就業機会を確保する措置を講ずることを努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が施行された。企業の対応状況について、『高年齢者雇用状況等報告』の令和3年集計結果をもとに考察する。
※『高年齢者雇用状況等報告』の令和3年集計結果は、厚生労働省が全国の常時雇用する労働者が21人以上の企業232,059社からの報告に基づき、令和3年6月1日時点での企業における高年齢者の雇用等に関する措置の実施状況等をまとめたもの。
高年齢者雇用安定法改正のポイント
2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法では、従来の「定年制の廃止」「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置による65歳までの雇用確保の義務に加え、以下のいずれかの措置による70歳までの就業機会の確保が努力義務として企業に課されることとなった。 (1)70歳までの定年引き上げ (2)定年制の廃止 (3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 (4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 (5)70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
65歳までの雇用を99.7%の企業が確保
65歳までの高年齢者雇用確保措置(「定年制の廃止」「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれか)を実施済みの企業は99.7%。3つの措置のうち、実施企業の割合が最も高かったのは、「65歳までの継続雇用制度の導入」で、71.9%であった。
70歳までの就業機会を確保している企業は、25.6%
他方で、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は25.6%。およそ4社に3社は、実施に足踏みしていることがわかる。企業規模別に見ると、中小企業(従業員数21〜300人)では26.2%、大企業(同301人以上)では17.8%と、大企業は相対的に低い状況にある。 具体的な措置内容は「継続雇用制度の導入(※1)」が最も多く、全体(措置未実施企業も含む)の19.7%が実施。次に、「定年制の廃止」(4.0%)、「定年の引上げ(※2)」(1.9%)、「操業支援等措置(※3)の導入」(0.1%)が続いた。
9割近い人が60歳以降も働きつづけることを希望
報告した全企業における常用労働者数(約3380万人)のうち、60歳以上の常用労働者数は約447万人で13.2%を占めている。年齢階級別に見ると、60〜64歳が約239万人、65〜69歳が約126万人、70歳以上が約82万人であった。 31人以上規模企業における60歳以上の常用労働者数は約421万人で、12年間で約205万人増加している。 また、60歳定年企業において、2020年年6月1日〜2021年5月31日の1年間に定年に到達した人のうち、継続雇用された人は86.8%で(うち、子会社・関連会社等での継続雇用者は3.1%)、9割近い人が60歳以降も働きつづけることを希望していることがわかる。
60歳以上がモチベーション高く働く環境・制度の整備がこれからの鍵
60歳定年企業において継続雇用された人が9割近いことから、60歳を超えて働く意欲のある人は多く、実際、60歳以上の常用労働者数は年々増加している。それに対して、企業は定年の引き上げや定年廃止ではなく、継続雇用制度により従業員の就業継続機会を確保している企業が大半で、また、66〜70歳の就業機会の確保にはまだ踏み出せていない企業も多い。 企業規模別に見ると、大企業に比べて中小企業において70歳までの就業機会を確保している企業の割合が高い。要因として、人材不足がより顕著であることなどが考えられる。他方で、大企業は新卒・中途採用などによる人員確保が中小企業に比べると容易で、高年齢者の活用の必要性がまだ顕在化していない可能性がある。 また、具体的な措置として最も多い継続雇用制度は、従業員を一度退職させて再雇用するケースが多く、賃金や付与する役割などにおいて、従業員がモチベーションを持って働くことに課題が見られる。従業員個人がモチベーションを高く持って働くことができ、企業も自社の成長や生産性向上につながる役割や報酬を高年齢者にも与えられるかどうかなどが、60歳を超えてからも働く社会において重要になってくると思われる。