2022.06.17

【熊本市】実証実験モデルオフィス(2)コミュニケーションと意識の変化

新たなオフィス環境が促したコミュニケーションと意識の変化

Overview

概要

2016年に発生した熊本地震以降、一日も早い復興に向けて行政サービスの向上を図る市役所改革を実施してきた熊本市。コクヨと新たなワークスタイルの実証実験に関する連携協定を締結し、本庁舎の一部にモデルオフィスを開設、行政オフィスにおける新たな働き方を試験的に導入しました。
本コラムでは、フリーアドレスの導入やペーパーレス化など、モデルオフィスでの新しい働き方を実際に体験した改革プロジェクト推進課の一野様にお話を伺いました。

熊本市 総務局 行政管理部 改革プロジェクト推進課 主査 一野 達也 氏

Interview

インタビュー

——— モデルオフィス作りに向けて何か参考にしたものはありましたか?

一野氏
自分自身の固定観念を覆すのに、品川にあるコクヨの「THE CAMPUS」を見学させてもらったのはいい刺激になりました。特に、役員の方が一般社員と同じ机で並んで仕事をしている姿に驚きましたね。市役所で仕事をしていると、どうしても考え方が硬直化しやすく、フリーアドレスという発想はなかなか出てきにくいのですが、コクヨに提案してもらえて、新しい考え方を取り入れる重要性を感じました。

コクヨのTHE CAMPUS

——— モデルオフィスではフリーアドレスを導入されましたが、実際に体験して感じた働き方の変化やメリットについて教えてください。

一野氏
全席フリーアドレスを取り入れたことで、執務スペース、ミーティングスペース、ソロブース、窓際集中席、多目的エリアなど、業務内容に合わせてワークスペースを選べるようになりました。いわゆる、庁内ABW(Activity Based Working)の働き方ができる空間づくりです。

多目的に使える空間づくりによって、例えばちょっとした確認や作業ならデスクまで戻らずともキャビネットの上でパソコンを広げることができ、作業効率向上を実感しています。また、会議室に行かなくてもオフィスの中でミーティングやウェブ会議ができるようになり、会議室の使用やその移動時間を削減することができています。

メンバーに対するアンケート結果からも、固定席がないことに対する抵抗はなく、業務内容に合わせてワークスペースを選択することで、タイムリーで効果的な打ち合わせができていることを実感しています。

モデルオフィス計画時のイメージ(全体観パース)

会議室利用頻度の変化に関する職員アンケート結果(実証実験報告書より抜粋)

——— 特に変化を感じたのはどのあたりでしたか?

一野氏
何より変わったのはコミュニケーションですね。コミュニケーションの相手も質も量も変わったと実感しています。

例えば、これまで課長と話すときはまず課長席まで歩いて行って、座っている課長に対して立った状態で受け答えをしていました。モデルオフィスでは 職員と課長の壁が取り払われ、とても話しかけやすくなり、また相談する際もお互いに同じ目線で話せるので 、課長の考えに対しても理解が進んだと感じています。上司と早い段階で情報共有できると手戻りが減るので、仕事の質も上がります。

また、「毎日同じ席に座らない」というルールを設け、隣に座る職員が毎日変わることで、コミュニケーションが活発化し課の一体感が感じられるようになったのも大きな成果だと思います。

収納庫上部は立ち会議スペースとして活用。朝礼などもここで行われている。

——— ペーパーレス化の導入も力を入れたそうですが、どのようなメリットを感じていますか?

一野氏
これまで紙で保管していた書類を電子データで保管するようになり、探す時間と手間が圧倒的に減りましたし、管理もしやすくなりました。

ミーティングスペースには大型モニターが設置されていますし、LAN環境も整備されたので打ち合わせの際に資料を打ち出す必要がなく、出力回数はかなり減りました。収納スペースを削減したため、紙で保管することをできるだけ回避しようという意識が働くようになったと思います。今は資料を紙で持ってこられても困ると感じるほど、印刷せずに情報共有するという意識が根付いています。

データの方が他の人に共有しやすいですし、どれが最新版なのか管理しやすいというメリットもあります。また、データでの情報共有が当たり前になると、誰が見てもわかりやすいように、データの整理整頓をより意識するようになりました。

実際、紙資料をため込みがちだった職員が、モデルオフィスに移ってからはペーパーレスに対応でき、仕事の質が上がった事例もあります。今まで紙を保管していたキャビネットもなくなりましたので、オフィスがそういう環境になると必然的に対応するしかないという意識に変わり、仕事のやり方を変えていくことにつながるのだと実感しました。

ペーパーレス会議の様子

文書の印刷量変化に関する職員アンケート結果(実証実験報告書より抜粋)

——— 職員の方々は、モデルオフィスでのフリーアドレス導入やペーパーレス化に対してどのような反応でしたか?

一野氏
概ね高評価でしたね。「集中したいときやウェブ会議など、業務に合わせて場所を変えられるので生産性が上がった」「デスクに何もない状態から業務を始められるので、気分がリセットできる」「固定席がないことで、打ち合わせスペースを自由に確保できるようになった」といった、フリーアドレス導入による生産性向上を実感する声が多く聞かれています。

フレキシブルなレイアウトが可能なので、机をくっつけて「プロジェクト等のミーティングに利用し、他課の職員ともコミュニケーションを取る頻度が高まった」といった効果もあるようです。他課職員との打ち合わせにも積極的に活用するようにしています。ただ、「IT企業のオフィスみたい」という声があったり「ここは入っていいんですか」と聞かれたりするなど、まだまだ市役所らしくない異質な場所として見られているようです。より多くの職員にこのオフィスで仕事をする体験をしてもらえるように、例えば「1日オフィス体験」なども企画していきたいと考えています。

また、特に人気なのが「ファミレスブース」と呼んでいるミーティングブースです。モニターも設置されているのでペーパーレス会議ができ、囲いもあるのでリラックスして打ち合わせすることができます。電源は「エナジーカート」というモバイル電源から取ることができるので問題ありません。課に6台設置されているエナジーカートがあれば、固定電源が少ない場所でもディスプレイを使用した会議やノートパソコンを使用する仕事も長時間行うことができます。ケーブルがなく移動もしやすいので働く場所の選択肢が広がり、毎日フル稼働していますね。

「ファミレスブース」と呼ばれるミーティングスペース

オフィスではカート式のポータブル電源「エナジーカート」によって電源を確保(実証実験報告書より抜粋)

——— 現場としては今後の展望をどのように考えていますか?

一野氏
フリーアドレス運用をして感じたことですが、ABW(activity base working)のオフィスは課単位よりも部門やフロア単位など、より大きな単位で行った方がスケールメリットを得やすいと考えます。今は一課8名のモデルオフィスですが、全庁に展開し、発展させる必要性を強く感じています。

私自身このモデルオフィスでの働き方を経験して、「空間をシェアする」という意識が新たに芽生えました。テレワークで出勤しないという働き方が今後一般的になっていくのであれば、そのスペースは有効に使うべきです。
一方で、市役所組織の課題として、どうしても縦割りで仕事をする特性があります。せっかく多様な職員がいるので、気軽にコミュニケーションを取りながらお互いにいろいろなアイデアを取り入れられるようになれば、効率面でも質においても効果的です。

私たちは横串で市役所全体を改革していくという部署なので、今後はモデルオフィスでの働き方を市役所全体に広げ、空間をシェアしながら職員同士のコミュニケーションを活発にしていけるように取り組んでいきたいですね。

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