Overview
人口減少と高齢化率の上昇により、2040年に向けて生産労働人口減少が予測される横須賀市。上下水道事業を提供する上下水道局においても将来的に職員減少が見込まれており、サービスの維持やリスク管理に強い危機感を抱いています。そこで2021年に働き方改革の一環として、「自走・自律型」のオフィス改革プロジェクトが上下水道局内で立ち上がりました。
第1回の今回は、横須賀市のICT戦略専門官として市役所全体のオフィス改革・働き方改革を牽引する松本氏へのインタビューをご紹介します。
横須賀市 経営企画部 ICT戦略専門官(次長) 松本 敏生氏
Interview
——— 横須賀市は人口減少が顕著であること、全国平均と比べても高齢化率が高いという課題を抱えており、労働力の絶対量不足への対策として働き方改革を進められているかと思います。松本氏はかねてから「働き方改革には意識改革とオフィス改革が重要だ」と語られていますが、まず意識改革の重要性についてどのように思われていますか。
松本氏
私がよく耳にする職員のコメントは、「国から言われたから」「トップの指示だから」「必要性は感じているがどう取り組めばよいか分からない」「意識はあるが、職場の理解が得られない」といったもので、このどれかに該当するパターンがほとんどです。自治体戦略2040構想にもあるスマート自治体を展開するためにも、なぜ自治体が改革しなければならないのか、どのように取り組めば良いのか、目的と取組み内容を職員一人ひとりが理解する必要があると感じています。
横須賀市は庁舎移転の予定がなく、また予算も限られています。働き方改革を行うには非常に厳しい状況ですが、オフィス改革は工夫次第で予算を多くかけずに行うことができます。また、ルールの見直しを同時に行うことによって、ICTの導入や働く空間などのハード面は必要な施策に絞って改革を行うことができます。
——— 意識改革の一環で、2020年10月から市長部局の総務部・人事課(人材育成担当)と共同で庁内改革セミナーを運営されていたと聞きました。市が抱える課題を自分ごととして捉えてもらうために、職員に対してどのようなお話をされましたか。
松本氏
管理職向けですと、やはり年代が高いほど変化に対する抵抗感は強いので、視点を変えたアプローチも織り交ぜました。例えば、横須賀市は職員の約7割が市民でもあるのですが、これはつまり将来的には職員自身が住民としてサービスの受け手になるということです。便利なサービスを構築して利便性を高めることは、その職員自身にもメリットがあるのです。
20代~30代の若手は、「このまま勤務して大丈夫だろうか」と未来に対して不安感を持っている職員もいます。今後は若手が中心となって行政サービスを運営していくのですから、彼らのやりたい形を尊重させてあげるべきだと考えています。こうした話をすると、管理職の方々も納得して頂けた印象です。
——— 確かに、そうした視点は自分ごととして捉えるために有効ですね。ちなみに、改革セミナーは職階に関わらず誰でも参加でき、かつ自由参加だったと伺いました。そのようなスタイルを選ばれた理由は何でしょうか。
松本氏
強制するものではないと思ったからです。勉強と一緒で、やらされても魂をもって取り組めない。どんな自治体にも、改革意識のある職員は組織の中に必ず何人かはいます。そうした職員をいかにして引っ張り上げて、一緒に推進していくかが重要だと思っています。
また、私自身はそうした職員を少しずつでも増やしていくという気持ちで取り組んでいます。仮に職員が100人いたとして、改革意識のある職員が20人だったら、推進力は弱いかもしれない。けれど意識改革を啓蒙することでその20人が30人に増えたら、推進力はずっと大きくなるでしょう。神輿を担ぐ人間を増やして改革を加速していくことが、今取り組んでいる理由だと思っています。
改革セミナーは自由参加ですが、参加者にはセミナーで得た知識やノウハウを職場に持ち帰って共有するようにお願いしました。そういう意味では、個人だけでなくチーム活動としても効果があると思っています。
——— 持ち帰って共有してもらうまでが一連の流れなのですね。では、改革セミナーでは具体的にどのようなインプットをされたのでしょうか。
松本氏
改革セミナーは計6回行いました。初回は自治体での働き方改革の必要性を私からお話ししました。私が以前、所属していた自治体の職員を登壇者として招き、働き方改革の体験談を語っていただいた会もあります。また、コクヨ社の多田様から他自治体の働き方改革・オフィス改革事例をご紹介していただく機会も設けました。その他、民間の取組み事例共有も実施しています。自治体と民間の改革事例を織り交ぜることで、セミナーに参加した職員がやるべき事がイメージできたと思います。
改革セミナー自体は令和4年3月で一旦区切りとしましたが、最終回で庁内で取り組んでいるオフィス改革事例を共有しました。参加者が得た気づきを職場に持ち帰ったことで、オフィス改革をまだ実施していない組織がオフィス改革に取り組むきっかけになったと感じています。
——— 続いて、改革セミナーの開始と並行して取り組まれた人事課でのオフィス改革について教えて下さい。松本氏はどのような形で連携されましたか?
松本氏
市役所全体では庁舎移転等の予定はありませんが、人事課の一部の組織においては庁外施設への移転が決まっていました。そのオフィス移転が横須賀市におけるオフィス改革のモデルにしようと考えたわけです。
私からは、まずは職員でブレストをしてみてくださいとお願いしました。意見を沢山出すことと、出た意見に対して否定をしないこと。そこから発散させることが重要ですとお伝えしました。その際、あるべき姿を描き、阻害要因を抽出した上で、現実的・具体的なところに落とし込むことで思考停止を防げるということも伝えました。
もうひとつは頻度です。短期間でサイクルを回すことが重要なため、週に1回、1時間くらいのスパンでと。メンバーの負担にならないよう、あまり宿題を設けないことも重要です。こうしたアドバイスをさせていただいた後は、メンバーが自発的に走り始めたという形でした。また、コクヨ社からご提案頂きましたオフィス・ツアーの見学や専門スキルを持つブレストの中間アドバイスの機会も頂けたのも自走・自立型で進められた要因であったと認識します。
——— メンバー全員で同じように考え続けるというプロセス自体が、「何のためにオフィス改革を行うのか」に対して目線を合わせていく作業になったのですね。
松本氏
そうですね。やはり上意下達ではなく、現場主導型で取り組むことが達成感につながるのだと思っています。そしてその達成感が、次なる改革のパワーになる。オフィス改革の推進を通じて意識改革が行われるということを踏まえると、このようなアプローチやプロセスこそ重要視すべきではないでしょうか。
——— 「自走・自律型」のアプローチとプロセスが、オフィス改革だけでなく、意識改革を促すということですね。
松本氏
そうですね。そして、そのスタイルはオフィス改革に限らずあらゆる改革に有効です。上下水道局の働き方改革推進係の郷原、寺崎とも週に1度はコミュニケーションを取っています。今後のオフィス改革に取り組む際にも、コミュニケーションの形や進め方についてこれまでの経験をシェアする形で支援させて頂きました。上下水道局に関しては働き方改革推進係に改革を牽引していただき、市長部局に関しては引き続き私自身が支援できたらと思っています。
——— 最後に、オフィス改革を支援されてきた中で得られた重要な気づきがあれば教えて下さい。
松本氏
自治体で避けて通れないのが人員の入れ替えです。2~3年ごとに概ね異動があるため、毎年顔ぶれが変わります。オフィス改革を実施済みの組織に対して職員が異動転入した際に、新しいメンバーにもしっかりと腹落ちした状態で働いてもらうためには、年度当初こそ重要です。これまでに取組んできたオフィス改革の目的と実施経緯を転入者にしっかり説明してあげることです。
さらに言うと、「失敗したものをどうリカバリーして成功させたか」も重要だと思っています。オフィス改革は、筋書きのない連続ドラマみたいにうまく行かないことがある。問題を解決してもまたすぐ別の問題が発生するし、行き詰まることもある。そんな状況からリカバリーして成功できた事例が増えれば、多くの推進担当者にとって勇気を与えるのではないでしょうか。要は運用しながら改善内容を認識し、完成度を高めていく「トライ&ラーニング」を実践することが重要でしょう。
私自身も「オフィスは生き物だ」と感じています。生き物を飼育していくようにオフィスも環境の変化に応じて変えていくというスタンスでいることは、今後も必要だと思っています。
(作成/コクヨ)