Overview
2021年10月に、熊本市本庁舎6階の総務局行政管理部改革プロジェクト推進課に設置されたモデルオフィス。チーム全員が固定席を持たず、ノートパソコンを持って移動しながら業務を行うフリーアドレス制が導入されています。「行政オフィスにおける新たな働き方」を探る実証実験で設置されたこのモデルオフィスは、先進的な自治体オフィスとして注目を集めています。
本コラムでは、熊本市とコクヨの間で実施されたモデルオフィスの概要と、効果検証を通じて得られた気づきについて、改革プロジェクト推進課課長の吉田様に語っていただいた内容をご紹介します。
熊本市 総務局 行政管理部 改革プロジェクト推進課 課長 吉田 敏一氏
Interview
——— 市役所改革のきっかけと、その全体像について教えて下さい。
吉田氏
「上質な生活都市」の実現をめざして2016年3月に熊本市第7次総合計画を策定しました。しかし新しいまちづくりをスタートさせた2016年4月に熊本地震が発生。一日も早く復旧・復興を果たすためには、今までの市役所の考え方や仕事のやり方を見直す必要があると考え、翌2017年度から市役所改革をスタートしました。市役所改革では、市民の声を的確に把握し、状況やニーズの変化に迅速かつ効率的に対応できる組織となるために、「自ら考え、自ら見直し、自ら行動する」市役所を改革目標として掲げました。
熊本地震直後の現場では、刻一刻と状況が変わるなか、対策本部では当初分厚いファイルを手に持って対応に当たっていました。しかし、復興支援としてApple社からiPadを100台無償提供してもらったことをきっかけに、ペーパーレスに舵を切りました。災害対策という非常時の対応でデジタル化のメリットを実感し、市役所全体で資料管理方法を抜本的に見直す必要性を強く感じたのです。
そこで2017年度、2018年度の市役所改革第1ステージではリモートワークやデジタルを活用した仕事に慣れることを目的としたオフィス改革を、第2ステージではさらに進んだ働き方を実践・検証するための場として、モデルオフィスの導入を決めました。熊本地震の経験からも、また今後の行政サービスのデジタル化に備えるためにも、ペーパーレス化は必須として特に重視しました。
——— 第1ステージの「オフィス改革」では、具体的にどのようなことに取り組んだのでしょうか?
吉田氏
まず新しいワークスタイルの導入に向けた土台作りとして、本庁舎の一部でデスクのダウンサイジングと書類や不要品の大量処分を実行しました。その結果1フロアの半分ほどのスペースを創出でき、賃貸ビルから本庁舎に移転したり、打ち合わせ場所を新たに創出したりすることができました。モバイルパソコンも導入し、全ての端末に「オフィス365」を入れたことで、これまで出張や対面で行っていた打ち合わせをリモートで行うことも可能になりました。
また、課内で1週間ごとに席替えを行う“模擬フリーアドレス”を実施し、課長も同じ島の中で仕事をするスタイルに切り替えました。これまでは1年間席が固定されていたためコミュニケーションの相手も限定的でした。しかし“模擬フリーアドレス”を取り入れた結果、隣に座る人が毎週変わり、環境が変わればコミュニケーションも変わると強く実感。これが第2ステージでのオフィス改革に自信を持って踏み切ることにつながったと感じています。
——— 第2ステージに移行し、モデルオフィスに着手する上で特に重視したことは何でしたか?
吉田氏
特に重視したのは職員の意識改革です。環境だけ変えても意識を変えなければ、改革は実現できません。市役所内には、デスクの配置や紙至上主義、仕事のやり方など慣例に囚われ、「こういうものだ」という固定観念が根強く存在しています。
しかし、市民ニーズの多様化やDXへの対応、さらには新型コロナウイルスの感染拡大や頻発する災害など、行政の対応範囲は広く複雑化しています。これに対応していくためには、前例踏襲ではなく、自分たちで考え、既存の手法を見直し、行動できる職員を増やしていく必要があります。意識改革は第1ステージから重点的に取り組んでいましたが、モデルオフィスで環境を変えることで、より強く促していきたいと思いました。
——— モデルオフィス作りに向けて何か参考にしたものはありましたか?
吉田氏
デジタル環境もある程度整い、イメージもつかめたとはいえ、市役所内でどのような空間づくりができて、そのためには何が必要なのかなど、自分達だけではわかりません。コクヨから何度も提案をもらい、議論を繰り返しながら、モデルオフィスのコンセプトやレイアウトを構築していきました。
モデルオフィスで目指したのは、新しい働き方への変革を見据えた、多様で柔軟な働き方が実現でき、可変性・多機能性のあるオフィスです。市役所改革前のレイアウトのように画一的な固定席のままではコミュニケーションも限定的になることを、“模擬フリーアドレス”でも実感していました。また組織改編や異動の際、机に私物や書類、事務用品などが大量にあり、引っ越し作業が毎回煩雑でした。さらにコロナ禍によって一部の業務でテレワークへの対応が求められましたが、オンライン会議をするスペースもありませんでした。
こうしたオフィスの課題解消に向けて、モデルオフィスでは完全なフリーアドレス制を導入しました。その結果、業務内容やメンバーに合わせて最適な場所を選ぶことができ、部門を越えたコミュニケーションやディスカッション、情報共有も進みました。さらに、用途や人数に合わせてスペースを可変することで災害時などにも対応しやすく、スペース効率の高いオフィスになったと思います。
——— 今後、第3ステージ以降はどのような市役所改革をめざしていきたいですか?
吉田氏
今後行政手続きのオンライン化が進んでいくと、市役所の在り方自体が5年、10年のスパンで変わっていくと予想されます。DXを取り入れるといっても、現状分析をしたうえでアイデアを出していくのは結局「人」です。職員の働き方自体が変わらなければ、自然災害が起きた時など緊急時に自律的に判断し、対応できる体制もつくれません。緊急事態においても市民サービスを滞りなく届けるためには、今後さらに職員の働き方改革を進め、働く姿勢や働き方を変えていかなければならないと考えています。
そのためには今後も引き続き、働くうえでのツールやルールなど、職員がより働きやすい環境を整えていくことが必要で、そうした取り組みが最終的に市民サービスの向上につながると思っています。
市役所改革第3ステージでは、今回取り組んだオフィス改革が市民満足度と職員満足度向上につながると共に、変化へ柔軟に対応できる組織を目指し、さらに発展させていきたいと考えています。