仕事のプロ
2015.10.05
「起業」という働き方
ワークスタイル情報/自分らしいビジネスモデル
もっと自分らしく、自信を持って働きたいワーキングマザーに向けて、様々な働き方を紹介するのワークスタイル情報編。今回は、ママを対象にした起業スクール「日本ママ起業家大学」を主宰するお2人に、ママであることを強みとして働ける起業のあり方についてお話を聞きました。
近藤洋子さん /社団法人日本女性起業家支援協会代表理事
フリーアナウンサーとして、FMラジオやテレビの通販番組などで活躍。「15秒で相手の心をつかみ、1分で売れる!」セルフプロモーションの専門家として、これまでにのべ300人以上の女性起業家に向けて、個別レッスンやセミナーを開催。
富田剛史さん /トミタプロデュース代表 メディアプロデューサー 社団法人日本女性起業家支援協会 顧問
ラジオ番組の企画・プロデュース経験などを経て、メディアプロデューサーとして独立。中小企業や店舗、まちおこしなど幅広い分野で、「オウンドメディア戦略」のコンサルティングを手がける。
- ライフスタイルやこどもの成長に
合わせて事業を育てるのがママの起業 - ――近藤さんと富田さんは、日本ママ起業家大学の主宰者として、ママ起業家の育成やサポートに力を注いでいらっしゃいます。まずは設立の経緯から教えください。
- 近藤:日本ママ起業家大学(通称「ママ大」)の立ち上げは、一つには私自身の経験が大きなきっかけになっています。私はフリーアナウンサーとして長年ラジオなどの仕事に携わってきたのですが、娘を出産後、安定収入を得るために一般企業に就職したいと考えました。200社にエントリーしましたが、採用してもらえたのは1社で、アルバイト待遇でした。その時つくづく、ある程度年齢のいった女性が、こどもを育てながら企業で働くのは大変だな、と実感したんです。
- ――子育て中で働ける時間に制約があると、就活では弱みになる場合もありますね。
- 近藤:そんな自分の経験を思い出したり、たくさんの女性に出会ったりするなかで浮かび上がってきたのが、「起業」という選択肢でした。自分の手でビジネスを興せば、それまでのキャリアを生かしながら、時間をある程度コントロールして働けます。それにもちろん、ママが志を持って仕事をすることで、こどもに伝えられるものもあるはずだと考えました。そこでママ大では、起業を考えている女性に向けて、ビジネスの基本をお教えし、その人ならではのビジネスモデルを構築するお手伝いを行っています。企業とママ起業家をつなぐマッチングオーディションにも力を入れています。
- ――子育てや家庭生活、自分を大切にしながら働ける点は、起業の大きなメリットといえそうですね。ただし、爆発的な売り上げには結びつかないかもしれませんが...。
- 富田:そうですね。ママ大の受講生は、必ずしも収入を目的としていない女性が中心です。ビジネスを最優先事項とせず、ワークライフバランスをより大切にするということで、「生ぬるい」とみる人もいるかもしれません。でも、お金を稼ぐことも子育ても家事も、本来は全て「幸せに生きるために必要な"仕事"」であって、分けて考える必要はないはずなんです。起業も同じで、子育ても家事も自分のライフワークも全部含めて収入にすることを考えたほうが、やりがいがあり、満足できる人生を描けるんじゃないでしょうか。
- 近藤:実は私は当初、「起業=経済的成功をめざす」という強いイメージがありました。ですから2013年にママ大をスタートした時点では、既存の起業塾と同じように、経営者マインドやファイナンス、ブランドマーケティングに関する講義を設定し、事業計画書を作成するプログラムを組みました。でも、実際に受講生と接してみてわかったのですが、子育て中のママが起業するモチベーションって、経済的成功や業績拡大だけではないんですよね。
- ――では、ママ大に入学する女性は、どんな起業のあり方をめざしているのでしょうか?
- 近藤:自分のライフスタイルやこどもの成長に合わせて事業を育てていくやり方が、ママのめざす起業ではないかと思います。また、「自分と周りの人がハッピーになる」「社会貢献につながる」「利益を生む」という、今までそれぞれ別のところにあったものが重なるところにママの起業があるのではないか、とも感じています。ですからこの秋からは、そんな気づきをもとに、ママ大のカリキュラムを大きく改編する予定です。例えば事業計画書の作成にしても、仕事だけではなく家庭も含めた人生のバランスシートをつくってもらいます。
- メッセージを明確化することが
ママ起業家の"愛される"ビジネスを生む第一歩 - ――変更点も含めて、ママ大のカリキュラムの特徴をもう少し詳しく知りたいのですが。
- 近藤:ひとことで言えば「子育てみたいな起業家育成プログラム」です。「ママ起業」は自分の小さなビジネスを生み、長く愛されるように育てること。ママ大入学は数ヵ月後に来るビジネス誕生までの準備期間と考えて、まず母子手帳ならぬ「ママ起業手帳」を差し上げることにしました。ここから先の具体的な準備や道筋、起業後の「成長」をチェックしたり記録するための手帳にしていただきます。
- 富田:その他にも、それぞれのママが生むビジネスの"具体的な姿かたち"が見えるママ大独自の「ツール」をつくっています。具体的な姿が見えるからこそ、ビジネスの規模感や成功に必要な売上げや顧客数、商品のつくり方や価格、ターゲットやアピールの方法なども具体的に考え始めるようになります。
このときに「セルフキーワード」を何度も整理します。事業の名前、短いキャッチフレーズ、自己紹介、商品コンセプト、事業を通じて実現したい世界観といったキーメッセージなどです。このキーワードを、自分が生む"ビジネスの姿かたち"と照らし合わせれば、概念的なことと現実的な数字、そして家事、育児と仕事の時間バランスをいっぺんに考えられるようになると思っています。 - 近藤:中でも「メッセージ」はとても重要です。メッセージが決まると、不思議なことに「これが私の使命だ」と納得できて、ビジネスの方向性も決まってくるんです。例えば、北欧に特化した旅行会社を運営するある受講生は、「ツアーになかなか人が集まらない」と悩んでいたので、「なぜ北欧なのか?」を時間をかけて一緒に追究しました。そのなかで、彼女が出した答えは「国民の幸福度が世界第一位といわれるデンマークのライフスタイルを伝えたい」というメッセージでした。一度方向性が決まってからは、北欧のライフスタイルに関するシンポジウムを企画するなど、今までとは違った企画の打ち出し方をするようになり、より多くの注目を集めることができました。ツアーにも予約が殺到しています。
- 近藤:キーメッセージを固めることは、自分の強みに気づくことでもあります。個人事業主に限らず、企業に勤めるワーキングマザーの方も、自分がこだわりたいことを見つめ直してみることで、強みが見えてくるのではないでしょうか。
- 富田:カリキュラムのもう一つの柱は集客のためのツール作成です。例えば「名刺」「プロフィール写真とシート」「事業内容」「商品メニュー」などの要素を合わせたホームページなどです。セルフキーワードがしっかり整理されていれば掲載内容などを考えることは難しくありませんが、ITが苦手な人も多いので、授業で一緒につくれるのは嬉しい成果物になるのではないでしょうか。
- また、集客のための定期的な情報発信も、近年はFacebookやyoutube、HPなどが主流ですが、やみくもにFacebookやyoutubeを始めればよいというわけではありません。事業の内容によっては、フライヤーやポスターをつくって地域のお客さまに訴える方法も効果的ですよね。そのあたりもしっかり学びます。
- 近藤:メディアを選んで情報を発信するという意味では、「自分自身がメディアになる」という考えかたも大事かもしれませんね。ママ大の新カリキュラムでは、自分をメディア化するプログラムにも力を注いでいきます。
- ――「メディア化」という考え方は、企業に勤めている人にも役立ちそうですね。
- 富田:そうですね。企業の情報発信に取り組んでいる方も、メディア化の視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。商品やサービスの情報を宣伝するだけでなく、「何を大切に思っているか」というキーメッセージを発信し、それに惹かれる人とコミュニケーションしていくことが、より良い顧客の獲得と信頼につながる可能性は大きいと思います。
- ――起業という働き方の楽しさややりがいを広めていくことで、女性の働き方が少しずつ変わっていきそうですね。
- 富田:女性にとどまらないかもしれません。経済と同時に、やりがいや喜びをどん欲に追求する働き方は、近い将来、一つの潮流になっていくのではないでしょうか。
- 近藤:ママ大を卒業した一人ひとりにロールモデルとして活躍してもらい、「こどもを育てながら働くってこんなに幸せなんだ」と感じる人が増えていけば、と願っています。
- 卒業生の声
ママ大の講義を通じてビジネスの方向性が決まった - バルーンギャラリー代表 小林由希子さん
- 第二子出産をきっかけに、勤めていたブライダル関係の会社を退職し、以前から趣味であり特技でもあったバルーンアートを専門に手がける会社を興しました。キッズパーティーやウェディング、企業様のイベント装飾など少しずつ仕事の幅は広がっていたものの、「バルーン装飾は私の仕事といえるのかな?」という漠然とした不安があり、ママ大に興味を持ちました。経理などの知識から起業家マインド、メディアの使い方まで、私が知りたいことを網羅した内容だったことが、入学の決め手になりました。
- 受講内容で印象に残っているのが、「どうしてバルーンなの?」と近藤さんや同級生からとにかく突っ込まれ続けたこと。初めは「可愛いから」「こどもも大人も喜んでくれるから」など漠然とした理由しか浮かばず、苦しかったですね。でも、自分の思いを掘り下げていくうちに、「バルーンを飾ったパーティーを通じて、こどもたちは『自分は愛されて育ったんだ』という記憶を大人になっても持ち続けることができる。私は"愛された記憶"をつくるお手伝いがしたい」というキーメッセージが明確になりました。
- 自分の中に確固としたキーメッセージができてからは、私の思いに共鳴していただけるお客さまと次々にご縁が生まれ、幸せにお仕事をさせていただいています。
プロフェッショナルな女性起業家を養成するための経営塾。起業に必要な心構えから、自分の強みを見つける考え方、依頼が増えるコンテンツ作成まで、実践型プログラムを通して学ぶことができる。カリキュラム卒業後は、企業・団体とのマッチングサポートも充実。
文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ