仕事のプロ
コクヨが追求するインクルーシブデザインのあり方とは?
「HOWS DESIGN」によるモノづくり・コトづくり

コクヨ株式会社では近年、コクヨが「HOWS DESIGN」という手法を通じたモノづくり・コトづくりを進めています。「HOWS DESIGN」を通じて目指す社会のあり方や、すでに誕生した製品、今後の目標などについて、この手法を通じた製品開発やオフィス構築にも携わっているMANA-Biz編集長の栗木妙が解説します。
コクヨが考えるインクルーシブデザイン
コクヨ株式会社では、特例子会社・コクヨKハートや社外パートナーと共に、「インクルーシブデザインワークショップ」というプロセスを通じた製品やサービスの開発を始めています。コクヨが考えるインクルーシブデザインのモノ・コトづくり手法を「HOWS DESIGN」と名付けています。2024年にも文房具やオフィス家具など28の「HOWS DESIGN」商品が誕生しています。 「HOWS DESIGN」の内容をご説明する前に、「インクルーシブデザイン」についてふれておきましょう。インクルーシブデザインとは、多くの製品・サービスにおいて多様な特性を持つ方々を開発段階から積極的に巻きこんだ、包括的(インクルーシブ)なデザインを指します。 例えば左利きの人は、日常生活でさまざまな不便を感じています。駅の改札などの公共設備が右利きの人が使いやすい仕様になっていたり、急須やハサミといった日用品の中にも右利きの人を前提につくられているモノがたくさんあるからです。つくり手が社会のマジョリティである右利きの人にとって使いやすい製品を無意識に目指した結果、左利きの人は使いにくさや不便を感じる場面が多いのではないでしょうか。 マジョリティの人を対象としたモノづくり・コトづくりが行われる一方、その陰で不便・不自由を感じている人は社会にたくさん存在します。 左利きの方のほか、車いすユーザーや肢体不自由の方、視覚や聴覚に障がいを抱えている方など、枚挙にいとまがありません。 コクヨでは、多様な方々とのワークショップを通してこれまで吸い上げられていなかった声を聞き、製品・サービスの開発を一緒に行い、ダイバーシティの実現を目指していきたいと考えています。
オフィス用品や家具など 幅広いユーザーに届く製品が誕生
ただし私たちは、「HOWS DESIGN」によって、マイノリティの方々に向けたニッチな製品・サービス開発を行っているわけではありません。誰かの不便を解決する商品は、その他多くの方にとっての「使いやすさ」にもつながると考えています。 「HOWS DESIGN」によるモノづくり・コトづくりをご理解いただくために、開発の一例として、実際の製品を3つご紹介しましょう。
持ちやすいバンド付きIDカードホルダー

この商品は、「新しい仕様のカードホルダーを作る」という商品中心ではなく、「車いすユーザーがオフィス内を移動する際、IDカードをカードリーダーにかざすのが大変だという社員の声(=課題)」から開発が始まりました。議論を重ねる中で、車いすユーザーだけでなく、例えば両手が荷物でふさがっている時なども、IDカードをリーダーにかざしづらいと感じている人が意外と多いことがわかりました。そしてその問題を解決するために、カードリーダーの横に荷物を置くためのスツールを設置していましたが、そのスツールがあることで、車いすユーザーはさらにカードをかざしにくくなっていたという事態が見えてきました。 多様なメンバーでワークショップを重ねながら生まれたのが、「ホルダーに指を入れられるバンドを付ける」というアイデアです。誰かの課題からみんなにとっての課題が浮彫になり、結果、みんなにとって使いやすい商品が生まれました。
キャンパス 青色シートで覚える暗記用ペンセット

カフェ・ラウンジ用チェアー「Hemming<ヘミング>」

多様なメンバーで対話しながらじっくり開発
「HOWS DESIGN」の開発プロセスをご覧いただくと、私たちが「肢体不自由な方に向けた家具を作ろう」「色覚特性のある人向けに設計しよう」といった視点だけで開発に取り組んだわけではないことが、ご理解いただけるのではないでしょうか。 確かに、さまざまな特性を持つ方々が便利で安心して使える製品を目指しています。しかし、それだけでなく、「HOWS DESIGN」を通じたモノづくり・コトづくりによって、より多くの人にとって使いやすいものを生み出せると、大きな可能性を感じています。 インクルーシブデザインによる製品開発のため、私たちは以下のプロセスで、多様なメンバーと対話を重ねながら取り組んでいます。 ① 社会のバリア(困りごと)を見つける ② 解決策のアイデアを検討する ③ 試作品で検証する ④ 具体的な商品やサービスで検証する 多くの対話を重ねながら試行錯誤を繰り返し、ときには開発の方向性を見直したり、新しい視点を取り入れたりしながら、じっくりと進めています。通常の製品開発より時間はかかりますが、対話を重ねた分だけ、多様な人にとって使いやすい製品やサービスが生まれると考えています。
将来的にはすべての新製品・サービスを 「HOWS DESIGN」によって生み出したい
コクヨでは、2024年度に掲げた「全製品・サービスのうち2割をHOWS DESIGNによって生み出す」という目標を達成することができました。しかし、私たちはまだまだ満足していません。将来的には、コクヨからリリースするすべての製品を「HOWS DESIGN」マークが付いたものにすることを目指し、チャレンジを続けています。




栗木 妙(Tae Kuriki)
コクヨ株式会社ワークスタイルイノベーション部MANA-Biz編集長。働き方のトレンドリサーチ、コクヨのオウンドメディア『MANA-Biz』を運営。専門はダイバーシティ&インクルージョン。