仕事のプロ
2016.07.13
次世代型 "クリティカルワーカー" を育てる〈前編〉
“能力発掘型インターンシップ” で原石を見いだす
「後輩にオススメしたいインターンシップランキング」(Jobweb調べ)で6年連続1位を獲得している(株)ワークスアプリケーションズ。大手企業向けERP(統合業務)パッケージソフトの開発・販売で国内トップシェアを誇る、クリエイター集団だ。多くの企業が学生に職場体験の機会を提供することを目的としたインターンシップを行うなか、同社では問題解決能力の高い人材を発掘するための異色のプログラムを展開している。その取り組みの背景や狙いについて、人材開発室長の佐藤文亮さんに伺った。
価値ある原石を発掘するためには
コストも手間も厭わない
参加者が創ったシステムは、審査により評価される。そして、最終審査を経て選ばれた優秀者は、「入社パス」を手にする。これはいわゆる内定とは異なり、言うなれば入社権利だ。年間で約200〜300名程度が手にするこのパスポートは大学卒業後3年間有効で、すぐに入社しなくても構わない。海外留学や大学院進学、なかには他社への就職を経て同社に入社する人もいるという。つまり、「入社パス」を与えられた人材は、猶予を設けてでもほしいほど高い能力を持った人材だということだ。
同社では、このインターンシップを人材発掘・開発・育成の最重要プロジェクトに位置づけている。インターンシップは同社で仕事をするのと同じ実務労働であるという考えから、すべての参加者に給与として報酬が支払われており、応募や審査も含めてインターンシップ全体にかかる費用は年間数十億円にも上ると言う。
また、期間中、現場の最前線で活躍するリーダークラスの社員は通常業務を一切離れて、メンターとして参加者につきっきりになることから、現場にかかる負担も大きい。しかも、参加者のうち入社に値する人材は一握りにすぎず、「入社パス」を手にしても他社に就職する可能性もある。しかし、それだけのコストをかける価値がインターンシップにはあると、佐藤さんは言う。
「当社のインターンシップは、いわば社会の未来を担う原石の発掘です。高い問題解決能力を持った人というのは、多くはありません。希少な原石を探し出すには、それ相応のコストも手間もかかるのです。たった数日のインターンシップでは、原石の価値をはかることはできません。せっかく見いだした原石を他社に奪われてしまうかもしれませんが、それでもいいと考えています。その人がクリティカルワーカーとしてイキイキと活躍できる場で働けるのであれば、必ずや社会に貢献し、巡り巡って私たちにもプラスにはたらくと考えています」
インターンシップを通して
社会を支える次世代を育成する
たとえ「入社パス」を手にできなくても、同社のインターンシップに参加して一つのことを深く考え抜く経験をしたことで、ものの考え方や見方がまったく変わった、"はたらく"ことの価値観が覆された、と語る学生も少なくない。こうした参加者の声が口コミで広がり、今や参加するのさえ難しいほどの人気を博している。
一方、同社のインターンシップは、社会に出てクリティカルワークに向き合うことになる学生、つまり、未来を担う次世代人材を育成するという意味合いも強い。インターンシップを通して多くの学生と接するなかで浮き彫りになってきたのが、大学合格を目標にした偏差値教育の弊害・課題だ。「相対的評価を過度に重視する学生、知識偏重型で創造力が乏しい学生、そして何より、なぜ社会に出るのか、社会に出て何をするのかという社会や仕事に対する意識や価値観が希薄な学生が多い」と佐藤さんは危惧する。
そこで同社が始めたのが、いま求められる「21世紀型キャリア教育」の提唱だ。昨年からは、大学に向けたキャリア教育コンテンツの提供も始めた。「パトスロゴス」と名付けた基礎教養講座では、佐藤さんが講師を務めている。昨年は、京都大学、大阪大学、神戸大学、九州大学、早稲田大学の学生など約200名が受講した。佐藤さんは現在、名古屋大学の非常勤講師を務め、早稲田大学、立教大学ではゲストスピーカーとして講義を受け持っている。
後編では、「21世紀型キャリア教育」で目指すものは何なのか、そして、これからの社会や組織で求められるのはどのような人材・能力なのかについて、引き続き佐藤さんにお聞きする。
クリティカルワーカーを
発掘するための選抜の場
ワークスアプリケーションズのインターンシップのコンセプトは、"問題解決能力発掘"。「自分で問題を見つけ出し、それを解決するアイデアを生み出し、モノ(システム)を創り上げていくことができる"クリティカルワーカー"を発掘するための選抜の場」と佐藤さんは言い切る。
2002年から行われている同社のインターンシップには、世界から毎年約80,000名もの学生がエントリーする。そのうち筆記試験など複数回の審査を経てインターンシップに参加できるのは、2,000名程度。国内に限らず海外にも展開し、現在は世界9都市でインターンシップを開催している。
プログラムはいたってシンプルだ。例えば、「世界中の美術館で働く人たちがワクワクできるアプリケーションを創れ」や「空港で働く人たちがより快適に仕事ができるようなアプリを考えよ」というような、明確な答えのない課題(クリティカルワーク)に挑戦させる。このように参加者には、たった一文の問いが与えられるだけで、自ら解を見出してそれに見合うアプリケーションを開発してもらうのだが、会社紹介も職場体験もなければ、課題についてのレクチャーも一切ない。学生にとっては、自分だけの力で徹底して考え抜く、自らの問題解決能力を試す場になっている。
知識や情報は借り物に過ぎない
自分の頭でゼロから考える
インターンシップの期間は年により異なるがだいたい1カ月で、その間、参加者は課題に対する解決策をひたすら考え、生み出したアイデアを最終的にはシステムというかたちに創り上げていく。最前線で活躍する社員がメンターとしてつくが、具体的なアドバイスも技術指導もしない。学生のプレゼンテーションに対して、ヒントをフィードバックするのみだ。必要なプログラミングの知識についても、テキストを1冊渡すだけで参加者自ら習得させる。さらに、インターネットを使用禁止にすることで、外部からの情報や既存の知識を参考にするのではなく、自分の頭でゼロから考えざるを得ない状況をつくっている。
「例えば、美術館ってどんなところでどんな人が働いているのだろう、彼らは何に喜びを感じ、どんなことに不便を感じているだろう...と、自分の中でイメージを膨らませ、仮説を立て、現状の問題点やその理由を考え、さらにどうあればいいかという理想像を描く。そのうえで、理想と現実のギャップはどうすれば埋められるのか、どんなアプリケーションを創ればいいかを、要素を分解して具体的に考えていきます。インターネットや書籍などからの借り物ではなく、自分で考え、気づき、創造していくというプロセスを通して、参加者は問題へのアプローチ法や気づきを手にしていくのです」