仕事のプロ

2016.11.25

ワールドライブラリーにみる「ミッション×ビジネス」の実現法

業界の常識を疑えば新しいビジネスモデルが見える

「ビジネスのキーメッセージが決まれば、課題を乗り越えるアイデアは必ず見えてきます」と訴えるのは、株式会社ワールドライブラリーの林佑次さん。同社では海外絵本の翻訳出版を手がけているが、書店販売ではなくレンタルサービスが主流というユニークな方法で商品を流通させているのが特徴だ。なぜこのようなビジネスモデルを展開するに至ったのかを伺い、自ら信じたミッションを形にするための方法を探ってみた。

しかし、林さんはあきらめなかった。なぜならプロモーション活動を行うなかで、改めて自分の使命が見えてきたからだ。
「プロモーション活動を続けるうちに、『絵本を通じて海外の文化や価値観を日本の子どもたちに届け、国際感覚の醸成に貢献したい』という自分の思いに気づきました」
 このキーメッセージが固まったとき、ふと「子どもに文化を届けるのが目的なら、自社で翻訳出版を行ってもいいのではないか」と気づいたという林さん。会社には絵本制作のノウハウがあるし、エージェント活動を行ってきた経験から絵本の版権取得方法もすでにわかっている。新事業として絵本の翻訳出版部門を立ち上げることは不可能ではないはずだ。
だが、ここでネックとなったのが書店での販売だった。
「書店売りなら最低でも初版3000部がマストですが、私たちの事業規模ではその余裕はなく、1000部程度が限界です。海外出版社との版権交渉では、まずはそこを納得してもらう必要がありました」
ただ、実際に交渉を始めてみると、多くの出版社から予想以上の好感触が得られた。というのも、これまで絵本の翻訳出版はエージェントを通じて行われることがほとんどだったため、エージェントの目にとまらない作品もたくさんあり、「どうやって日本市場に入り込んだらいいかわからない」と悩む海外の出版社は少なくなかったのだ。このような会社は、少部数であっても自分たちの絵本が日本で紹介されることを望み、林さんの提示する条件を喜んで受け入れたという。
部数の問題とあわせて、流通の問題も解決する必要があった。どんな場所なら子どもが絵本を手に取ってくれるだろう? と考えるなかで保育施設やクリニックなどが浮かんだ。また、レンタルサービスの形で提供するというアイデアもわいてきた。1冊ごとの部数は小規模でも、幅広い国の絵本をセットで扱うことが価値を生むと考えたのだ。
さらに、レンタルという形には、書店売りにはない大きな可能性がある。子どもは同じ絵本を何度も読むのが好きだし、一方で保護者は「いろいろな絵本を読ませてあげたい」と考える場合が多い。その意味で、レンタルサービスなら双方のニーズにフィットするのだ。
こうして翻訳絵本ビジネスの具体的な形が見えてきた。その後、絵本の翻訳出版事業部門が分社化され、2015年に株式会社ワールドライブラリーは本格スタートを切っている。


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ブレない軸のもとに営業と
プロモーション活動を展開


同社では現在、全国に約200件の顧客にレンタルサービスを提供している。異文化・多文化教育や英語教育、絵本の読み聞かせに力を入れている幼稚園・保育園などを新聞やWEBで探したうえでサービス提案の電話をかけたり、クリニックや歯科医院に向けた認知活動として学会にブース出展をしたりと、アイデアを振り絞って営業活動を行っている。
「もちろん初めから営業活動が順調にいったわけではありません。例えば保育園に置いてもらうといっても、出版の実績が少ない頃は、私たちの事業をイメージしていただくこと自体が難しかったのも事実です。また、そのなかでも、業界を絞らずいろいろな方にお会いするうちに、お付き合いしてくださるクリニックや保育園が少しずつ増えてきました」
さらに、各国の大使館に協力を要請してリーディングイベントを共催するなど、プロモーションのためのイベントにも力を入れている。
新規顧客へのアプローチについて、林さんは次のように説明する。
「グローバルやダイバーシティ、女性の社会進出といった今の時代のテーマと、弊社のサービスは相性がよいと考えています。ですから、このようなテーマで他との差別化をはかっていらっしゃる施設や企業のお客さまに向けてレンタルサービスのアプローチをかけています。ありがたいことに『子どもに海外の文化を届ける』という考え方を応援して下さる方は多く、お客さまから別の営業先をご紹介いただけるケースも増えています」

設立2年目を迎えた同社にとって大きな自信になったのは、解約率の低さだった。「レンタルという方法がベストかどうかはまだ試行錯誤中ですが、私たちのめざすコンセプト自体はお客さまに受け入れていただけたのだと実感しています」と林さんは語り、ワールドライブラリーの世界観を伝える総合キッズブランドを展開したい、と将来の展望を描く。
「何のために海外の絵本を扱うのか」という根本的な問いを突き詰め、自分なりに答えを出した林さん。だからこそ同社は、揺るぎない軸をもって事業を展開し、顧客からの支持を得つつある。新規事業の展開には常に迷いがつきまとうが、ビジネスの目的に立ち戻って考えれば、既成概念を覆す方法を生み出すことは不可能ではないはずだ。

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株式会社ワールドライブラリー

「絵本を開くと、世界が開く。」をキャッチフレーズに海外の絵本を翻訳出版し、レンタルサービスなどの形で子どもたちに届ける事業を展開する。今までになかったビジネスモデルが評価され、2016年にキッズデザイン賞を受賞。2016年度からは、厳選した絵本を定期的に個人宅に届ける「マンスリーブッククラブ」という買い切りサービスも開始。各国大使館との共催による読み聞かせイベントなども精力的に行っている。詳しい事業内容や新刊、イベントのご案内はこちらまで。

文/横堀夏代 写真/曳野若菜