仕事のプロ
2017.05.29
長野県上田市発信!地域活性化のメソッド〈後編〉
中間支援の立場から人同士をつなげ、新しい動きを促進
長野県上田市のHanaLab.(ハナラボ)は、「地域でワクワク働ける社会づくり」というビジョンをもとに、3つの拠点を持ちながら活動する組織だ。代表理事の井上拓磨氏に、HanaLab.で手がけてきた人材育成や創業支援の取り組みについてお伺いし、地域活性化のあり方を探ってみた。
地域のワーカー同士がつながる
場づくりで創業支援の一端を担う
井上拓磨氏がHanaLab.第一の拠点として上田市常田で立ち上げたコワーキングスペースHanaLab.TOKIDAには、地元のベンチャー企業の創業者や起業を目指す人、個人事業主などが少しずつ集まり始めた。実際に起業する人も増えてきた。ただし、井上氏が期待したようなネットワークがすぐに生まれたわけではない。HanaLab.TOKIDAはフリースペース主体の施設だが、個室ブースに人気が集中し、利用者同士の交流が生まれにくかったのだ。
そこで井上氏は、コミュニケーションポイントをつくろうと考え、ランチ会やコーヒーブレイクの時間を設け、イベントや勉強会を企画した。今まで接点のなかったワーカーたちでも、話をしてみると共通したビジネス課題を抱えているケースが多く、利用者同士のネットワークが急速に発展した。「これがまさにHanaLab.の考える"創業支援"です」と井上氏は語る。
「創業支援といっても、僕たちが資金などを支援するのではなく、利用者同士がコミュニケーションできる場をつくって、相互支援を促すイメージです。困り事を話し合ったり、仕事を受発注したりしてお互いのビジネスが発展すれば、そこにHanaLab.の意義があるのではないでしょうか」
HanaLab.TOKIDAには、「起業したいけれど何をしていいかわからない」と相談に来る人もいる。井上氏は、このような起業家予備軍も大切にしていきたいと語る。
「今は自分の志向がわからなくても、HanaLab.でいろいろな人に出会うことで、やりたいことが見えてくる場合はあります。予備軍のモチベーションを上げていくことも、大切な人材育成だと考えています」
中間支援組織が
地域活性化のエンジンに
HanaLab.TOKIDAの利用者が少しずつ増えて場所が手狭になったことから、2015年には女性の利用者を意識したHanaLab.UNNO、そしてHanaLab.CAMPという新しい拠点をオープンさせた。それぞれの拠点では、多様なネットワークが生まれた。自然エネルギーに関心をもつメンバーが集まって地域発電「相乗りくん事業」を立ち上げたり、地元のオーディオ機器メーカーからビジネスモデル構築プロジェクトの依頼をHanaLab.に集まる企業数社が手分けして手がけたりと、新しいビジネスが次々と起こっている。5社の地元企業が協同で学生インターンを受け入れるプロジェクトから「Loppis
Ueda」が誕生するなど、今までの上田市にはなかった取り組みも行われるようになった。
HanaLab.は、これらのプロジェクトがスムーズに進むように、調整やサポートを行う中間支援の役割を担ってきた。中間支援を手がけるうえで大切なのは、共通課題の設定だという。
「複数の関係者と個別に話して、どんな課題を感じているのかを聞くことから始めます。言葉はいろいろでも、課題は一つに集約できることが多いですね。共通課題が見えればプロジェクトの内容も決まってきます」
それにしても、HanaLab.の活動内容を知るにつれ、井上氏の「人と人をつなげる力」には驚かざるを得ない。どのように働きかけているのだろうか?
「HanaLab.にはフリーランサーや民間企業の方、市役所の方などいろいろな人が出入りしますが、組織に属する人でも、ここでは個と個でつながり、フラットな関係を築き上げています。僕の役割は、『この人とあの人が組んだら、面白いことが起きるかもしれない』などと考えながら、プロジェクトやイベントの内容に応じてどの人に核になってもらうかを検討し、声をかけること。プロジェクトやイベントを一つやりきると、所属や立場が違う人の間に交流が生まれ、また新しいプロジェクトにつながることもあります」
井上 拓磨(Inoue Takuma)
愛知県名古屋市生まれ。信州大学大学院を卒業後、大日本印刷株式会社に勤務し、液晶テレビ部材の新工場立ち上げに従事。退社後、上田市に移住し、フリーランスとしてモバイルコンテンツの企画・制作に携わる。2012年にHanaLab.を創設。HanaLab.の取り組みは、内閣府の「新しい公共の場づくりのためのモデル事業」などに採択され、2013年には信州協同大賞優秀賞を受賞している。