仕事のプロ
2018.04.20
エアークローゼットにみる行動力が導くビジネスの展開法〈後編〉
ブレのないサービスは行動指針の徹底共有から
プロのスタイリストが女性顧客一人ひとりのために似合う洋服を選び、レンタル制で毎月届けるファッションレンタルサービス「エアークローゼット」。後編では、このサービスを運営する株式会社エアークローゼットの代表取締役社長 兼 CEOである天沼聰氏に、新感覚のビジネスを支える組織づくりについてお聞きした。
ニックネーム制や握手で
コミュニケーションを醸成
今までになかったサービスを提供するエアークローゼットは、企業文化もユニークだ。その一例として、互いを名字ではなくニックネームで呼び合う習慣が挙げられる。天沼氏のニックネームである「アッシュ」をはじめ、「ライアン」「ナタリー」などの呼び名が社内で飛び交う。
このニックネーム制は、海外展開も見据えて取り入れたとのこと。社員たちの名刺にも、それぞれのニックネームが英語表記で記載されている。ただしネーミング上のルールは特になく、「サクちゃん」など日本的なニックネームを選ぶメンバーもいるそうだ。社長室の坂本香奈恵さんは、「ニックネーム以外で呼ばれる機会がほとんどないので、『坂本さん』と声をかけられても、どう反応していいかわからない」と笑う。
また、退社する社員は残っているメンバー全員と毎日握手して帰る習慣も根づいている。別れぎわの握手は、もともとは天沼氏が海外生活を送る中でいつの間にか身につけた習慣だった。創業間もないころ、いつものように手を差し出した天沼氏にあるメンバーが「握手ってとてもいいですよね」と言ったことから同社の握手文化が始まり、今日まで続いているそうだ。
握手を交わすときには、「お疲れさま」「ちょっと風邪っぽくない?」などちょっとした言葉をかけ合うため、コミュニケーションを取りやすい雰囲気が生まれる。
ニックネーム制や握手タイムの導入について、天沼氏は次のように説明する。
「まだ創業から4年弱ですが、組織が急速に拡大し、現在では業務委託のスタッフなども含めるとオフィスで働くメンバーは約80人に達しています。情報共有に難しさが出てきているため、格差をできるだけつくらないためにも、普段からのコミュニケーション醸成を大切にしています。その一環として、社内の専用ネットワークを通じて私が社員からの質問を受け、全社会議で回答する機会も設けています。学生サークルっぽいダラダラした仲のよさではなく、信頼関係で結ばれたプロフェッショナル集団でありたいですね」
行動指針「9Hearts」の精神を
メンバー間に徹底的に浸透させる
同社の企業活動の基本にあるのが、「9Hearts」と名付けられる同社の行動指針だ。同社の業務に携わるメンバーがあるべき姿を「お客様の感動が第一」「全力で楽しむ!」など9つのキーワードで表現したこの指針は、天沼氏が創業メンバーと共に、「こういう考え方や行動はカッコいいよね」と意識のすり合わせを行いながらつくったものだという。
「9Hearts」の価値観がメンバー全員に浸透するよう、天沼氏はさまざまな機会をつくり自分の思いを発信している。その一環として、毎週の全社会議では冒頭30分にスピーチを行い、「9Hearts」に沿った内容をメンバーに語りかけている。例えば「失敗を恐れるな」というキーワードについては、「失敗しても組織の中で責められることはない。大切なのは失敗から学んで成長することだ」という話をしたそうだ。「9Hearts」を重視する理由を天沼氏は次のように話す。
「『法人格』という言葉があるように、法人も社会の中では一つの人格です。しかし、組織を形成するメンバーの考えがバラバラだと、その組織は多重人格の様相を呈し、社会で信頼を得ることができなくなってしまうでしょう。メンバーの価値観を統一するには、行動指針である9Heartsに基づくメッセージを繰り返し送ることが大切だと考えています。それが『社長』という役割を任せてもらっている私の役割です」
「お客さまの感動が第一」をはじめとするメンバーの価値観が統一されていれば、一人ひとりの個性を生かしながらもブレのないサービスをつくり出すことができる。このようなサービスは、顧客の目には「信頼を裏切らないサービス」と映る。同社のユーザー数が拡大を続ける一因は、社内で繰り返し価値観の共有が行われているところにあるようだ。
株式会社エアークローゼット
“新しいライフスタイルをつくる”を理念に株式会社ノイエジークとして2014年設立(2015年に「株式会社エアークローゼット」に商号変更)。2015年2月に女性向けファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」の提供を開始し、現在は登録会員数15万人に。ファッションスタイリングサービス「pickss(ピックス)」や、不動産会社エイブルと提携運営する実店舗「airCloset×ABLE(エアークローゼットエイブル)」など、新形態のビジネスも続々と展開している。