仕事のプロ

2018.05.21

現場の声からスタートした、三菱地所設計の『働き方改革』〈前編〉

入社3年目の若者が挑戦した、できることから始める『働き方改革』

三菱地所設計は、日本を代表するまちづくりのリーディングカンパニーである三菱地所グループの一員として、128年の歴史と実績を誇る組織設計事務所。2014年から始まった『働き方改革』の取り組みは一社員の推進によって拡大されてきた。どのようにして協力者を巻き込み、『働き方改革』を推進したのか。『働き方改革』をけん引してきた株式会社三菱地所設計経営企画部副主事の飯井郁弥さんに話を伺った。

わからないことは、
外部から学ぶ

経営企画室も立ち上がり、『働き方改革』に取り組める環境は整ったが、推進役を任された飯井さん自身、入社4年目とキャリアが浅く、社内ネットワークもない。そのため、最初はどこから手をつけるべきかわからない、手探りの状態だった。それゆえまず着手したのが、外部からの情報収集である。

働き方改革関連のイベントなどに参加して、いち早く『働き方改革』に取り組んでいる先進企業や、それを支援している企業などを回り、取り組み事例や施策内容などをヒアリングした。そこで各企業が共通して力を入れていたのが、「(時間や場所にしばられない)フレキシブルワークスタイル」に向けた取り組みだった。

「イベントなどで多くの企業とつながりをもつことができました。ある企業の推進者に、当社で『フレキシブルワークスタイル』を進めるために、どのようなことを押さえるべきか質問したところ、4つの視点で整理することが必要だとアドバイスをいただきました」それが、以下である。

①ビジョン明示、意識・行動変革(自分たちの意識や行動が変わること) 
②制度・ルール(人事制度などによって時間の枠も自由にできる)
①ICTの活用(ICTが整うとリモートワークなどが実現できる)
④オフィス環境 

そして、収集した事例などをもとに考えられる施策を洗い出し、そこから、この4つの視点で、自分たちの会社に最適な施策に優先順位をつけて、取り組んでみることにした。


まずはできることから
スタートする

「初めの一歩はスモールスタート。これが重要です」と飯井さんは話す。

「当社のような歴史のある企業は、しっかりやろうとするあまり、いろいろと考えすぎて後手に回ってしまう傾向があります。別のCSTチームの提案で「出島でやってみなはれ」というものがありました。意図するところは、先進的であり続けるためにも、小さなことでいいので、トライ&エラーで、走りながら、考えて変えていこうというもので、これを実践してみようと思ったんです」

いろいろな『働き方改革』の施策がある中で、どのように優先順位をつければいいのか。飯井さん曰く、3つのポイントがあるという。それが、①『ニーズが高いこと』、②『(効果を上げれば)社員の反響が大きいこと』、③『学べばすぐに習得できる領域の施策であること』。この観点で選んだのが、三菱地所設計の場合『ICTの活用』だった。

「社内のさまざまなワーキンググループからも、『ICTの活用が遅れている』という課題があがっていましたし、社員が図面や過去の打ち合わせ資料を詰め込んだ大きな紙袋を両手に抱えて、打ち合わせに出かける姿をよく見かけていたので、ICTを活用することで資料や情報を電子化し、クラウドストレージやタブレット端末を使って社外でも閲覧できるようにしたんです」

事実、新たなICTサービスをスタートした際には、多くの社員から高い評価を得て、飯井さんは自信をもてたと言う。

同社が『働き方改革』の一歩を踏み出せたのは、一社員の行動力からである。手探りながらも、ビジョンを明確にし、外部から学び、自社のニーズに合致する施策を選んでいく。
その際、"ニーズが高く"、"効果がわかりやすく"、"着手しやすい"という点で施策をしぼり、とにかくアクションを起こすこと。それが、ボトムアップで『働き方改革』を始めるポイントになるようだ。

後編では、どのようにして社内の理解を得ていったのか。その戦略や、社内にイノベーションを起こすための心がまえなどを詳しく伺った。

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飯井 郁弥(Ii Fumiya)

2010年、株式会社三菱地所設計に入社。主に経理業務を担当後、2014年より経営企画担当者として、先進企業事例の収集、システム企画の一環でBoxアプリ検証をするなど、社内初の働き方改革の取り組みに着手。その後、ICT配備計画等の整備を進める他、総務省のテレワーク実証事業などにも参画。2017年より社員向けに意識改革セミナー開催、会議改革に着手するなど、働き方改革推進委員として、同社の働き方改革を牽引する。


三菱地所設計
1890年三菱社によって創設された「丸ノ内建築所」に始まり、現在は三菱地所グループの技術中核会社として、グループ内外問わず多くのエポックメイキングなプロジェクトに携わる組織設計事務所。従来の事業領域にとどまらず、建築・都市に関連するコンサルティング事業も手掛ける。

文/西谷忠和 撮影/石河正武