仕事のプロ

2025.03.28

子育てはキャリアにマイナスではなく、幅を拡げるチャンス

キャリアを考える:子育てと仕事のキャリア

自分が想い描くキャリアの実現に向けて仕事に取り組んできた女性にとって、出産は大きなキャリアの転機に。仕事と子育てとの両立期のキャリアをどう考えるべきなのか。キャリアを考える連載第10回目の今回は、仕事と子育ての両立について、コクヨのキャリアコンサルタントの阿部みどりが解説する。

社員と職場それぞれがぶつかる、仕事と子育ての両立の壁

働く女性にとって、人生全体のキャリアを考える際にとりわけ悩ましいテーマの一つが仕事と子育ての両立です。
第一子出産後の就業継続率は年々上昇し、共働きが増加していますが、「子育ての中心は女性が担うもの」という意識は、企業内にも世間一般にも根強く残っている現状があります。そのため、時短勤務に切り替えたり、突発的な事態への対応など、さまざまな制約が女性に集中することがまだまだ多いと感じています。

例えば、子どもが体調を崩すと同僚に仕事を任せて早退する、会議の予定を変更してもらうなど、急な業務調整が必要になります。また、どちらが休みを取るかで配偶者ともめたり、祖父母に頼らざるを得なかったりするうちに、「周りに迷惑をかけてしまっている」と気に病み、このまま仕事を続けるのは無理だと感じてしまう場合も多いようです。私も子どもが2人いますが、子どもが小さい頃は何度もそう感じたことがあります。

また、育児の状況や仕事に対する考え方には個人差があるため、良かれと思った職場の配慮が本人の希望にそぐわない場合もあります。極端な例ですが、育児休暇から復職した際、負担を減らそうと残業の少ない部署に配置転換したり、責任ある立場から外したりしたことが、本人の働きがいをそぐ場合も考えられます。個々の状況だけでなく、本人のキャリアに対する考え方によって仕事への向き合い方が異なるため、一律に『この対応が正解』と言えない難しさがあります。




中長期的にキャリアを見据えて、今を乗り切るための工夫を

育休復帰前にあれこれ考えすぎて不安になったり、時間の制約やサポートの有無など、さまざまな理由から退職してしまう人もまだ多くいます。2023年に厚生労働省が出した資料では約3割の女性が出産を機に退職を選択しているというデータがあります。短期的に考えると両立は難しいと感じるかもしれませんが、実際はやってみないとわからないもの。復職するための準備として頼れるサービスを探しておくといいでしょう。復帰のタイミングで保育園に入れなかったとしても、認定こども園、幼稚園、保育ママなどを利用できる場合もあります。
また、仕事についての不安や要望を会社に伝えることも重要です。どんな働き方をしたいか、何が出来て何が出来ないかを相談してみてください。
現在、在宅勤務など働き方の選択肢も増えてきています。一昔前までは「残業ができない社員は使えない」といった風潮の企業もあったようですが、今はむしろ生産性や効率の良さが評価される時代に変わりつつあります。そうした背景からも、子育てをしながら働くことは、以前ほどキャリアにマイナスではなくなってきているはずです。

私自身、以前男性のキャリアコンサルタントに「育児をしながら仕事もされていて、とても価値あるキャリアを築いていますね」という言葉をかけてもらった経験があります。まさに人生の中で今この時にしか積めないキャリアがあるはずです。
子育て期はキャリアを横に拡げる絶好のチャンス。仕事中心の生活だと人間関係も職場中心になりがちですが、子育てを通して地域社会や学校など、新しいつながりをつくることができますから。そうした出会いがキャリアの面でもプラスにつながることも大いにあり得ます。




子育てと仕事を両立させるうえで必要なスキルと身に着くスキル

子育て期を価値あるキャリアにするためには、これまで以上に周囲と良好な人間関係を築く力が必要になります。突発的な事態で早退する場合など、残った人が「仕事を押しつけられた」と感じてしまうと、わだかまりが残ります。制約がある中でどれだけやれるのか、どんなサポートが必要なのか、といった意思を伝えておく。日ごろから感謝を伝え、自分が貢献できる時は積極的に申し出るといった姿勢も大切です。

子育てとの両立によって、仕事の生産性は確実に上がるはずです。限られた時間の中で成果を出す必要に迫られるため、これまで以上に仕事のやり方を工夫し、集中力や作業スピード、段取り力やコミュニケーション力などが磨かれていきます。それは中長期的に見てキャリアにプラスに働いてくれるはずです。

近い将来、「時短勤務や子育てとの両立はキャリアにマイナス」という考え方はなくなっていくでしょう。むしろ限られた時間で最大限のパフォーマンスを発揮して効率的に仕事をし、自宅に帰ってからは家族と充実した時間を過ごしている自分を誇りに思ってほしいなと思います。



阿部 みどり(Abe Midori)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
これからの変化の激しい時代の中で、働いていく『人』に焦点をあて、個の力の成長と企業の力を組み合せる事で、力を発揮し合える環境整備のお手伝いをしている。その為に、きちんと個人に寄り添う事を大切にし、それぞれのお客様に適した『働き方』を一緒に考え、整理し、目指すべき姿を具体化。一人一人が企業と共に輝ける働き方の実現に向けてサポートしている。

連載監修/河内律子(コクヨ キャリアコンサルタント)
ライター/中原絵里子