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2021.7.30[ オフィス空間 ]
新型コロナウイルス感染症の流行は、私たちの働き方とライフスタイルを完全に変えました。ニューノーマル時代の新しい働き方としてABWが注目されています。ABW導入は、ワーカーの観点からは、自律的に働くことでの作業効率と生産性の向上、ワークライフバランスの維持を容易にするという側面があり、経営の観点からも、オフィスメンテナンスのコスト削減につながる可能性があります。
ABW導入によって、働き方やオフィスはどう変わるのか?ABW導入事例をご紹介します。
目次
コクヨにおけるABWの導入事例①:個人のパフォーマンスを最大化するオフィス
コクヨにおけるABWの導入事例②:ワーカーの健康に配慮したセッティング
ABWとは、Activity Based Working(アクティビティ・ベイスド・ワーキング)の略で、働く「時間」と「場所」を、その時の業務内容や気分などに応じて、ワーカー自らが選択し決められる働き方のことを言います。
発祥はオランダで、グローバル企業で導入されているケースが多いのですが、昨今、働き方改革が活発化するなかで、新しいワークスタイルとして、日本企業でもABWが取り入れられることが増えていました。
そのような状況の中で、新型コロナウイルス感染症の流行によって、政府の方針のもと、多くのワーカーが在宅勤務や時差出勤を経験しました。働く「場所」や「時間」が意識されるようになり、それらを調整し、選択して自律的に働くことも求められるようになりました。そこで、効率的な働き方、ワークとライフのバランスの取り方、今後の働き方について考えを深めた方も多いのではないでしょうか?
一方で、経営者側の立場からも、テレワークの社員が増えることによって、どのような変化が起こるのかを身をもって知る機会となりました。
この経験を通じて、ABWの働き方がさらに注目を集めています。ABWは、働く「場所」や「時間」をワーカー自らが自律的に選択できることで、ワーカー1人1人がやる気をもって仕事に臨み、効率の良い働き方を考えるため、それぞれのパフォーマンスを引き出すことに繋がっています。
そのため、コロナ禍を経て、おそらく従前の働き方に戻ることはないでしょう。オフィス以外の場所で働くテレワークを継続し、働く場所だけでなく時間も自由に選択できるABWの導入を検討する企業が増え、ABWという働き方が浸透していくと考えられます。
ABWの導入によって、自宅やカフェ、サテライトオフィスなど働く場所の選択肢が増えれば、当然ながら全員出社を前提としたオフィスの在り方は変化するでしょう。
具体的に言えば、ABWの導入によってオフィスへの出社が必須でなくなれば、ワーカー1人1人に固定の自席は必要ないかもしれません。一方、リアルで顔を合わせてコミュニケーションをとることが出社目的になれば、会議室やミーティングスペースの充実がこれまで以上に求められます。また、オンライン/オフライン混合の会議が当たり前になった現在、WEB会議参加のためのブース・ツールの整備に対するニーズも高まるでしょう。
紙で提出する書類が減り、書類の収納庫が少なくて済むようになる、といったことも考えられます。
しかしながら、ABWを導入するにあたり、コワーキングスペースの契約・在宅ワーク環境整備のサポートなど新たなワークスペースの構築や、ABWの考え方に沿って、働く時間の自由度を高める制度設計の変更が必要になるため、クリアする課題が多くあるのが現状です。いきなり明日からABWの運用を始められる企業は少ないでしょう。
コクヨでは、ABWを「広義のABW」と「狭義のABW」に分類し、前段で見たような、時間も場所もワーカーが自由に選べる「広義のABW」以外にも、オフィス内で働く場所を選べる「狭義のABW」から始めるという方法もあります。
例えば、コミュニケーションのスペース、熟考できる場、試作などの作業を行う場所など、業務内容ごとに適した家具の組み合わせを用意したり、デザインテイストの異なるスペースを作って、業務内容や好みに応じてオフィス内での働く場所を選べるようにします。
コクヨでは、品川SSTオフィスにて、この「狭義のABW」を追求したオフィスの運用を実施しています。今回はこちらのオフィスを事例に、ABWオフィスの考え方をご紹介します。
ABWを導入したオフィスは、「執務デスク+会議室」という従来のオフィスで一般的なスペース以外に、業務や気分に応じて選べる多様な場を用意することで、ワーカーが自律的に働くことを促します。例えば、書類作成に集中したい時には、三方を囲った集中ブースで作業を行ったり、資料が多い業務の場合は、広いテーブルで書類を広げてゆったりと仕事ができたり、仕事が煮詰まってきた時には、景色がよい場所やカフェスペースに移動するなどして、オフィス内で気分転換を図りながら仕事を継続できるように構築します。
より具体的に、コクヨ品川SSTオフィスの、とある社員の一日を事例としてご紹介します。
①出社後、見晴らしの良いお気に入りの窓際スペースでメールチェック。
②ハンモックスペースへ移動して、リラックスしながら情報収集。
③コミュニケーションスペースで仕事をする隣の部署の先輩にアドバイスを求める。
④午後は午前中に得たインプットをまとめる作業。キャンプ風家具があるスペースでリラックスしながら、資料の練り上げ。
⑤長時間座りすぎで疲れたので、ハイカウンターのあるスペースへ移動。
⑥煮詰まってきたので、DRIP&DROP(社内の中央にある、ハンドドリップでコーヒーが淹れられるスペース)へ。コーヒーを飲んで気分転換。
⑦個人ブースのテントへ移動して、集中して資料作り。
このように、働くモードに応じた柔軟な働き方を促進した結果、社員アンケート調査によると、「有効に活用できた時間(可処分時間)」は35%向上しました。さらに、「時間に対しての意識」については移転前から15%上昇し、意識・行動の両面でメリハリのある働き方へと変わることができました。
ABWの導入は、やるべき仕事に応じて環境を自由に選択できることで生産性・創造性を上げるばかりでなく、心身の健康にもプラスの影響を及ぼすことが可能です。また、自らの業務や将来的なキャリアだけではなく、家族との時間の過ごし方なども踏まえて、働き方の「ポートフォリオ」を自ら設計できるようになることで、仕事・生活の両面における満足度やモチベーションの向上も期待できます。
続いては、ワーカーの「健康」に配慮した、ABWセッティングの工夫をご紹介します。
昨今、座りっぱなしの仕事によって、健康リスクが高まることが分かってきました。筋肉を動かさないことにより血流が悪くなるのが原因と考えられていますが、勤務中、座りっぱなしがよくないと分かっていても、身体を動かすきっかけがないと、なかなか動けないものです。また、従来型の固定の執務デスクが業務の中心という環境では、オフィス内で動こうと思っても、必要最低限の用事を済ませて短時間でデスクに戻ってくる程度にしか動くことができません。
そこでコクヨでは、様々な姿勢で働ける家具を配置し、こまめに姿勢を動かせる環境を作っています。以下に、いくつかの導入事例を掲載しました。
■様々な姿勢で仕事ができる家具を導入
①カウンター形式のテーブルでハーフスタンディングな体勢で仕事
②高さ違いのデスクを選択できる。拡張ディスプレイを用いて、ストレートネックにならないよう工夫
■オフィスの機能を1か所にまとめ、行動の都度に歩かせる工夫をする
【個人ロッカー】エレベーターから遠い場所に一箇所にまとめ、わざと歩かせる工夫をしている
【カフェスペース】ワークスペースから離れた場所にドリップコーヒーが淹れられるスペースを設置し、あえて休憩をしに来るようにしている
【プリンタースペース】プリンターと共用の文具をまとめて配置し、作業するスペースを確保している
ビジネスが複雑化した現在、組織の構造や仕事の進め方は変化しています。
コミュニケーションのとり方次第で、課題解決の「実現スピード」や「成功確率」が変わると考えられますが、多くの企業が「コミュニケーションに課題がある」と考えています。
ピラミッド型ではなく、部門を横断して様々な人と連携を取りながら仕事を進める場面では、多様なコミュニケーションが重要となります。
周囲とコミュニケーションをとりながら働くには、気軽に集まる機会の創出と多種多様なコミュニケーションスペースを設置することで、いろいろな人と円滑にコミュニケーションをとれる仕掛けを用意しておく必要があるでしょう。
コクヨでは、ABW導入にあたり、予約不要のミーティングスペースや人数やコミュニケーション内容に合わせたコミュニケーションスペースを準備しました。
①オフィス内の移動中に会ったメンバーと打ち合わせ
②コーヒーを淹れながら、普段話さない他部署のメンバーと会話
③カフェスペースでリラックスしながらミーティング
④カジュアルにコミュニケーションがとれるベンチ席で、ディスプレイを見ながらミーティング
⑤リラックスできる掘りごたつのスペースで、先輩にちょっとした相談
ABWの導入によるオフィスのイメージ事例を3例ご紹介しました。
ABWの制度だけを導入しても、従来のオフィスのままではABW導入の効果を最大には引き出せず、オフィスに求められている場に応じたしつらえを構築する必要があります。
また、個々の企業によって、オフィス内に必要な場は変わります。何を目指してABWを導入するのか、その実現のためにどのようなオフィスが必要になるのか。働く場所、環境を整えるヒントとなれば幸いです。
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