Interview
——— 危機意識を持った上で、職員一人ひとりの生産性を向上させるためには実験が有効だとのお話でしたが、改革の担当者としてアイデアを出さなければならない自治体職員もいらっしゃると思います。その際「生産性」とはいろんな解釈ができると思いますが、仲教授は「生産性」という言葉をどのようにとらえていらっしゃいますか?
仲教授
なかなか難しいですね。いわゆる労働生産性とは、労働者1人あたりが生み出す成果のことを指します。働き方改革では、ルーティンワークの負担を軽くする業務効率化と、新しい価値や成果を生む創造力とを同義で語ってしまいがちです。そもそも業務の効率化というのは、言ってしまえば時短です。今までと同じ業務量を短い時間でこなすために、やり方を工夫するということ。ワーキングマザーはその最たる人たちです。お迎えの時間までに終わらせるために、一日の段取りを組み立て、周囲も巻き込み結果を出していく。育児があるから仕事の質が落ちたと言われないために、いかに効率化するかを常に考えている。ワーキングマザーに限らず、短い時間で業務を終わらせるには、ルーティンワークにこそ効率化が必要になります。ただ、時短はあくまで手段であり、それ自体が目的になってしまってはいけません。
——— 目的は別にあると。
仲教授
目的はより良い自治体にすることですから。でも、まずは時短から着手するのが良いと思いますよ。新しいアイデアを生み出すクリエイティブな仕事というのは、効率化できるものではありません。時間に比例しないんです。だからこそ、それ以外の準備や雑務を効率化して、クリエイティブなアイデアを生み出す時間を確保できるかどうかが重要です。そのためにも、これまでのやり方を疑ってみて、「業務の棚卸し」により方法を工夫して効率化するのです。
ここで少し、国際的な視点で働き方への価値観を比較してみましょう。
労働生産性を国際比較すると、日本は先進諸国の中で順位が低い。では労働生産性が高い欧米と日本の働き方の違いにどんな違いがあるかというと、それは隙間時間があるかどうかの違いだと考えます。簡単に言うと、日本人は残業をすると「忙しい」と感じます。一方欧米人の感覚では、就業時間内のスケジュールが詰まると「忙しい」と感じます。つまり、欧米人は日常的に、業務時間内に多くの隙間時間を設けているということです。
——— その隙間時間というのが、新しいアイデアを生み出すために必要な時間ということでしょうか。
仲教授
そうだと言えます。彼らはその隙間時間で何をするかというと、自身の仕事の振り返りをしたり、あるいは困っている同僚の手助けをしたりするのです。そういった時間が仕事を豊かにし、結果的に業務の生産性を上げるのです。
——— 確かに、日本的な価値観とは異なりますね
仲教授
日本人は労働時間が長いと言われていますね。それは、日本人が仕事のプロセスを評価してきたからです。働いた時間が長いほどよいという価値感が未だ根強いのです。だから、仕事を早く終わらせて帰ることに後ろめたさを感じてしまうし、「仕事はつらいものだ」という前提で我慢をしてしまう。この状態で生産性を上げるのは難しいでしょう。ですから生産性を上げるためには、前提としてワーカーのエンゲージメントが高い状態である必要があります。
——— エンゲージメントが高いとは、どんな状態を指すのでしょう?
仲教授
ビジネスにおいてエンゲージメントが高い状態というのは、「ワーカーと組織の目指すべきゴールが近しい状態」のことを指します。例をあげましょう。アメリカのジョンソン大統領が米航空宇宙局NASAを訪問した際、一生懸命に仕事をしていた清掃作業員の仕事ぶりをほめ「何をしているのですか」と問うと、「私は単なる作業員ではありません。私は人間を月に送る手伝いをしています」という返事が返ってきたという有名な話があります。これはつまり、NASAという組織が目指すゴールと、そこで働くスタッフの業務上のゴールとが、まさに合致しているということです。
——— 「床を綺麗にする」と「人間を月に送る」では、仕事へのモチベーションにも差が出てくるということですね。
仲教授
そうです。そして、やらされている人と目的に沿って高い志を持った人とでは、仕事の質も違うはずです。言い換えると、エンゲージメントが高いということは、仕事にやりがいを感じられるということです。それはモチベーションとなって現れ、生産性が上がるための源になるのです。
ですから生産性を上げるためには、エンゲージメントを高めることがまず大前提になります。組織のゴールがあり、そのために自分ができることを考えること。自分のすることが組織のゴールにつながっていると認識すること。そのステップが重要です。
その上で、生産性向上のための具体的なアクションとして、まず時短を目指すこと。工夫して業務を効率化することにより、隙間時間を創り出します。次のステップでは、創り出したその隙間時間を有意義に使うこと。絶対に、効率化した同じ業務を新たに詰め込んではいけません。エンゲージメントが高い状態にあれば、生産性を高めるためにやるべきことが見えてくるはずです。
——— では、自治体職員の生産性へと落とし込んだ場合はどうでしょうか。
仲教授
業務の効率化によってさらに仕事が増える、と誤解されてしまうことは本意ではありません。自分の住む町をもっともっとよくしたいと思っている職員がいたら、彼らにとって生産性向上とは、自席でパソコンに向かって書類をつくる時間を減らし、本当にやりたいと思っていることに時間を費やすことができる状況を作り出すことです。それがつまり、生み出した隙間時間を、有意義に使うということです。
西予市の働き方改革でも、業務の効率化によって生まれた時間を市民サービスの向上につながる新しいアイデア創出に充てていくことを目指しています。
(作成/コクヨ)