Interview
——— 給与の減額や倒産への危機感から、企業でも生き残りをかけて、自分たちの付加価値を創出しようとしていると思います。
仲教授
それは今風に言うと、「イノベーション」という言葉ですね。より革新的なアイデアを形にしていくということです。付加価値を創り出すため、一部の企業だけでなく今の世の中すべてが革新的なアイデアを求めています。昔は長期的な見通しがつく世の中だったため、ビジネスモデルは管理型で、決められたことを管理された時間・場所で働く、また長く働けば働くだけ評価されるという時代でした。ところが今の世の中は、情報共有のスピードや手段もすさまじく進化しました。今の世の中は長い間普遍と思われていた前提がある日突然簡単にひっくり返ってしまうような、見通しのつかない時代に変わりました。従来の、計画を立ててじっくり取り込むというビジネススタイルではもはや対応できず、思いついたときに発信・共有して、とりあえずやってみる、という中に新しい芽がある時代です。そんな世の中において、「前例」や「常識」という枠組みは障害にさえなり得るのではないでしょうか。
——— ですから、前例や常識にとらわれない、革新的なアイデアが必要なのですね。自治体においてもそれは同様だと。
仲教授
そうです。先ほども消滅可能性都市の話をしましたが、今までよりもちょっといいアイデア、という程度では、今後生き残っていけないでしょう。自治体こそ、イノベーションを起こす必要があると感じています。
——— そうすると、オフィス環境にも大きな変化が必要だと感じます。革新的なアイデアを生み出すのにふさわしいのはどのような環境でしょうか。
仲教授
まず、先ほどのエンゲージメントが高い状態を作ることが大切です。組織と自分のゴールが一緒になる人を増やす。同じ目的のために、それぞれの部門では自分たちがどの役割を担っていくのかを自覚させることが大前提です。ユニクロの(株)ファーストリテイリングでは5年くらい前、業績が落ちた際にオフィスを変えました。会社の目的は「洋服で世の中の人をハッピーにする」ためであり、エクセルやワードをこなすためではないということを伝えるオフィスづくりをしたのです。例えばオフィスの真ん中に洋服を山のように置いたり、デザイン過程、倉庫など仕事の流れ全体をオフィスにいる社員全員が見えるように可視化したりしました。そこから社員一人ひとりが目的を見つめ直し、それぞれが同じ目的のために、全社員自分ができることを考えていったのです。
彼らはエンゲージメントを上げ、生産性を上げたのです。
仲教授
ワーカーが革新的なアイデアを生むためには、前例や常識にとらわれない働き方ができる環境が必要です。世の中で先進的と呼ばれている新しい企業は、自分たちの未来に常に危機感を抱いている。近い将来、会社が無くなるかもしれないと本気で思っているんです。そういった企業ほど、「常識」や「社会人らしさ」にとらわれない働き方をしているところが多いです。僕はそういった企業を見に行く機会もあるのですが、見学先の企業では、イスではなく床に座って車座になってミーティングを行っていることもあります。その他にも自席で自由なスタイルで仕事をしたり、時には眠ったりということが当たり前に行われているのです。社会人だからこうしなければという常識がない。
仲教授
でも彼らの企業はきちんと利益を出しています。それはなぜかというと、彼らは「リラックスした状態でないと、ブレイクスルーは起こらない」ということを理解しているからです。床に座るなど自由なスタイルで仕事をする彼らは、社会人らしくふるまうということよりも、生産性を高める行動を選んでいるというだけなんです。言い換えると、彼らは自分の生産性を高める働き方を知っていて、それができる環境になっているのです。
リラックスしてアイデアを出せる働き方ができるようにするには、できる限り運用ルールを絞ったほうが良いと思います。もちろん新しいオフィスになった当初は、オフィスの使い方を覚えるためのルールは必要です。例えば1時間しか使ってはいけない、私物をおいてはいけない、などの運用ルールですね。ただ、それはなぜその運用になったのか、その場所の価値は何なのかを理解してもらうための運用ルールであり、その運用ルールを守ることを目的としてはいけません。ですからルールはなるべく少ない方がよいと、僕は考えています。
日本人はルールを作ってしまうと、そのルールを守ることが目的になってしまいがちです。あるいは、何か問題が起きたときに、ルールがあるとそのルールに従わなければならなくなります。ルールに縛られると、常識にとらわれない働き方がしづらくなりますから。
(作成/コクヨ)