仕事のプロ
相手に合わせたコミュニケーションスキル
ワークスタイルアドバイス/4タイプ別アプローチ
もっと自分らしく、自信を持って働きたいワーキングマザーに向けて、様々な専門家からのアドバイス「WorMo’的ワークスタイル」専門家アドバイス編。
今回は「在りたい姿へエスコート」をスローガンにキャリア支援を行う株式会社キャリアセットの佐藤恵子さんに、自分の価値観を大切にしながら、戦略的に周囲に理解・協力してもらうためのコミュニケーションスキルを伺いました。
インタビューアー/WorMo’編集長 河内律子(3歳男児のワーキングマザー)
- 信頼関係と戦略的アプローチで
まずは「お願い」しやすい環境に - ――佐藤さんが経営するキャリアセットで行っている個々のニーズに応じたキャリアサポートとは、具体的にどういったサポートなんでしょうか。
- 大学を例にとってお話すると...18歳人口は1990年代前半のピーク時に比べると4割近く減少している中で、大学の数は増加し大学生も多様化しています。同じ大学生でも少し背中を押すだけで伸びる人もいれば、授業として自分の適性を理解することから始めなくてはならない人たちもいます。そういった状況を理解して、その人の在りたい姿にエスコートすることが"キャリアサポート"です。
こうしたキャリア支援を始めたきっかけは、外資系企業在籍中に母校の新潟の高校で始めたキャリア支援のボランティア。当時、スキーで大事故にあい、幸運にも復職できた後、始めた活動です。「自分にできる社会貢献は?」という一念と、母校の高校生たちが将来のキャリアやコミュニケーションスキルの話を生き生きと聞いてくれた経験が今の仕事につながりました。 - ――キャリアを考え、実行するうえで重要なことはなんでしょうか。
- やはり、コミュニケーションスキルは基本です。どんなにすばらしいキャリア(なりたいイメージ)を考えたとしても、自分一人では達成できず、必ず周りの方との関わりが発生します。つまり上司への報告や、社内外の人との交渉などのコミュニケーションで、自分の考えや思いを効果的に伝えることができれば、キャリアの上でも理想の自分に近づけるはずです。弊社のキャリアをサポートするプログラムの中でも、コミュニケーションに関するセミナーは、参加してスキルを習得できることもあり注目されています。大学1年生向けとして全国初となった必修キャリア講座でも、入学後の円滑なコミュニケーション技術のためのゼミを実施しました。
- ――働く上でもコミュニケーションスキルは重要だと思いますが、実際にはコミュニケーション下手と悩んでいるワーカーもたくさんいると思います。
- そうですね。ただ人は言葉だけでは動かないので、スキルだけでなく、同僚や上司に対して「お願いできる」信頼関係の構築も同時に必要です。一朝一夕ではできませんから、普段から、「お願いできる」環境をつくることを心がけ、自分の希望が通るようアプローチするといいですよ。
- ――「希望の部署に異動したい」といった直接仕事に関係することから、こどもの急な熱で早退したい、通院のため半休を取りたいなど事情は様々ですが、お願いする場面は多々あります。ただ上司によっては、働く母親の状況や悩みを理解できないタイプも。具体的にどんなアプローチで、お願いや、希望を叶えてもらえる環境を整えていけばいいでしょうか?
- 私も育児中なので、周囲にお願いをしなければ仕事が成立しません。また会社員で通院中の方の場合など、働く母以上に病気を周囲に公言できず、大変なケースもありますよね。直接、上司に言いにくいと思ったら、まずは上司を取り巻く会社の組織図をつくってみてください。社内での力関係を把握して、迂回しつつも、相手に影響力のある人を通じて、こちらの希望をくんでもらうための策を考える。さらにキャリアを進めるうえでも重要なのが、対面でのコミュニケーションを上手く行うスキルを身につけることです。
- コミュニケーションスキルを
キャリアにも家庭にも活かして - ――伝えたいことを伝えるためには、自分の理解者をつくり協力してもらえる体制を整えることが大切なんですね。
- そうです。たとえば、コミュニケーションの前に、まずは5つの観点(図1)から自分と相手を知ること。そうすると、どんなに合わないと思っていた相手とも最低一つは自分が歩み寄れるものが見つかるはずです。
- 図1左上の「相手との立場の関係」でいうと、視点の違い(図2)と合わせて考えるといいでしょう。相手が経営陣により近い立場の方なら、経営や株主などからの評価への関心が高いので、組織目線で話をする。逆に自分より役職や立場が低い方の場合は、個人評価への関心が高いので、自分視点で話をする。たとえば上司には顧客の情報、部下なら趣味などの話から入ると、スムーズに会話を始められます。こういった役職や立場など社会的な地位によって話題を選んだり、表現を工夫するのもコミュニケーションのコツですね。
- また、話し方の特徴は大きく4つのコミュニケーションタイプ(図3)にわけて考えられますので、相手のタイプによって、アプローチの方法を変えるとさらにコミュニケーションがスムーズに進みますよ。その4つのタイプには、結論から話す統率型、データを示して結論にいたる分析型、ほかに社交型や個性型があります。
- ――私は、よく上司に「で、どうしたいの?」と結論を聞かれることが多くて...。でも話が上手くまとまらなくて、あたふたしてしまうことがあります。
- その上司の方は、きっと統率型ですね(笑)。統率型の上司へのアプローチですが、求められることを即答しなくても、求められる答え方の練習をすれば大丈夫。たとえば「今は、答えは出ません」とうい結論に、「なぜなら...」と理由・根拠を説明する。接続詞のロールプレイで練習するんです。ちなみに分析型にはその逆の順番、社交型はお天気など世間話から。個性型はいわゆる天才タイプで難しいのですが、これは相手をじっくり観察しながらペースを合わせてください。順番さえ気をつければ、自分の価値観に反することなく、相手に歩み寄れるはずです。
- ――簡潔に効率よく相手に欲求が伝えられたら、働く母親にとってはとても有効な時短術になりますね。ほかにプライベートでも仕事でも役立つコミュニケーションスキルはありますか?
- 誰に、いつ、どんな風に話すかは、自分の主張が通るか否かに大きく影響します。"さわやかな自己主張"と言われるアサーションという方法がありますが、この方法で大切なのはタイミング。当たり前のことですが相手に「今、いいですか?」などの声かけは、必ずしてください。家族など身近な人に対しても「今、いい?」は重要です。またこちらの欲求が高いときほど、「...お願いすることは可能でしょうか?」などといった、丁寧な言い回しを心がける。もし、相手が一方的に話し続けるタイプであれば、まずはその話にうなずき、共感する。そして自分が話せるタイミングを見計らって、相手の話を要約してから、自分の話を聞いてもらってください。相手が沈黙の続くタイプなら無理に話さず、時間を共有してから話します。沈黙の相手が部下であれば、まず労いの言葉をかけるなどの工夫も必要です。こうしたコミュニケーションのテクニックに"自分らしさ"をエッセンスとして入れていくことで、時間のないワーキングマザーが、上司、そして夫や祖父母といった育児の協力者にも理解・協力してもらえるのではないでしょうか。
- ――対面でのコミュニケーションにも、たくさんのコツがあるんですね。対面であれば、その場で臨機応変に対応できると思うのですが、最近は時短ということもあって、メールに頼ることが多いですよね。
- そうですね。これからはますますメールを活用するシーンは増えていくと思いますが、伝えたい内容によって、メールで済ませていいかどうかを考えてください。メールで積極的に共有してもいいのは、誰かの功績など。また記録として残るものなので、誤解がないように確認のためには便利ですが、注意や中傷などは避けるのが賢明です。どうしても批判的な内容を送らなければならない時は、内容を肯定・批判・肯定と、サンドイッチに、またネガティブな言い回しをポジティブに変えて書くなどします。
- ――最後に、育児と仕事の両立に日々邁進している女性たちにメッセージを。
- 育児中は、自分の実力を最大に発揮できないこともありますよね。それでも目の前の役割を全うしつつ、周囲に心を配り、協力者をみつけることで、その後のキャリアに必ずプラスになっていくはずですので、焦らず"自分にできること"をこなしていってください。とはいえ、私も働く母としてのキャリアはまだまだ(笑)。人生をどう歩みたいか考えながら、すべての経験に感謝して、働き続けたいと思います。
佐藤恵子
株式会社キャリアセット代表取締役社長。「在りたい姿へエスコート」をスローガンに掲げ、個人の強みを活かし、組織活性化へ繋がるキャリア戦略等についてのコンサルティング、セミナー等を、早稲田大学をはじめとする学校、公的機関、企業、女性向けほか、広く展開。またキャリア・コンサルタント育成・研究活動の支援にむけ、キャリア・マネジメント研究会(CMW)を設立。約90人のメンバーとともに活動を続けている。現在7ヶ月女児のワーキングマザー
取材を終えて
取材後、上司に「統率型のアプローチ」を試してみたところ、とてもスムーズに話ができました。というか、途中で話をさえぎられず、最後まで言いたいことが伝えられました!(笑)上司の忍耐力によるものかもしれませんが、スムーズに話せたことで、私の中に自然と「自信」も出てきたように感じます。
「スムーズな話の切り出し方」をマスターできたら、職場でも家庭でも、効率よく高い成果が得られるのではないでしょうか。以前取材させていただいた近藤さんもおっしゃっていましたが、相手の立場を考慮することがコミュニケーションスキルをアップするポイントだと改めて感じました。(河内)
文/三宮千賀子 撮影/石河正武