仕事のプロ
2017.01.13
戦略的に人を動かす「仕掛け」というツール〈後編〉
グローバル社会に求められるビジネスへの活用
前編では、人々の行動の選択肢を増やすことで行動を変える「仕掛学」の定義や典型的な事例について紹介した。後編ではビジネスシーンでの活用事例やこれからの可能性について、引き続き大阪大学大学院経済学研究科松村真宏准教授に伺う。
ビジネスに活用された「仕掛け」とは
前編で紹介した「トイレの的」や「斜線を引いたファイルボックス」の事例のように、実際にビジネスに使われている「仕掛け」は、ほかにもあるのだろうか。
「ビジネスへの活用はたくさんあります。中でも五感を使った仕掛けはわかりやすいかもしれませんね。例えば、パン屋さんの近くを通ると、いい匂いがします。あれは、換気が目的ですが、匂いもわざと出しているのですよ。そうすることで匂いにつられてお店にくる人を期待しているのです」
このように、パンを買う気もなく歩いている人を、「匂い」をきっかけに、買うためにお店に立ち寄るようにした、嗅覚(匂い)を使った「仕掛け」。パンの匂いに誘われてお店に入る人もいれば、入らない人もいる。そういった「行動の選択肢」を増やすきっかけが、「仕掛け」となるのだ。
「ほかにも、面白い事例としては、駐車場で駐車券を受け取るとそれを口にくわえる人がいる、という人間の無意識の行動に着目したチューインガム会社が、新しい味のガムのキャンペーンとして、駐車券にミント味の層をつけた、という事例もあります。これは、『味覚』を使った『仕掛け』ですね」
そのほか、電車車両の座席に、想定人数が座れることを目的として椅子の色を変えた事例や、前編で紹介した「トイレの的」は視覚の活用であり、フォルクスワーゲン社が実施した『世界一深いゴミ箱』(ゴミの投入後にゴミ箱から落下音が鳴り始め、8秒後に衝突音が響く)は、聴覚を活用した「仕掛け」である。このように、五感を活用した「仕掛け」事例には枚挙にいとまがない。
そして、「仕掛け」を使った効果も明らかに出ている。
「先ほどのパン屋の話、自分の店でパンを焼いていないパン屋さんのために、焼き立てパンの匂いのする香水が売られていますし、駐車券にミント味をつけた事例は、結果、駐車場の近くのお店でそのガムの売り上げが上がったそうです。また、『世界一深いゴミ箱』は、普通のゴミ箱より41kgも多くゴミが集まったといいます」
これまでの事例にみられるように、「仕掛け」によって増えた「行動の選択肢」が魅力的であればあるほど、その行動が選択される確率が高くなり、成果も出やすくなるのだ。
松村 真宏(Matsumura Naohiro)
大阪大学大学院経済学研究科・准教授。
大阪大学 基礎工学部 システム工学科を卒業後、大阪大学 基礎工学研究科、東京大学 工学系研究科を修了。
東京大学大学院情報理工学系研究科・学術研究支援員、大阪大学大学院経済学研究科・講師、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・客員研究員として、人工知能の研究で「データから意思決定に役立つ知識を発見する」ことに取り組んだのち、日常生活において「気づき」を促す「仕掛け」の事例収集、研究を始め、日本発のフレームワークとしてスタンフォード大学で「仕掛学」の客員研究員を務めた。
著書に『仕掛学 -人を動かすアイデアの作り方―』がある。