仕事のプロ
2017.04.24
「BABAラボ」にみる、高齢化社会のコミュニティビジネス
地域のシニアがもつ経験やアイデアをビジネスに活用
地域社会とのつながりをもたず、生きがいを見いだせない高齢者が増えている。また、人口減にともなう労働者不足により、働き手として中高年の存在がクローズアップされつつある。これらの問題における一つのソリューションといえるのが、おばあちゃん世代の女性が集まって働く工房「BABAラボ」だ。設立者の桑原静さんに、地域社会の課題をビジネスによって解決する手法についてお話を伺った。
自主的に「ここに来よう」と
思ってもらうことが大切
創業時の理念は明確だったが、設立してから運営が波に乗るまでにはさまざまな苦労があった。第一関門となったのはコミュニティづくりだった。
「私は生まれてからずっとさいたま在住ですが、大学も勤務先も都内で、大人になってからは地元とのつながりがなくなってしまっていました。ですから、BABAラボ立ち上げにあたっては、地域の人脈をイチからつくり直さなければならず大変でした。というのも、肝心のお年寄りが、なかなか工房に集まってくれなかったのです」
BABAラボは、ショップでも交流サロンでもない新しいスタイルの場所。お年寄りには「何をやっているところなの?」という感じで、立ち寄りづらい面があっただろう。不信感を見せる人も少なくなかった。ちょっとした逆風の中で桑原さんは、創業時の二大コンセプトである「地域コミュニティの構築」と「生きがいを感じながら働ける場」のうちの、
コミュニティづくりから取り組んだ。ラボで手芸のワークショップを開催したり、手書きのミニコミ誌を配布したりして、少しずつお年寄りの警戒心を解きほぐしていったのだ。
桑原さん自身のお母さんやおばあさんから上がった「首の据わらない赤ちゃんの抱っこが大変」という声をきっかけに発想した「抱っこふとん」や、工房オリジナルデザインのTシャツ、トートバッグなどをお年寄りに制作してもらうためのノウハウも蓄積されていった。商品通販のためのWEBを立ち上げたり、地域のイベントに出展したりと、工房の活動が活発になるにつれ、おばあちゃんたちの仕事も増えていった。
ただ、お年寄りが戦力として機能するまでにはもう少し時間が必要だった。工房を訪れても一度きりで姿を見せなくなるおばあちゃんが多かったためだ。このままでは地域コミュニティは確立されず、「生きがいを感じながら働ける場」とはいえない。大切なのは、お年寄りを働き手として定着させることだった。そのための工夫について、桑原さんは次のように語る。
「ワーカーとして登録してくれた人には、チラシ折りやDMの封入作業、イベント出展の準備、刺繍やミシン操作など、さまざまな仕事を体験してもらいます。難しい仕事をお願いして挫折感を与えないよう注意する必要はありますが、自分に合う仕事や役割が見つかれば、継続して働いてくれます。『この仕事ならできる、やりたい』と自信を感じ、自主的に参加していただくことが大切だと感じています。」
その他、その人専用のエプロンや名札を用意するといったきめ細かい工夫も功を奏し、開業から三年経つ頃までには、「ここは自分の居場所」と感じて定期的に通ってくる人が増えた。現在では、50代~80代まで50名がワーカーとして登録している。
お年寄りのコミュニティが確立されたことによって、予想外の動きも起きた。内職スタッフを募集したところ、多くの30代~40代女性から応募があったのだ。
「子育て世代の女性は、『親が遠くに住んでいてこどもになかなか会わせてあげられないので、お年寄りと接する機会を持ってほしい』と希望する人が多いですね。お子さんだけでなくご自身も、違う世代と接することでほっとくつろぐ面があるようです。もちろんおばあちゃんたちにとっても、小さい子どもの面倒を見たり、娘世代の女性と話すことがエネルギーになります」
多世代が集うことによって、メンタル面以外でもメリットが生まれた。開業当初から開発・販売を続けている孫育てグッズに、「若い世代も使いやすいかどうか」という視点が加わったのだ。
「工房に通ってくるお年寄りから意見をもらえるので、おばあちゃん目線での検証はできていました。ただ、育児グッズはママやパパが使うことも多いですから、いろいろな世代からの意見は欠かせません」
さまざまな世代の声を活かした商品として誕生したのが、2016年発売の哺乳瓶『ほほほ ほにゅうびん』だ。高齢者にも見やすい目盛りと、しっくり手になじむ形が特徴で、芝浦工業大学と共同で開発した、BABAラボ自信の一作だ。
「これまでの商品は布製品が中心でしたが、哺乳瓶は初めての工業製品です。まったくノウハウがなかったため、形になるまでに5年もかかってしまいました。開発にはかなりの先行投資をしたこともあり、発売から半年以上経った今も、目標の売上金額には達していません。ただ、開発のプロセスで得た知識や経験、ネットワークは、私にとって大きな財産になりました」
BABAラボ
「100歳までいきいきと働き・暮らせる社会に」という理念のもとに、高齢女性が特技を生かしながら働き、地域社会とつながれる職場として2011年にオープン。おばあちゃんの意見を生かした「孫育てグッズ」の開発・製造や、高齢者の本音に迫るマーケティング・調査事業などを展開。2016年発売の、目盛りが見やすく持ちやすい哺乳瓶『ほほほ ほにゅうびん』は、キッズデザイン賞少子化対策大臣賞などを受賞。