仕事のプロ

2018.05.21

現場の声からスタートした、三菱地所設計の『働き方改革』〈前編〉

入社3年目の若者が挑戦した、できることから始める『働き方改革』

三菱地所設計は、日本を代表するまちづくりのリーディングカンパニーである三菱地所グループの一員として、128年の歴史と実績を誇る組織設計事務所。2014年から始まった『働き方改革』の取り組みは一社員の推進によって拡大されてきた。どのようにして協力者を巻き込み、『働き方改革』を推進したのか。『働き方改革』をけん引してきた株式会社三菱地所設計経営企画部副主事の飯井郁弥さんに話を伺った。

入社3年目の社員の危機感から
始まった『働き方改革』

創業128年の歴史を誇る三菱地所設計は、丸の内・新丸の内ビルディングなど名だたる建築の設計を手がけており、従業員数も600名を超える日本でも有数の組織設計事務所であるが、2013年時点では、全社挙げての『働き方改革』には取り組んでいなかった。そんななか、いち早く『働き方改革』に乗り出したのが、当時入社3年目だった飯井さんである。

「2013年当時、私は経理担当でしたが、経営企画を兼任する形で戦略の企画立案を行っていました。ちょうど、次期中期経営計画を策定するタイミングだったので外部環境のマクロ動向把握の一環として、リンダ・グラットン著の『ワーク・シフト― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』(プレジデント社)を読んでいました。そのなかで、私たちが思っている以上に世の中が急速に変化しており、企業として継続的に成長するためには、自分たちの働き方を変えていかなければいけない、という危機感を抱いたのが発端です」

と同時に、いかにして、この危機感を会社に浸透させ、次期中期経営計画に反映させることがミッションと捉え、飯井さんは中期経営計画策定プロセスの検討に着手したのだった。

「当社は技術を生業とする会社ですが、当時経営企画の担当は事務職の3名のみでした。これから急速な変化が見込まれる中では、事務職の専門的なノウハウだけでなく、現場の第一線で活躍する技術者の意見や課題もバランスよくミックスしていく必要があるという課題認識を経営企画担当者間で共有していました。そこで、実現に向けては当社のさまざまな部署からメンバーを募り、クロスセクショナルチーム(CST)を4チーム組成したんです。私も事務局兼メンバーとして参加することになり、参加チームへの危機感の浸透、変革のアクションプランを中期経営計画へ反映させることを目標に動き始めました」


今やるべきことを把握するために、
まず将来のビジョンを明確にした

飯井さんが参加したのは中堅社員が中心のチーム。そこで議論したのは、会社の将来ビジョンである。「『将来、自分たちはどうなりたいのか』それがはっきりすれば、そこに到達するために、今自分たちに『何が必要なのか』というマイルストーンが描けるようになる。そのためにも、今一度、会社の将来ビジョンを想い描くことから着手しました」

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そしてメンバーが共通で感じていた、『10年後も当社が業界のリーディングカンパニーであり続けるためには、どういった経営施策が必要なのか? 』という課題に対し、目指すべき会社の将来ビジョンを一緒に模索した。

「私のチームのキックオフで、『10年後のうちの会社を思い描くんだったら、まずは10年後の日本を考えてみるところから始めよう』ということになりました。すると、少子高齢化の加速、リニア(2027完成予定)による高速輸送化で今以上にビジネスが東京に一極集中、結果的に格差社会はさらに拡がっていく、という未来像が見えてきたんです。この未来像に迎合すれば、『東京の資金力のある顧客をターゲットに儲けていきましょう』という話になってしまいます。でも私たちはそれを望みませんでした。そこから、日本の未来を明るいものにするために、我々のやるべきことは何だろうと考えたときに、出てきたのが『日本を変える会社になる』というビジョンでした」

このように目指すべきビジョンが明確になったことで、「自分たちから変わっていこう」という共通認識をチームメンバー全員がもつことができたという。

「その想いを最終報告会で役員とも共有しました。他のチームからも同様の意見が上がっており、変革が必要であるという共通認識が持てたと思います」その後の中期経営計画の策定において『創造的なワークスタイル確立のための職場環境づくり』(=『働き方改革』)を基本戦略に盛り込み、同社の『働き方改革』に向けたチャレンジがスタートすることになったのだ。


飯井 郁弥(Ii Fumiya)

2010年、株式会社三菱地所設計に入社。主に経理業務を担当後、2014年より経営企画担当者として、先進企業事例の収集、システム企画の一環でBoxアプリ検証をするなど、社内初の働き方改革の取り組みに着手。その後、ICT配備計画等の整備を進める他、総務省のテレワーク実証事業などにも参画。2017年より社員向けに意識改革セミナー開催、会議改革に着手するなど、働き方改革推進委員として、同社の働き方改革を牽引する。


三菱地所設計
1890年三菱社によって創設された「丸ノ内建築所」に始まり、現在は三菱地所グループの技術中核会社として、グループ内外問わず多くのエポックメイキングなプロジェクトに携わる組織設計事務所。従来の事業領域にとどまらず、建築・都市に関連するコンサルティング事業も手掛ける。

文/西谷忠和 撮影/石河正武