仕事のプロ

2018.05.28

現場の声からスタートした、三菱地所設計の『働き方改革』〈後編〉

段階的に味方を増やし、大きな波を起こしていく

現場の声を反映し、『働き方改革』を推進してきた株式会社三菱地所設計経営企画部副主事の飯井郁弥さんは「たとえ、ボトムアップの提案でも、段階的に拡げていくことで、会社全体に浸透させることができる」と語る。後編では、「社内の理解を得るための戦略」や「改革を推進するうえで大切にしていること」などについてお聞きした。

飯井さんたちの活動が認められ、
全社を挙げて『働き方改革』に取り組むことに

クラウドサービスやモバイルPCの実証実験での反響を契機に、2017年度には、経営と現場の双方向コミュニケーションの場として「働き方改革推進委員会」や「働き方改革推進事務局」が組成された。
「この年、推進体制の強化が図られ、さまざまな施策がトップダウンで迅速に行えるようになりました」

その言葉が示すように、2017年度だけでも多くのアクションプランを掲げ実施してきた。

●クラウドストレージの正式導入
●モバイルPCの配備
●働き方改革セミナー 
●全社フレックスタイム制の導入 
●早朝勤務制度のトライアル 
●会議改革 など



毎日フロアに顔を出し
自ら現場に関わっていく

若手でありながらも、社内外の理解者や協力者を巻き込み、『働き方改革』を推進してきた飯井さん自身は、どんなことを大切に取り組んできたのだろうか。

「私のモットーは、『現場知らざるもの、経営するべからず』。とにかく、現場を広く知ることが大事だと思っています。自分を動物にたとえると『ねずみ』です。とにかくフットワークよく、動き回り、大きな耳をもって、いろんな部署の話を聞き回りました。そのために、必ず毎日社内を1周するようにしています。すると、社内の様子がわかってきて、顔見知りになれば、自然と声をかけてもらえたり、ちょっとしたアイデアなども拾いあげることができるので、そこから社内のイノベーションを誘発させることもできる。やっぱり『現場のことをもっと知ろう!』という気持ちで、いろんなところに顔を出し、自ら関わっていくことが重要だと思います」

また『働き方改革』のようなイノベーションを起こしていくには、現場の声を経営陣に伝え、他社の成功事例を提案するのも効果的だという。

「当社の経営層は現場の声をとても大切にしているので、こちらからの一方的な提案ではなく、『社内ではこういう声があります』と、現場の声をもとに、こんな施策をやってみたいと話すようにしています。それと『他の会社では、こういうふうにやっています』という事例を数多く集めて提案すれば、より説得力が増すと思います。この2つの軸を押さえておけば、いま会社として必要かどうか、検討してもらえるはずです」



次に目指すは、
「社員の意識変革と行動変革」

最後に、三菱地所設計として『働き方改革』を今後どのように展開していくのかを、聞いてみた

「直近の目標としては、2018年度には在宅勤務制度の検討に着手したいと考えています。それとあわせて、中期目標としては『生産性の向上』『多様性の受容』というワークビジョンにも挑戦していきたいですね。『生産性の向上』については、2017年から着手している会議改革により、会議時間が20%削減されるといった一定の成果が出てきました。しかし、『多様性の受容』についてはまだまだこれから。当社にはワークエンゲージメント(会社や仕事に対する愛着心)が高い社員が多いことや受注環境が良好で業務量が多く夜遅くまで作業が続いてしまうことがあります。会社としては、制度やツールにとどまらない「仕組み」改革の施策を打たなければなりません。一方、社員に対しても仕事以外の時間をしっかりつくり出して、ライフを充実させて、それを仕事へつなげてほしい。そういう会社のビジョンを伝えて、社員一人ひとりの「仕事の作法(やり方)」の改革につなげていきたいと考えています」

人は新しいことには抵抗を感じるはず。なのに、なぜここまで『働き方改革』が浸透していったのか。その変化を見てきた飯井さん曰く、「人は基本的に変化を嫌いますが、ひとつ状況が良くなると、その他の要素が相対的に悪く見えて、どんどん変えたくなってしまうのではないか・・・と、感じました。針で水風船を刺すような(小さな)アクションでも、志やビジョンをもって取り組めば大きな波は必ず起こせます」

これから『働き方改革』に取り組んでいこうという企業も多いだろう。たとえ社員からの提案であっても、目標や志(ビジョン)をもち、影響力のあるプロジェクトを選び、その価値を伝え、理解者や協力者を増やし巻き込んでいくことで、変革の大きな波をつくり出すことができる。

三菱地所設計は、その好例である。そして本記事は、そのノウハウが凝縮されているので、ぜひ参考にして、自社内にイノベーションを起こしてほしい。それを実践してきた飯井さんの最後の言葉が勇気を与えてくれるはずだ。

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飯井 郁弥(Ii Fumiya)

2010年、株式会社三菱地所設計に入社。主に経理業務を担当後、2014年より経営企画担当者として、先進企業事例の収集、システム企画の一環でBoxアプリ検証をするなど、社内初の働き方改革の取り組みに着手。その後、ICT配備計画等の整備を進める他、総務省のテレワーク実証事業などにも参画。2017年より社員向けに意識改革セミナー開催、会議改革に着手するなど、働き方改革推進委員として、同社の働き方改革を牽引する。


三菱地所設計
1890年三菱社によって創設された「丸ノ内建築所」に始まり、現在は三菱地所グループの技術中核会社として、グループ内外問わず多くのエポックメイキングなプロジェクトに携わる組織設計事務所。従来の事業領域にとどまらず、建築・都市に関連するコンサルティング事業も手掛ける。

文/西谷忠和 撮影/石河正武