アンガーマネジメント

2018.09.14

「現在」に集中するスキルで「思い出し怒り」は減らせる

アンガーマネジメント2:利き手と逆の手を使ってみる

怒りの記憶がよみがえってこないよう
「今」に集中する


 喜怒哀楽の中でも、「怒り」は持続しやすい感情です。過去に起こった腹の立つできごとを思い出して怒りを募らせたり、以前に受けた仕打ちを根に持って相手を憎み続けたり…そんなケースも珍しくありません。
 
 しかし、怒りを引きずることで一番損をするのは、ほかならぬあなた自身です。負の感情に支配された状態が続くのは、とても苦しいからです。また、怒りが頭を占めていては、重要な仕事や将来設計がおろそかになるリスクもあります。
 
 では、怒りを引きずらないためにはどうすればよいでしょうか。ベストなのは「現在」に集中することです。怒りを持ち続けている人の意識は、「裏切られて悔しい」や「いつか思い知らせてやる」といった具合に、過去や未来に飛んでいきがちです。このような意識の暴走を抑えるには、今に目を向けることが大切なのです。
 
 

手先に意識を集中させれば
過去の怒りを思い出す余裕がなくなる

 人が「思い出し怒り」をするのは、無意識でできる何かをしているときです。意識を集中する必要がないからこそ、過去の記憶がよみがえってきやすいのです。ですから、怒りの感情を思い出さないためには、考え事をする余裕を脳から奪ってしまえばいいというわけです。
 
 その具体的な手法として紹介したいのは、「1日5分間、利き手と逆の手を使って生活してみる」ことです。例えば右利きの人なら、左手で箸を持って食事をしたり、歯を磨いたりするわけです。利き手と逆の手だと、一つひとつの動作に慣れていないため、いやでも手先に意識を集中する必要があります。そうなるとよけいなことを考える余裕はないので、思い出し怒りを回避できるわけです。
 
 

足裏に集中するプチ瞑想で
思い出し怒りを手軽に回避

 もっと簡単に「今」に集中する方法としては、「ウォーキングメディテーション(歩き瞑想)」もおすすめです。瞑想というと難しそうですが、要は歩くだけです。ただしその際には、足の裏だけに意識を集中します。かかとがどのように地面に着き、体重を移動させて足先からどんなふうにけり出すか。そのときに、足の指はそれぞれどう曲がるか。足裏と指の動きに注意を向けながら、1歩ずつ歩くのです。外出する余裕がないなら、室内で足踏みをするだけでも構いません。
 
 なお、ウォーキングメディテーションは、その場で感じた怒りを鎮める効果もあります。第1回で「感情が爆発しそうになったら6つ数える」(連載1をリンク張る)方法をご紹介しましたが、それでも怒りが続くときは、短時間だけでもオフィスの執務スペースを離れ、トイレに向かいながら歩き瞑想をしてみましょう。一度生まれた強い怒りの感情は、「思い出し怒り」となってどんどん再生産されていきますが、足裏に意識を向けることで、怒りの拡大をシャットアウトできます。
 
「現在」に集中するためのエクササイズを習慣化していくと、次第に自分が変わってきたことに気づく人が少なくありません。「今していること」に集中するスキルが身につき、怒りの感情を思い出す時間が短くなってくるのです。「自分は怒りが持続しやすいタイプだな」と感じている人は、今回紹介した方法を生活の中に取り入れてみてはいかがでしょうか。
 

安藤俊介(Ando Shunsuke)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アメリカでアンガーマネジメントを学び日本に導入した、アンガーマネジメントの第一人者。企業や官公庁、医療機関などでの講演・研修を通してアンガーマネジメントの普及に努める。『イライラしなくなるちょっとした習慣』(大和書房)、『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。著作は中国、台湾、韓国などでも翻訳され、累計30万部を超える。

イラスト/吉泉ゆう子