仕事のプロ
2018.11.21
アンコンシャス・バイアスへの「気づき」が職場を変える〈後編〉
相手の反応に注意を払うことから始める
「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」は、少しずつ個人や組織に影響を及ぼし、成長を妨げる要因になる可能性が高い。しかし、アンコンシャスバイアス研究所の代表理事でもある守屋智敬氏は、「まずは自分自身のアンコンシャス・バイアスに気づき、行動を変えていくことが、自分や周りのメンバー、ひいては組織が変わるきっかけになります」とエールを送る。後編では、自分が抱える「無意識の思い込み」に対してとるべき行動や、組織全体のアンコンシャス・バイアスを乗り越えるためのヒントについてお聞きした。
相手の変化に注目すれば
自分のアンコンシャス・バイアスに気づくことができる
アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているものであり、それ自体は悪いものではない。しかし問題なのは、無意識の思い込みのせいで他人を傷つけたり、不愉快な思いをさせたりすることだ。では、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションでその質を高めるために、「無意識の思い込み」にどう対処していけばいいのだろうか。
守屋氏はまず、「アンコンシャス・バイアスは、基本的には事前回避ができません」と強調する。
「アンコンシャス(無意識)であるだけに、前もって自分の思い込みに気づくのは非常に難しいことです。ですから私は、研修や講演会などの場で、『みなさんの中にも、必ず何らかのアンコンシャス・バイアスがあり、完全に払拭できるものではないということをまずは知ってください』とお伝えするようにしています」
自分にアンコンシャス・バイアスがあることを認識していても、無意識の思い込みに影響された発言や行動をとってしまうことは多い。その際に、職場のメンバーを不快な気持ちにさせてしまったらどうしたらいいだろうか。
「例えばあなたの発言が若手メンバーをいやな気持ちにさせたとしても、部下がそのことを(本心)を伝えてくれることはまずないと考えた方がよいでしょう。相手の本音を知るためには、表情や声のトーン、リアクションに目を向ける必要があります。相手が傷ついたり、不愉快になったりしたときは、小さくても何かしらの変化が必ずあるはずなので、それを見逃さないでください」
すぐに気づき行動を変えれば
信頼関係は取り戻せる
では、相手の変化に気づいたらどのように行動すればいいか。守屋氏がすすめるのは、すぐに謝ることだ。
「思い込みから不適切な発言や行動をしてしまったことを察したのであれば、そのことを伝えてすぐに謝れば、相手も不愉快な気持ちを引きずらず、きっと快く受け容れてくれるはずです。自分の非を伝えることに抵抗がある人もいるかもしれませんが、『自分から認めて謝罪することで相手が救われる』と考えれば、少しハードルが下がるのではないでしょうか」
ただ、相手のちょっとした変化を見逃してしまうと、知らず知らずのうちに、それまでに築いてきた信頼関係が一気に崩れてしまうことにもつながる。
「ですから折に触れて、自分の言ったことに対して相手はどんな気持ちになったかを考えたり、移動中などのちょっとした時間に『今の会議で、私はアンコンシャス・バイアスに基づいた発言をしなかっただろうか』と振り返って考えてみたりするとよいでしょう」
言語化することによって思い込みが意識化され
事前回避が可能になる
アンコンシャス・バイアスによる失敗を何回か繰り返していると、自分のアンコンシャス・バイアスに気づきやすくなる。しかし守屋氏は、さらに「無意識の思い込み」に敏感になるための方法として、「アンコンシャス・バイアスログ」を紹介する。
手帳でもスマホでもよいので、自分のアンコンシャス・バイアスに気づいたら、例えば「鈴木さんに『5歳は若く見えるね』と言ってムッとされる。若ければ若いほどよい、というアンコンシャス・バイアス?」などとすぐに記録しておくのだ。
手帳でもスマホでもよいので、自分のアンコンシャス・バイアスに気づいたら、例えば「鈴木さんに『5歳は若く見えるね』と言ってムッとされる。若ければ若いほどよい、というアンコンシャス・バイアス?」などとすぐに記録しておくのだ。
「ログを積み重ねていけば、『自分はどんなアンコンシャス・バイアスを持っているか』『どんなアンコンシャス・バイアスが他人を不快にさせるのか』といった傾向がはっきり見えてきます。また、言語化することは意識化につながるため、自分が気をつけるべきポイントを普段から意識することができ、だんだん事前回避が可能になってきます」
個人間のつながりによって
組織間のアンコンシャス・バイアスは乗り越えられる
また、企業内には、部門間にも、アンコンシャス・バイアスがある。例えば、「営業部門の人は、開発部門の苦労に目が向かない」とか、「開発部門の人には、数字のことはわからない』といったものだ。このような、組織におけるアンコンシャス・バイアスを克服していくにはどうしたらいいのか。
「このような思い込みは、部門の業務特性により、個人を判断しようとする心理から起こります。組織におけるアンコンシャス・バイアスから抜け出せないと、組織全体の本来の目的である『お客さまに喜んでいただくこと』からどんどん離れてしまいます。先入観をいったん取り除き、同じ目的を持った仲間として率直に意見交換をすれば、協力し合うことができるはずです。そして、このような個人と個人のネットワークを一つずつつくっていくことによって、組織間のアンコンシャス・バイアスは必ず克服できると私は考えています」
自分自身の、そして組織のアンコンシャス・バイアスに気づき、改善すべきところは変えていけば、企業も個人も成長し続けることができる。「これって私のアンコンシャス・バイアス?」を合い言葉に、自分の発言や行動を振り返る機会を増やしていくことが大切だ。
守屋 智敬(Moriya Tomotaka)
株式会社モリヤコンサルティング代表取締役。一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所代表理事。都市計画事務所、人材系コンサルティング会社を経て、起業。経営層や管理職を中心としたリーダーシップ研修などを通じて、2万人以上のリーダー育成に携わる。著書には、アンコンシャスバイアスをテーマとした『あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです』(大和書房)や、『シンプルだけれど重要なリーダーの仕事』(かんき出版)などがある。