仕事のプロ

2020.06.12

男性マネージャーが育休に挑戦するメリットとは

入念な事前準備が成功のカギ

育児休業を取得する男性が少しずつ増えているが、厚労省のデータによると、2018年における男性の育休取得率は約6%とまだ少ない。そんな中で、コクヨ株式会社で働き方改革のコンサルティングを手がける太田裕也氏は、2020年1月に1か月間の有休を経験した。同社は1月が年度初めであり、太田氏は部下を抱えるマネージャー職だ。それでも「ポイントを押さえて準備すれば、年初や年末、繁忙期でも、マネージャー職でも、育休を取ることは十分に可能です」と力強く勧める。マネージャー職が育休を取るにあたって押さえたいポイントや、取得のメリットをお聞きする。

部下の頼もしい働きぶりに
「もっと仕事を任せるべき」と気づくことができた

ただ、会社とのつながりを持ち続けていても、仕事にがっつり関われないもどかしさを感じることはあった。

「自分で育休を取ることを決めたのに、社会から隔離されている気分になってしまって。CCで送付されるメールや社内SNSで部下の仕事ぶりを見るたびに、『ここまでクオリティが高いアウトプットを出せるんだ』『的確なアドバイスだな』といちいち感じて、うれしいのと同時に寂しかったです」

「ただ、部下たちの頼もしさを知ったことで、もっと信頼して仕事を任せた方がいいかな、と感じるきっかけになりました。『メンバー育成』という面で新しい視点を得られたことは、マネージャーとして貴重な経験でしたね」



周りと積極的に話して育休中に感じた
ブランクを埋める

太田氏は復職してしばらくの間、部下や同僚をつかまえては不在中の話を聞き回ることに専念していたそうだ。

「お客さまとの話し合いなどで決まった内容は、毎日のメールチェックによってつかめていました。上司からも、その結果についてフィードバックをもらっていました。ただ、『どんな議論を経てその結果に至ったのか』『納得感はどの程度か』は見えていない部分も多かったので、実際に現場で詳しいプロセスを体験しているメンバーと話す時間を意識的につくって、情報をキャッチアップしました」

「1か月とはいえメンバーと同じ目線や理解度、温度感を共有できなくなってしまった気がしていたので、早く再合流できるように会話の時間を持つようにしたのです」

育休を経て、新たに芽生えた思いもあった。子育てに取り組むワーカーへの熱い共感だ。

「育児をしながら働く大変さは、これまでも頭では理解していたつもりでした。でも、自分自身が仕事に戻りたくて苦しんだ経験から、子育てワーカーの気持ちが身をもってわかるようになったのです」

「例えば子どもを保育園に迎えに行くために退社する人に対しては、『本当はキリがいいところまで仕事をしたいのかもしれないのに、悔しいだろうな』と想像できるようになりました。育休経験によって、マネージャーとしての幅が拡がったと感じます」



メンバーの成長を実感する期間として
1か月は適切だった

わが子の成長をじっくり見守ることができたのはもちろん、妻との信頼関係が深まったり、マネージャーとして一回り成長できたりと、育休はさまざまな実りをもたらした。

「何よりもよかったのは、外部から部下の仕事ぶりを客観的に見ることで、メンバーの成長を実感できた点です。そして、自分のマネジメントスタイルを見直し、やるべき仕事と任せる仕事を見極めてステップアップにつなげられたことも収穫でした。仕事が大好きな私にとって、1か月という期間は長く、正直言って『もう出社したい』と思ったこともありました。ですが、新しい働き方に慣れる期間としては適切でした」

「ライフの面でも、子どもを泣き止ませるコツなどを体得するにはある程度の時間が必要だったので、妻と育児を分担できるようになる期間として1か月はちょうどよかったと感じています」

男性育休に対しての制度が整っていない場合も少なくないが、これからの社会、男性の育休制度ももっと柔軟に、そしてもっと充実していくことが考えられる。

「1週間なら育休をとれるけど、それ以上は......」と二の足を踏む男性マネージャーは多いかもしれない。しかし、太田氏のように事前準備を入念に行い、自分の性格も加味したうえで休業中にどう仕事と関わるかを考えておけば、ある程度長期の育休でも現実的に検討できるはずだ。

マネージャーの育休によってひと回り成長したメンバーが大きな実りをもたらす可能性は高い。そして何よりもマネージャー自身の成長も多いに期待できそうだ。


太田 裕也 (Ohta Hironari)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント/プロジェクトディレクター
建築学科卒業後、2005年にコクヨへ入社。「働く場」としてのオフィス、「学ぶ場」としての教育施設、「暮らす場」としてのホテル等、多彩な場の空間デザインを手掛け、「日経ニューオフィス賞」等のアワードを数多く受賞。 2011年以降、「意識・行動・空間」を多面的にデザインするコンサルタントとして、「2ndプレイス(オフィス)」のみならず、「1stプレイス(自宅)」や「3rdプレイス(シェアオフィス等)」もスコープに含めた戦略的ワークスタイルの実現を支援している。

文/横堀夏代