仕事のプロ

2020.09.11

非効率ノススメ

あえて取り入れたい「役に立たない」時間

在宅ワークの働き方が当たり前になってきたことに伴い、ムダを排した効率的な働き方が実現しつつあります。ただしその一方で、「息つくヒマがない」「なぜか疲れる」と思っている方も多いのではないでしょうか。今だからこそ見直したい「非効率の効用」について考えてみました。

オンラインの働き方で
時間コストは確かに上がったけれど...
コロナ禍をきっかけに、オフィスに出勤せずに家で仕事をするリモートワーク(在宅ワーク)が一つの主流になりつつあります。ソロワークだけでなく、社内メンバーとの会議・ミーティングや社外パートナーとの打ち合わせも、対面ではなく自宅からオンラインで行う機会がぐっと増えたのではないでしょうか。

リモートワークのもとでは、時短や業務効率化が簡単に実現します。例えば打ち合わせ一つとっても、移動時間を考慮する必要がないため、3時間あれば1時間ずつのミーティングを隙間なく3回セッティングすることも可能です。これまでは3時間の中に多くても2回しかセティングできなかったことを考えると、とても効率的に感じられます。
そんな「効率的」な働き方をしながら、ふと、「これでいいのかな?」と疑問に感じることがあります。先ほど例に挙げたミーティングにしても、3回のミーティングを3時間の中に詰め込むと、全力で話して、聴いて、考えて......。最後のミーティングが終わってパソコンをスリープモードにするとき、ぐったり疲れている自分に気づきます。
「用件のみ」のオンライン打ち合わせで
疲れが加速する?
疲れが押し寄せるのは、息を抜くひまがないから、というだけではないのかもしれません。コクヨが全国の約3000人のワーカーに向けて実施したアンケート調査『ポストコロナに向けた働き方の変化』から、興味深い傾向がみえてきました。
このアンケートでは、自粛中の在宅勤務期間中に、「会議・打合せでは時間を意識するようになった」人が30%、「会議・打合せでは開催の目的や成果を意識するようになった」人が28%でした。
時間の効率化・生産性の向上という側面では、よい傾向を示す数字として捉えられますが、ワーカー同士が「時間内に、効率的に」と考えるあまり、仕事の用件だけで予定の時間が過ぎてしまい、互いに相手の状況を共有する言葉を発することなくオンラインの打ち合わせを終えてしまっているのではないか、という危惧もあります。

このアンケートは、「相手の状況を意識するようになった」という項目もあり、それは35%が思うようになったと回答をしているのですが、「社内メンバーとの気軽な情報交換や雑談を行いやすくなった」では、35%の人が思わなくなった、と回答しています。

相手の状況は気になるが、そういった状況を共有する会話(雑談)がなかなかできていないのではないでしょうか。このような葛藤によって、在宅ワークの疲れが加速する面もありそうです。
オフィスではすれ違いざまにちょっとした会話(インフォーマルコミュニケーション)ができて、それが息抜きになっていたこともありました。しかし、テレワークではそういった適度な(いい意味での)邪魔が入ることがありません。

また、自宅でソロワークをしていると、通勤する必要がないのはありがたいのですが、周りの目がないため、「サボっていると思われたくない!」と常に気を張り、休憩をとることなく生真面目に頑張ってしまうところにも、「気疲れ」を助長する原因としてあるのではないでしょうか。
子どもとのふれあいや同僚とのおしゃべりが
生産性を支えていた
こうした違和感や疲れを和らげてくれるのは、下校してきた子どもとのおしゃべりです。コロナ禍の生活についてコクヨ社員に実施したアンケートでも、子どもと共存しながらの在宅ワークについて「仕事に集中できない」という悩みがみられる一方で、こんな声も上がっていました。
「仕事でへこんだときに、子どもの可愛さに癒やされて立ち直れた。コロナと仕事のストレスをそれほど感じなかったのは、子どものおかげかも」(1歳児)
コロナ禍前の生活を思い出してみると、仕事の合間に同僚とおしゃべりしたり、ランチに行ったりする時間が心身のリフレッシュに役立っていたことに気づきます。
「仕事に関係ない時間の重要性」について考えていたときに、以前インタビューさせていただいた中山裕子さん(UR都市機構)がおっしゃっていた言葉を思い出しました。
「効率性を求めすぎず、あえて雑談をはさむことでアイデアが生まれることもある」
「非効率な時間」が、実は生産性を支えているのかもしれません。
仕事に関係のない雑談をきっかけに
新しい製品やサービスが生まれることも
「雑談力」は近年、ビジネスをスムーズに進めるためのスキルとして注目されています。しかし、雑談の効果はそれだけではありません。UR都市機構の中山さんが指摘する通り、雑談から新しいアイデアを生み、ひいてはイノベーションのきっかけにつながることもあります。

例えば、家電メーカーのツインバード工業株式会社は、商品企画担当と社長の雑談を発端に、「半分が冷凍スペースの冷蔵庫」や「10分で洗い上がる洗濯機」を開発。いずれもヒット商品となっています。

また、株式会社エアークローゼットが展開する女性向けファッションレンタルサービス「エアークローゼット」のビジネスアイデアは、創業メンバー2名による「妻がいつも『着るものがない』と悩んでいる」「買うのはいつも似たような服ばかり」といった雑談から誕生。そして、プロのスタイリストがユーザー1人ひとりに向けて選んだ洋服を届ける、という画期的なサービスへと発展したのです。
「非効率」は意識的につくることで
初めて実現する

以前にインタビューさせていただいたある企業の社長は、「オンラインのコミュニケーションからはイノベーションは起きにくいのではないか」と語り、「イノベーションを起こすには雑談や仕事に関係のない会話が必要。普段の会話でよくある『横道にそれた話』にイノベーションやアイデアのヒントが大いにある」とお話されていました。
テレワークが当たり前になりつつある今、雑談などの「非効率な時間」は、あえてつくらなければ実現しません。在宅ワークのときに、あえて業務やオンライン会議の予定を詰め込みすぎず、ひと休みして散歩をしたり、会議で雑談の時間をつくってみたりするのも一興です。
またマネージャー職の方は、メンバーの様子を見ながらオンライン茶話会などを設定して、会議とは違う交流の機会をつくってみるのはいかがでしょうか。
ゆったりした時間を楽しむことによって、過度なストレスから解消されるだけでなく、業務遂行でガチガチになった脳では思いつけなかったアイデアが、不意にわいてくるかもしれません。

河内律子
(Kawachi Ritsuko)

WorMo'編集長、キャリアコンサルタント(国家資格)。ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」「キャリア」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「学び」をテーマとする働き方コンサルタントとして活動中。

構成・横堀夏代