仕事のプロ

2020.08.21

「子どもと過ごす在宅ワーク」のギフトとは

自粛期間の気づきを今後に活かす

COVID-19(新型コロナウィルス感染症)に伴う緊急事態宣言下で「子どもとの共存ワーク」を経験した人は多いでしょう。そのときは、『集中できない』『家事が増える』など思うように仕事が進まないことにいら立ちを覚えた方も多いと思います。今、再び子どもたちが保育園や小学校に通うようになり、私たち大人は在宅ワークを続ける人もいたり、オフィスに出勤する人がいたりと、新しい日常を送るようになりました。大変さばかりが際立った自粛期間ですが、今振り返ってみれば得られたことはあるはず。今回は、子どもとの接し方や集中して働くコツなど、平常時とは違う働き方から見えてきた新しい気づきについてまとめました。

「子どもとの共存ワーク」は
これまでのリモートワークとは<全くの別モノ
2020年4月末、コクヨでは、「リモートワーク・カジュアルトーク(こどもとの共存編)」と題したオンライン座談会を実施しました。参加者は約30名のコクヨ社員。いずれも子どもの保育園・学校が休園・休校になり、親子一緒の空間で仕事をすることを余儀なくされたメンバーです。

政府が学校・保育園へ休校・休園を要請したのが2020年2月末。都道府県で対応は異なりますが、多くの地域では3月から子どもたちが家で過ごすようになりました。そこから約2か月のタイミングで開催されたこのイベントでは、社員の本音が炸裂。とにかく多かったのは、『子どもが一緒だと仕事がはかどらない!』という切実な声でした。
事前アンケート()内は子どもの年齢・学年 

  • ・お昼ご飯が一番負担。”献立を考える・作る・食べさせる・片づける”が毎日1回増える(2歳)
  • ・WEB会議がしづらい。こどもの声が入ってしまったりして集中できない(6歳と小2)
  • ・家にいると、子どもの行動や安全が気になって仕事に没頭できず、業務効率が落ちる(2歳と小1)
  • ・仕事以外の自分の時間が取りにくくてストレスがたまる(小3)
共存ワークのジレンマも
年齢に合わせた工夫で何とか乗り切る
事前アンケートで挙がった「共存ワークの悩み」の声をもとに、その原因を年齢別に分析してみました。
未就園児(0~2歳児):片時も目が離せない年齢なので、仕事どころではない。
未就学児(3~5歳児): 1人遊びはできても長時間は難しく、遊び方のバラエティも乏しい。結局、親がつき合わなければならず、まとまった仕事時間の確保ができない。
小学生(低学年): 学習習慣がまだ身についていないため、親が促さなければ勉強せず、手がかかる。
小学生(高学年以上):だんだん自立してくるので、1人で勉強はできる。ただ、学校という縛りがないので、遊んでしまうことも。ゲームやテレビの時間が増えがち。
子どもの年齢によって悩みの質は変化していきますが、「子どもから目が離せない・気になってしまう→仕事に集中できない」というジレンマは共通していたようです。
自粛期間、子育て中の多くの人がこういった悩みを抱えながらも、パートナーとも連携しながら、子どもの年齢に合わせた「集中を持続させる」工夫で共存ワークを乗り切っていました。子どもが低年齢になればなるほど、子どもの集中を持続させるのは難しくなりますが、未就学児には「子どもの興味・関心」からのアプローチ、小学生には「自律」や「達成感」からのアプローチで集中の持続をはかっていることがわかりました。
工夫事例 ()内は子どもの年齢・学年

  • ・ある程度まとまった時間集中できる遊びの工夫を日替わりで提供。例えば、ベランダで段ボールに色を塗る、お店屋さんごっこ、昼ごはんに自分でサンドイッチやピザトーストをつくる、ベランダでピクニックごっこ、など。(2歳、5歳)
  • ・100均のシールブックを大量に準備!(3歳)
  • ・子どもに今日やりたいことを書きだしてもらい、どこの時間ならできるかを一緒に考える(5歳)
  • ・AIアシスタントを使って、25分の集中と5分間の休憩サイクルを実践。25分間は子どもは宿題、自分が仕事とそれぞれ集中し、5分間の休憩timeに話しかけてくるようになりました。(小1)
  • ・自分で時間割を立てて、その通りに実行してもらう(体育の時間が増えるのは、ご愛嬌)。(小4)
  • ・やるべきことを「タスク」として可視化し、終わったらスタンプでポン。日本地図にスタンプを押していく仕掛けをつくったら、達成感も生まれます。また、事前に「タスク」に書いていないことも自己申告制でOKに。(子どもの主体性と創造性を伸ばすポイント)。(小4)
一緒に長時間過ごしたからこそ
得られたものも
緊急事態宣言が解除された現在では、子どもたちは学校や保育園に通うようになり、「子どもとの共存ワーク」に奮闘する人は減っています。

そんな今だからこそ、当時のバタバタした、それでいて空気が止まったような数か月間を、少しずつ俯瞰できるようになってきました。そして、あの生活で私たちが得られたものはなんだろう? と考え続けています。
子どもと一緒にいた日々は、『どうやって自分の仕事時間を確保しようか』、『どうしたら子どもが不安にならないか』...そんなことを常に考えていました。
だからこそ、子どもが何に興味があるのか、どんな言葉にどう反応するのかなど、子どものことを今まで以上に、『知りたい』と感じました。
そして、子どもも同じように、私たち大人を『知りたい』と思ってくれた期間だったのではないでしょうか。
『仕事は大変そうだけど、面白そう!』と感じたのか、働く私を応援してくれるようになりました(小3生)
子どもたちが、自分のことを自分でやってくれるようになりました。第一子は部活で使う衣装を、第2子は家族分のマスクを一生懸命つくってくれました」(小4生と中2生)
まさに、「背中を見て育つ」という言葉を親子で体現した期間だったといえるのではないでしょうか。
子どもや自分の価値観に改めて気づけたことが
今回の経験で得たギフト
「子どもたちと向き合う時間がつくれたのはよかった。例えば、子どもたちがハマっているアニメを一緒に観たり。特に第2子は『ママも一緒に観る!』ことにうれしさを感じてくれたようだった」(小3生と中1生)
「子どもがどんなときに不安やいらだちを感じるのか、以前よりわかるようになった」(小4生)
一緒に過ごす時間が長いからこそ、『子どもはどんなときに、どんなことを感じるのか』『自分自身は、子どもとのどんな時間を大切にしているのか』に気づける機会も多かったのではないでしょうか。

また、仕事と子育ての切り替えがうまくなったり、優先順位をサッとつけられるようになったり、少々のハプニングに動じなくなった...といった人もいるでしょう。
今回の経験をきっかけに、仕事とも子どもとも新たな向き合い方を探ることができたなら、それが共存ワークから得られたギフトではないかと感じています。

河内律子
(Kawachi Ritsuko)

WorMo'編集長、キャリアコンサルタント(国家資格)。ワーキングマザーの働き方や学びを中心としたダイバーシティマネジメントについての研究をメインに、「イノベーション」「組織力」「クリエイティブ」「キャリア」をキーワードにしたビジネスマンの学びをリサーチ。その知見を活かし、「学び」をテーマとする働き方コンサルタントとして活動中。

構成・横堀夏代