仕事のプロ

2021.03.17

今すぐできる在宅ワークの生産性向上術

姿勢&運動で最高のコンディションをキープする

心身の状態は仕事の生産性に大きく影響する。ついケアを怠りがちだが、心身を最高のコンディションに保つために「姿勢」と「運動」は重要だ。今年1月に『仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること』(東洋経済新報社)を上梓した、(株)DeNA CHO(最高健康責任者)室室長代理の平井孝幸氏にお話をお聞きした。

仕事で最高のパフォーマンスを発揮するには心身の健康管理が不可欠

「最高のパフォーマンスを発揮するためには、心身のコンディション管理が不可欠。これは、スポーツも仕事も同じ」と平井氏は言う。

過去にはプロゴルファーをめざした時期もあったという平井氏。高校生の頃から、ゴルフで自分のパフォーマンスを最大限に引き出して結果を出すために、食事や睡眠、メンタルなどを研究し、心身を最高のコンディションに保つことに心血を注いできた。

DeNAに入社してからは、「社員のコンディションがもっと良くなれば、より良い会社にしていけるはずだ」と考え、CHO(最高健康責任者)室の立ち上げを直訴。2016年にCHO室が発足すると、室長代理として健康を推進する数々のプロジェクトを立ち上げた。その結果、健康的なライフスタイルを実践することで仕事で成果を出す社員が増え、DeNAは2019年、2020年の2年連続で健康経営銘柄(※1)に選定された。

「DeNAで取り組んできたプロジェクトはすべて、医師など専門家の監修を受けています。そして、社員や私自身が実際に行い、その効果を実証してきました。大事なのは、行動に移すこと。今回ご紹介するものも、時間もお金もかけずにすぐにできるメソッドばかりですので、ぜひやってみていただきたいと思います」

※1:「健康経営銘柄」とは、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定するもの。東京証券取引所に上場している企業のうち、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、その改善に戦略的に取り組んでいる企業が選定される。2020年の選定企業は40社。




「正しい姿勢」は人それぞれ
頭の位置を意識して体への負担を軽減

肩こりや腰痛、目や首の疲れといった不快感は、仕事のパフォーマンスに大きく影響する。こうした症状を引き起こす要因の一つが、姿勢だ。特にデスクワークの際には、背筋を伸ばしたり胸を張ったりして姿勢を良く保とうと努力している人もいることだろう。しかし、「その(良いと思っている)姿勢が自分にとって正しい姿勢であるとは限らない」と、平井氏は指摘する。

「ベストな姿勢というのは、人それぞれなんです。背筋を伸ばしたり胸を張ったりすると、反り腰になって腰に負担がかかったり、筋肉に余計な力が入って硬直状態になったりして逆効果です。大事なのは、いかに体を楽な状態に保つか。筋肉が適度にリラックスして、無理なく長時間維持できる姿勢が、自分にとって正しい姿勢ということになります」

万人にとって正しい姿勢はないものの、座るときにも立つときにも心がけるべき鉄則があると、平井氏。それが、頭の位置だ。

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「背骨の真上に頭がくるようにし、頭(頭頂部)をできるだけ高い位置にもっていこうとすること。これだけです。人間の頭部は全体重の10%もの重さがあり、いわば首の上にボーリングの球が乗っているようなもの。それほどに重たい頭が体幹よりも前に出て猫背になってしまうと、首や腰をはじめ体に相当な負担がかかります。頭を背骨の真上に乗せ高い位置を保つよう意識すると、自然と体のラインが真っ直ぐになり、首や腰に負担がかかりづらくなるのです。実際に、DeNAでポスターによる姿勢の啓蒙活動を行なったところ、腰痛や肩こりから解放される人が増えました」

2_bus_100_02.png 姿勢啓蒙ポスター




姿勢は固定せず適度なゆらゆら感
デスクワークはディスプレイの高さにも注意

頭の位置に加えて重要なのが、「常に動かす=姿勢を固定しない」ということだ。

「ずっと同じ姿勢でいると、筋肉が固まり、血流も悪くなってしまいます。デスクワークで集中しているときも、姿勢を固定せず、ゆらゆらとわずかでも動くことが大事なんです。ちなみに、私が愛用するコクヨのイス『ing』は、微細な体重移動に応じて座面が360度動きます。前後左右に動くことで、骨盤のストレッチができるのです。ゆらゆら感が体の緊張をリリースし、長時間座っていてもつらくなりませんし、発想力が豊かになる感覚があります」

2_bus_100_03.jpg 「ing」は、2層のメカの組み合わせによって、前傾、後傾、左右のひねりまで、体のどんな動きにも追随。バネを使用しない、ブランコのようなメカは、動きはじめの負荷をなくし、体を動かしやすくしてくれます。さらに、動いた後は揺り戻しがあるため、バランスを崩すことなく、安心して体を預けることができます。KOKUYO Workstyle Shop

また、座る際には、坐骨を立てることを意識するのもポイントだ。坐骨とは、座ったときに座面につく骨で、お尻を触ると感じられる。インターネットなどで画像検索し、骨の形や構造を理解すると意識しやすいと、平井氏は助言する。

「座った姿勢で頭の位置を高くすると、自然と坐骨が立ちます。猫背になると、坐骨は立ちません。どういう姿勢をとれば骨格や筋肉がどうなるのかを意識することが、コンディショニングに対する意識の高まりにつながります」

一方、いくら姿勢を正しても、イスやデスク、パソコンのディスプレイの高さが適切でなければ、また体に負担のある姿勢に戻ってしまいかねない。

「イスは、坐骨を立てた姿勢で座ったときに足裏がしっかりと床につく高さに設定しましょう。大事なのがディスプレイの高さです。目線の高さとディスプレイの上端を合わせるのが理想です。モニターアームを使って高さを調節したり、目線が下がりがちなノートパソコンの場合は外付けキーボードを使ったりするといいでしょう」

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平井 孝幸(Hirai Takayuki)

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)CHO(最高健康責任者)室室長代理。慶應義塾大学卒業後、ゴルフ事業で起業。2015年に従業員の健康サポートを始め、健康経営の専門部署CHO室を立ち上げる。2019年には健康経営銘柄を獲得。翌年も連続して獲得する。2018年DBJ(日本政策投資銀行)健康経営格付アドバイザリーボード、PGA(日本プロゴルフ協会)経営戦略委員会アドバイザーなどを歴任。東京大学医学部附属病院で研究員も務める。著書に『仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること』(東洋経済新報社)。

文/笹原風花