仕事のプロ

2021.11.24

ビジネスにおけるダイバーシティとは? 推進に向けた取り組みと事例

社員と企業を成長させるダイバーシティのメリット・デメリット

多様性を意味する「ダーバーシティ」とう言葉。ビジネスの世界では「多様な人材の活用や雇用」の視点で重要視されている。ダイバーシティが注目された背景、メリット・デメリットは何か?企業の具体的な取り組みも含めて紹介する。

ダイバーシティとは?

「ダイバーシティ(diversity)」とは「多様性」という意味をもつ言葉ですが、ビジネスや経営の分野では、年齢、性別、国籍、宗教、障がいの有無、学歴、価値観、ライフスタイルといった、さまざまな違いを認めて尊重し、多様な人々の能力を活用していこうという考え方を指します。
もともとは1960年代のアメリカで、マイノリティや女性の積極的な採用・公正な処遇をかなえるべく広がったもので、現在は日本でも注目されています。


ダイバーシティ経営とは?

多様な人材を登用し、各々の能力を活用するという経営手法は、「ダイバーシティ経営」ともいわれます。多様な人材がもつ、さまざまな能力や個性を活かす環境を整えることで、企業の生産性や競争力を高めることを目指しています。



インクルージョンとは?

さらに「ダイバーシティ」から発展し、「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉も使われるようになりました。「インクルージョン(inclusion)」とは「包括・受容・一体性」という意味で、ビジネスや経営の分野では、多様な個性や考えを受け入れ、組織としての一体感を高めることで、企業の成長へとつなげていくものです。




ダイバーシティが注目された背景

ではなぜ、「ダイバーシティ」がビジネスの世界で注目され始めたのでしょうか。その背景にある要因を見ていきましょう。


労働力人口の減少

少子高齢化が進む現在、労働力人口が減少しており、今後も減少し続けると予測されます。そのため、企業は女性やシニア層、障がい者、外国人など多様な人々を登用し、さまざまな人材が活躍できる環境を整えることで、労働力人口を確保することが必要となります。



雇用ニーズや価値観の多様化

時代の流れとともに、人々の働き方やキャリアに対する考え方は多様化しています。これまで日本では、毎日オフィスに来て長時間働くというワークスタイルや、終身雇用が一般的でしたが、現在は仕事と育児・介護との両立などワークライフバランスを大切にする人や、雇用形態にこだわらない人が増えています。
また、コロナ禍の影響によって、リモートワークも増加しました。企業はこうした多様な要望に応え、さまざまな働き方に対応できる環境を整えることが課題となっています。



グローバル化

現在はビジネスのグローバル化が進み、日本国内だけでなく世界を視野に入れた製品やサービスの開発が求められています。国際競争力を強化するためにも、国籍や人種を問わず、多様な人材を登用することが求められています。

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国としての取り組み

政府も「ダイバーシティ」を推進すべく、さまざまな取り組みを行っています。

〈女性の活躍を推進〉

2015年、女性が個性や能力を発揮しながら活躍できる社会づくりを目指し、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が国会で成立。

これは「女性の採用、昇進等の機会を積極的に提供し、性別による固定的な役割分担などを反映した職場慣行の影響に配慮すること」「仕事と家庭の両立が可能な環境を整えること」「仕事と家庭の両立においては、女性の意思を尊重すること」を原則とし、常用労働者301人以上の企業は、自社の女性の活躍状況を把握して課題を分析し、目標の設定や行動計画を公表することなどが義務付けられました。

また、この法律に基づいて一定の基準を満たし、女性の活躍促進の状況が優良な企業には、申請によって「えるぼし認定」を受けることができます。
さらに、2019年には改正法が成立し、対象企業が常用労働者101人以上に拡大されたり、「プラチナえるぼし認定」が創設されたりと内容がより充実されました。


〈ダイバーシティ2.0行動ガイドライン〉

経済産業省は、「ダイバーシティ経営=多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義。 2017年に「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」を立ち上げました。2017年には「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定し、2019年に改定。ダイバーシティ経営を実践するために必要な7つのアクションを、次のように提示しています。

  • 1.経営戦略への組み込み
  • 2.推進体制の構築
  • 3.ガバナンスの改革
  • 4.全社的な環境・ルールの整備
  • 5.管理職の行動・意識改革
  • 6.従業員の行動・意識改革
  • 7.情報発信・対話


〈ダイバーシティ選定企業〉

経済産業省では2012年度から2020年度まで、ダイバーシティ推進を経営成果に結びつけている企業を「新・ダイバーシティ経営企業100選」として表彰。 また、2017年度から2020年度まで、「ダイバーシティ2.0」に取り組む企業を「プライム100選」として選定していました。




ダイバーシティ推進のメリット

ダイバーシティを進めていくことは、企業や個人に次のようなメリットをもたらします。


優秀な人材を確保できる

登用する人材を多様化することで、より多くの優秀な人材を確保しやすくなります。また、さまざまな働き方ができる環境を整えることで、育児や家事、介護との両立で仕事を断念した人も働けるようになり、優秀な人材の離職を回避できます。



新しいアイデアが生まれやすくなる

年齢や性別、国籍、経歴、価値観など多様な視点をもった人材が集まり、お互いの考えを受け入れ、尊重することで社員一人一人の視野が広がり、新しいアイデアが生まれやすくなります。その結果、イノベーションが起こったり、企業の生産性が上がったりすることが期待されます。



モチベーションの向上

個々の希望に応じて柔軟な働き方が認められたり、年齢や職歴などに左右されず公平に評価されたりすることで、社員の仕事に対するモチベーションや満足度がアップ。その結果、企業の生産性の向上にもつながります。



社員と企業の成長を促す

多様な人と共に仕事をすることで、さまざまな考えや価値観に触れると同時に、お互いの意見をぶつけ合いながらコミュニケーションを図る機会が生じます。その結果、社員の視野が広がって成長が促され、企業の成長に結びつきます。



企業のイメージアップにつながる

先進的な取り組みを行い、社員が働きやすい環境をつくっている企業としてイメージがアップし、クライアントの信用にもつながります。

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ダイバーシティを推進する際の課題

ダイバーシティにはメリットだけでなく、デメリットもあります。それは社員のモチベーションや生産性の低下にもつながるため、企業はダイバーシティに関する課題をどう克服するかが重要となります。


コミュニケーションが困難で、対立が起きやすい

異なる言語や文化をもった人同士が、スムーズにコミュニケーションを図ることは難しいもの。ときには相手を理解できなかったり、受け入れられなかったりする場合があります。また、自分でも気づかないうちに、相手に偏見をもって接している場合も。その結果、衝突や軋轢、ハラスメントが生じやすくなります。



チームワークの低下

多様な背景をもつ人々で構成されたチームは、お互いを理解しにくく、一体感が生まれにくいものです。また、働き方が多様化し、働く場所や時間が人によって異なることで、社員が対面で話す機会が減り、チームの連携が取りにくくなります。



ハラスメント

多様な価値観や経歴、性的指向などをもった人たちが、さまざまなワークスタイルで働くようになることで、相手に対する誤解や無意識の差別が生じやすくなります。その結果、相手を傷つけたり、相手が不快に感じる言動をとってしまうなど、ハラスメントを生み出してしまうケースもあります。

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ダイバーシティ推進に向けた取り組み

企業がダイバーシティを進めていくには、さまざまな取り組みが必要となります。どのようなことが求められるのか、見てきましょう。


社員へのダイバーシティ教育・目的の共有

自社のダイバーシティに関する方針や目的、具体的な取り組みなどを明確にし、社員と共有することが大切です。さらに、自分とは異なる価値観や考え方に対する社員の理解を促すため、研修などを行うことが必要となります。

環境の整備

さまざまな事情を抱えた人々が働きやすいよう、フレックスタイム、育児・介護休業、リモートワークなどを導入し、多様なワークスタイルが可能となる環境を整えることが求められます。

公平な評価制度

多様な人々を公平かつ客観的に評価する仕組みや人事を整える必要があります。そのためには、従来の新卒一括採用や年功序列の人事、評価制度の見直しを図ることが重要です。

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企業のダイバーシティの取り組み事例

実際に、日本の企業はどのようにダイバーシティに取り組んでいるのでしょうか。「新・ダイバーシティ経営企業100選」および「100選プライム」に選ばれた企業の取り組みを紹介します。


P&Gジャパン

2013年度「ダイバーシティ経営企業100選」に選定。

〈具体的な取り組み〉

  • ●社会情勢や社員のニーズに応じて、フレックスタイムや時短・在宅勤務など従来の制度を進化・拡充。例えば、自宅やそれ以外の場所でも勤務できる「ワーク・フロム・ホーム」、一日の中で会社と自宅の両方で働ける「コンバインド・ワーク」などの制度を導入している
  • ●独自に開発したダイバーシティ&インクルージョン研修プログラムを他社や社外の団体に無償提供
  • ●LBBTQ+への「アライ(理解者・支援者)」の輪を広げることを目的とした独自の社外向け研修プログラムを他社や社外の団体に無償提供 など



東急株式会社

2015年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定、2019年度「100選プライム」に選定。

〈具体的な取り組み〉

  • ●ダイバーシティ経営を推進する課および部門横断的なワーキンググループを発足
  • ●女性社外取締役と女性執行役員が経営に参画
  • ●スライド勤務制度や休暇制度の利用促進
  • ●自社が運営するサテライトシェアオフィスなどで、テレワーク勤務を拡大
  • ●本社勤務員を中心に、年間を通して働く時間や場所、服装などを自ら選択することで、所定外朗時間の削減や、従業員のワークライフバランスを実現する取り組み「Smart Choice」を実施
  • ●鉄道現業社員をサポートすべく、事業所内保育所を沿線に設置 など



日本ユニシス株式会社

2018年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定、2020年度「100選プライム」に選定。

〈具体的な取り組み〉

  • ●ダイバーシティ推進室を設置
  • ●女性活躍推進を目指し、「ダイバーシティ育成プログラム」「育児休職中のキャリア開発支援」「育児休職ワーショップ」などを実施
  • ●盲導犬の受け入れを開始するなど、障がい者の活躍支援を行う。また、障がい者の活躍の場を多様化すべく、屋外農園での雇用を開始
  • ●全グループ社員受講必須のeラーニングやメールマガジン、ハンドブックを活用し、LGBTなど性的マイノリティに対する正しい知識の習得と理解促進を実施。また、LGBTの支援者であることを表すオリジナルの「Ally(アライ)シール」を作成し、希望者に配布。さらに、配偶者をもつ社員に支給される家族手当や住居費補助、育児・介護休暇などを、同性パートナーをもつ社員にも支給・付与 など




まとめ

ダイバーシティは企業を成長させ、生産性や競争力を高めるために欠かせないものといえます。そして、ダイバーシティを実践していくためには、社員一人ひとりがその重要性を理解し、意識を変えていくことが必要となります。
ダイバーシティを実践し、成果を上げている企業の取り組みを参考にしつつ、自社に求められていること、実践できることを考えてみてはいかがでしょうか。




ダイバーシティ推進事例をもっと詳しく知る

ほかにもさまざまな理由から、ダイバーシティ&インクルージョンを進めている企業がある。

ミキハウス

1_org_150_top.jpgミキハウス(三起商行株式会社)は外国人観光客の増加を受けて、外国人スタッフを積極的に採用。給与制度や勤務時間を見直し、異文化理解の促進と育成環境づくりのため「クロスカルチャーコーディネーター」を配置するなどして、日本人スタッフと外国人スタッフの相互理解を深めている。
顧客のニーズから始まったミキハウスのダイバーシティ&インクルージョン〈前編〉



凸版印刷

1_org_152_top.jpg凸版印刷株式会社は代々「人間尊重」という考えに基づく経営を行っており、早くから障がい者雇用を推進。近年では、性的少数者への理解・配慮を促す施策を行うほか、音声翻訳サービスなどダイバーシティ&インクルージョンの視点から社会課題に向き合う商品を開発している。
凸版印刷の変革と挑戦〈前編〉

作成/MANA-Biz編集部