仕事のプロ

2022.05.10

オフィスと自宅以外の第3のワークプレイス「シェアオフィス」

需要の高まるシェアオフィス利用のメリットや注意点、選び方とは?

働き方改革やコロナ禍による出社控えの影響でテレワークが定着し、オフィスのあり方が見直されつつある。そんな中で、オフィスや自宅以外の働く場としてのニーズに応える形で急激に増加しつつあるシェアオフィス。その定義やメリット・デメリット、選ぶポイントなどについて詳しく見ていく。

シェアオフィスの定義とは?

シェアオフィスとは正式には「shared office(シェアードオフィス)」、つまり個人や複数の企業が共同で利用するワークスペースのことです。かつては弁護士や会計士などの士業やスタートアップ企業などが共同でオフィスを借り、家賃を按分するといったスタイルが一般的でした。
やがて利用者同士のコミュニティ形成や異業種間交流も利用目的に加わり、市場を広げてきました。そこへ働き方改革やパンデミックの影響もあり、出社を控えてテレワークを行うワーカーが増加。自宅に仕事をする環境がない、気持ちを切り替えるために自宅外で仕事をしたいといった人の受け皿として、需要が急激に増加しています。

特定の業種に限らず、さまざまな企業や個人事業主が仕事場として利用し、時に交流して刺激を受け合い、便利なサービスも活用できる。使い方次第で多くのメリットを生み出すことができるサービスと言えます。




コワーキングスペースや
レンタルオフィスとの違い

シェアオフィスもコワーキングスペースやレンタルオフィスも、働くスペースをシェアするという意味では同じであり、区別するための明確な定義はありません。大きなくくりでは、コワーキングスペースはオープンスペースを複数の企業がオフィスとして活用しているのに対し、レンタルオフィスはそれぞれの企業が区切られた空間や部屋をオフィスや事務所として間借りするイメージです。

一方シェアオフィスはオープンスペースと個室や会議室が併設されていて、利用目的に応じて必要なスペースを使うというスタイルが多く、オープンスペースは利用場所が固定されないフリーアドレスとなっています。事業主によって同じサービス内容でも「シェアオフィス」「コワーキングオフィス」「サテライトオフィス」など呼び方が異なる場合も多くなっています。

フレキシブルオフィス市場の動向

「シェアオフィス」「レンタルオフィス」「コワーキングスペース」など、法人にワークスペースを貸し出すワークプレイスサービスを総称した「フレキシブルオフィス」に対する需要の高まりを受け、拠点数や面積、事業者数も増加しています。

すでに多くの都道府県に設置されていますが、そのほとんどが東京の都市部に集中しています。需要増の背景に、働き方改革や子育て・介護との両立など多様な働き方へのニーズの拡大、そしてコロナ禍でのリモートワーク需要の高まりなどがあります。世界で見るとリモートワーク化の動きはより顕著で、働く場所の多様化の動きは今後さらに加速していくと見られています。




シェアオフィス利用のメリット

シェアオフィスを利用することには大企業から個人事業主まで、それぞれにさまざまなメリットがあります。

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初期費用を抑えられる

通常の賃貸オフィスと比べてシェアオフィスは保証金、備品整備などの初期費用を抑えることができます。賃貸オフィスの保証金は賃料の6~12か月程度が相場となっており、それだけでもまとまった資金が必要になりますが、シェアオフィスでは保証金不要や数万円程度であることが多く、礼金や内装工事費、火災保険料などもかかりません。
また、デスクや椅子、デスクライト、コピー機などの家具やOA機器を一式揃えるとそれなりのコストになりますが、シェアウェアでは共同利用できるものがすでに備え付けてあるので、コストをかけることなく契約後すぐに利用を開始できます。


法人登記や住所利用ができる

シェアオフィスによっては、法人登記が可能な場合があります。ブランド力のある都市部の住所で登記をしたい企業にとっては、顧客からの信頼獲得や人材確保など、大きなメリットを低コストで得ることが出来ます。また、個人事業主が法人化する場合も、自宅住所を公にすることなく法人登記することが可能です。
郵便物や荷物のやりとり等で住所が必要なシーンでも、シェアオフィスによっては受付で郵便の受け取りや転送サービスがある場合や、ポストを設置できる場合などもあります。


低コストで都心にワークスペースを確保できる

賃貸オフィスでは賃料が高くてとても借りられないような都心の一等地に無理なくワークスペースを確保できるのも、シェアオフィスならではといえます。
例えば普段は郊外を拠点とし、外部イベントや取引先との商談はアクセスのいい場所を利用したいなど、都心で仕事をする必要がある場合のみスポット的に利用する、といったフレキシブルな使い方が低コストでできるのは大きなメリットと言えるでしょう。


会議室やラウンジなど共有スペースが利用できる

コワーキングスペースよりも利用できるスペースの種類が豊富なシェアオフィスでは、必要に応じて使える会議室やラウンジ、セミナールームなどの共有スペースがあるのも便利な点です。
例えば外部との打ち合わせや商談の際は会議室を予約して利用したり、部下との1on1にラウンジを利用することもできます。ホワイトボードやプロジェクター、スピーカーやモニターなどを貸し出してくれるシェアオフィスも多く、共有の設備を使ってプレゼンすることも可能です。


ランニングコストを抑えられる

シェアオフィスを利用することで初期費用だけでなく、水道や光熱費、インターネット回線や飲み物、新聞雑誌や文房具などの備品、トイレットペーパーなどのランニングコストが利用料に含まれている場合がほとんどです。また、清掃や備品の補充、買い出しなどの雑務を運営側が行ってくれるため、時間の節約にもなります。


情報交換や人脈の拡大が期待できる

シェアオフィスには多様な業種業界の企業や個人が入居しているため、ネットワークを構築することができるのもメリットの一つ。交流を促すために運営会社がシェアオフィス内で定期的なセミナーやイベントを開催している場合もありますし、ラウンジなどで定期的に顔を合わせるうちに自然と情報交換が始まる場合も。
自社のオフィス内だけで仕事をしている時には気づけなかったような斬新な課題解決のアイデアやイノベーションが生まれるかもしれません。




シェアオフィス利用の注意点

メリットの大きなシェアオフィス利用ですが、場合によっては注意が必要な場面もあります。利用を検討する際は注意点もしっかり理解しておきましょう。

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セキュリティ面に不安がある

特に一時利用を受け付けているシェアオフィスでは入退室のセキュリティレベルが高い場合を除き、運営会社もよく知らない不特定多数が出入りすることになり、情報管理には注意が必要です。
インターネット回線を共有するため、回線速度が遅くなったり、ウイルス感染やデータ漏洩などのリスクがないわけではありません。また、パソコンを開きっぱなしでうっかり席を外してしまった場合ののぞき見や、出力した書類をプリンターに置き忘れてしまう、web会議や電話で話していた内容が聞かれてしまうことなども想定されます。
シェアオフィスで行う業務の範囲を限定する、機密情報を扱う場合は個室を利用するなど、情報漏洩には十分注意が必要です。


利用頻度によっては費用がかさむ

利用するスペースや席数ごとに月単位で利用料を支払う、会議室利用は別料金で都度発生するなど、シェアオフィスによって料金体系は異なります。利用の仕方や頻度によっては、固定費がかかりすぎてしまう場合もあるので、あまり定期的に活用しない場合はスポット利用に切り替えるなどの見直しが必要です。


周囲の雑音が気になる場合も

シェアオフィスはもともと交流するという利用目的もあり、さまざまな人が出入りしてフロアの中を行き来したり、電話や雑談、アイデア出しやWeb会議などをする声が聞こえてきます。緊急対応や集中力を求められる作業をしている際にはそういった音が気になってしまうかもしれません。ただしweb会議用の個室や電話ブースがあったり、会話厳禁の集中スペースがあることで音問題はある程度解決できるので、シェアオフィスを選ぶ際に確認しておくと安心です。




シェアオフィスの選び方

特に都心ではシェアオフィスの数は増加しており、サービス内容や特徴も多岐にわたっています。数多くの選択肢の中から自社(自分)にあったシェアオフィスを選ぶために、押さえておきたいのは次の4つのポイントです。

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立地で選ぶ

まず第一に考えるべきは立地です。その際に重要なのは利用目的を明確にすることです。従業員の自宅からのアクセスなのか、取引先との商談や打ち合わせなどに際しての利便性なのか、あるいは銀座や虎ノ門といったブランド力の高い住所を登記に記載することなのかなど、目的によって立地を選ぶとよいでしょう。


設備・機能・サービスで選ぶ

仕事をするうえで必要な設備や機能がそろっているかは重要なポイントですが、内容やサービスはシェアオフィスや利用プランによって異なります。複合機やスキャナー、シュレッダー、モニター、WebカメラやスピーカーといったOA機器や備品、ふせんやはさみなどの文房具の他、電子レンジや給茶機、ハンガーラックやロッカーなど、どんなものが備え付けられていることが必須なのか、利用目的と照らして検討し、何が使えるのか調べてコストと見合っているか確認するとよいでしょう。

社名プレートの掲示、受付での来客対応、郵便物や電話の転送サービスのほか、弁護士や税理士などの紹介や秘書代行、200人規模のイベントが可能なセミナールームが利用可能などのシェアオフィスもあります。
また、会議室や個室、ブースなどの種類や数、利用方法も確認しておきましょう。必要な設備やサービスがそろっているかと同じくらい、居心地がよく仕事がはかどる環境かどうかも重要な観点です。


価格で選ぶ

シェアオフィスによって料金体系も初期費用や退去にかかる費用、オプション料金の設定は様々です。会議室や備品、各種サービス利用にそれぞれどれぐらい追加費用がかかるのか、利用頻度によっては積み上げればかなりの金額になる場合もあるので注意が必要です。利用料とは別に管理費が必要なケースもあります。


規模で選ぶ

シェアオフィスを利用する人数によっては空き席がなかったり、作業スペースが狭くなる場合も。また共有スペースが少なく床面積が狭いシェアオフィスでは、閉塞感を感じたり居心地が良くないと感じ、作業効率が下がってしまうかもしれません。
都内に多拠点構えていてどこでも自由に使えるプランを利用することで、1か所の利用人数を分散できたり利便性が上がる場合も。快適に仕事ができるだけのスペースを十分確保できそうか、事前に確認しておきましょう。




自社オフィスとシェアオフィスを
上手に使い分ける

2018年に働き方改革関連法案が成立して以降、ワーカーの働く意識の変化も受けて、企業には働き方の見直しが迫られていましたが、コロナ禍の2年でその改革のスピードが急加速。リモートワークが推進されたことで、働き方の多様化もこれまで以上に求められるようになっています。
こうして働き方が大きく変わっている今、自社オフィスも含めた今後の働く場所のあり方を考えるタイミングがきていると言えます。

自社にとっての働く場所の最適なバランスを考えるためのフレームワークとして「ワークプレイスポートフォリオ」という考え方があります。「ワークプレイスポートフォリオ」では、自社オフィス、自宅、サテライトオフィス、シェアオフィスをどういうバランスで使い分けるかを考えますが、そのバランスを決めるためには、社員にどういう働き方をしてほしいのかという方針を持つことが重要です。

これまで働く場所はオフィスが基本で、それ以外の場所の必要性を企業も個人もほとんど考えることがありませんでした。しかし働き方の多様化を進めるうえでは、働く場の多様化もセットで考えていく必要があります。社員にどういう働き方をしてほしいか、すなわち、どういう多様な働き方を実現させるのかといった視点を持って、働く場の在り方を考える。その際の選択肢の一つとしてシェアオフィスの利用を検討してみるとよいでしょう。

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まとめ

オフィスで働くことにも、在宅ワークにもそれぞれメリット・デメリットがあります。働き方改革や新型コロナウイルス感染拡大の影響で、働き方も働く場所も多様化していくなかで、サードプレイスとしてシェアオフィスの利用が定着してきました。
これらをうまく利用することが生産性を上げ、かつ社員の働きやすさにつながるのかを検討し、目的に合ったサービスを取り入れていくことが、企業の姿勢として今後ますます求められていくでしょう。

自社の課題と目指す理想の働き方を定め、それに照らして働く場所を提供する。そのためにも、まずは働く場所の選択肢としてどのようなものがあるのかを知ることが重要なのではないでしょうか。


作成/MANA-Biz編集部