仕事のプロ

2022.06.09

ワークプレイス最適化のための「ワークプレイスポートフォリオ」という考え方

自社にとって最適なワークプレイス戦略を検討する

環境変化の激しい今、「どこで仕事をするか」「このままのオフィスでいいのか」など、これまでは考えたこともなかった課題に直面する企業も多い。アフターコロナの新しい市場環境における課題を解決するための施策の一つとして「ワークプレイスポートフォリオ」を提案するのが、コクヨ株式会社でワークプレイスコンサルタントの吉田大地。ワークプレイスポートフォリオとは何か、どのようなプロセスで考えていけばいいのか詳しく解説する。

ワークプレイスポートフォリオとは?

「ワークプレイスポートフォリオ」とは、オフィス以外の場もワークプレイス(仕事をする場所)と捉え、オフィス、自宅、サテライトオフィス、サードプレイスそれぞれの使用割合を最適化するという考え方です。
コロナの影響を受けて最近よく耳にするワークプレイスに関する課題として「出社率が下がったためオフィス内がガラガラで、ファシリティ効率が低下している」「オフィス以外のワークプレイスを十分用意できておらず、社員の多様なニーズに対応できていない」といったものがあります。
環境の変化に合わせた働き方を検討する際には、ワークプレイス戦略の再構築が欠かせません。自社にとって最適なワークプレイスの割合を算定し、その投資効果を明らかにするための手段がワークプレイスポートフォリオです。

ワークプレイスポートフォリオでは、所有区分として縦軸に「所有」か「利用」か、選択柔軟性区分として横軸に「場所が確定しているもの」か「場所が柔軟に選択できるもの」かで分けます。
この4象限で検討することで、ワークプレイスの割合を「人数」「面積」「コスト」の視点で最適化することができます。

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ワークプレイスポートフォリオがなぜ重要なのか

今ワークプレイスポートフォリオが重要となる理由として、「働き方の変化」と「コロナによるリモートワークの急拡大」という2つの背景があります。

働き方の変化

「働き方改革」は、政府が将来の労働人口の減少に対応するため「長時間労働の解消」「正規・非正規の格差解消」「柔軟な働き方の実現」を柱として働き方の見直しを謳ったものです。その結果、働き方の多様化が徐々に進み、時間や場所に縛られることなくフレキシブルに仕事をしたいとワーカーの意識も変化し始めました。また、時間外労働の上限規制など関連法案も施行され、企業としての対応が求められるようになりました。
個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方をワーカーが選択できるようにすることは、努力目標ではなく義務化されたわけです。

同時に健康経営やウェルビーイングに対する意識の高まりとともに、在宅勤務の対象者を広げるなど、働く場所を柔軟に選択できるワークスタイルを模索する動きが出てきたことも背景として考えられます。


コロナによるリモートワークの急拡大

もう一つはコロナの影響により、在宅ワークを含むリモートワークが急速に拡大したことがあります。
政府からの出勤者数削減要請などにより、多くの企業が在宅ワークを導入しました。その結果、在宅でも仕事ができることを企業もワーカーも実感しました。
一方で育児や介護などの事情から、仕事に適した環境を用意できないなどの課題も浮き彫りになり、その解決方法としてシェアオフィスなどのサードプレイスを活用する動きも出てきました。シェアオフィス需要が増えてきたことで種類や数も増え、より利用しやすくなってきています。こうして働く場所の多様化が進んだことも、働き方改革を加速させる追い風になっています。
多くのワーカーの意識はもはや「仕事をする場所=オフィス」ではなくなり、「オフィス不要論」まで出ている今、コロナが終息したとしても、以前と全く同じようにオフィスのみで働くスタイルには戻れないでしょう。

そこで、今はアフターコロナを見据え、働く場所としてどのような選択肢を持つべきなのか、コストは最適化できているのか、時代に合った新しい機能は何かといった様々な視点で、オフィスのあり方を問い直すタイミングだと言えます。
そのうえで中長期的な視点で必要に応じた投資を行い、ファシリティコストを抑えると同時に組織の活性化を実現するために、自社とワーカーにとって最適なワークプレイス戦略を立てることが重要になっているのです。

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ワークプレイスポートフォリオの考え方

ワークプレイスポートフォリオは次の5つのステップで自社にとって最適なワークプレイス戦略を導き出していきます。

Step1:現状面積の把握

まず、自社が現在所有・利用しているメインオフィスと他拠点の面積を明らかにして、現状を把握します。


Step2:1.0~3.0プレイスの利用率の設定

次に、拠点ごとの現状の出社率や稼働率を確認。そのうえで、今後どのような働き方をしてほしいのか、自社は何を大事にしていきたいのかといった方針を明確にしていきます。
例えば「実際に集まってコミュニケーションを取りながらアイデアを出しあい価値創造することを重視したい」のか、それとも「効率性と社員のワークライフバランスを重視したいのか」などです。
自社の方針を明確にしたうえで、それぞれの場所の利用率を設定していきます。具体的には、在宅勤務率、オフィス利用率、サテライトオフィス利用率、サードプレイス利用率、会議室や共用部の利用率などを決めていきます。


Step3:立地・賃料の設定

続いて、設定した利用率に応じてサテライトオフィスやサードプレイスはどんな場所にどのぐらいの規模で必要か、適正な立地を設定します。そのために社員居住地の最寄り駅情報や拠点の最寄り駅情報、主要取引先の最寄り駅情報などを確認。それらを踏まえて、どのサードプレイス事業者と契約するかを検討し、サードプレイス利用料の算出を行います。利用目的によって複数のサードプレイス事業者と契約する場合もあります。


Step4:コストの算出

どこにどれだけのワークプレイスを用意するかが見えてきたら、各象限におけるイニシャルコスト、ランニングコストの材料を集積して、コストシミュレーションを行います。その時忘れてはいけないのが、現状の賃料だけでなく今後見込まれる構築費用や賃料も算定することです。具体的にはオフィス賃料やサードプレイス利用料、サテライトオフィス賃料に加えて、オフィス構築費用、サテライトオフィス構築費用、サードプレイス初期費用などもそれぞれ出していきます。例えばメインオフィスの固定席を減らして一部返却し、その分シェアオフィスを借りる場合、ランニングコストとイニシャルコストにそれぞれどれぐらい差が出るか具体的に算出していきます。


Step5:損益分岐の評価

最後にコスト比較による損益分岐の設定をするとともに、施策によって得られる効果をコスト換算し、投資回収時期を設定して評価を行います。

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コクヨでは企業から提供いただく情報とコクヨが保有する市場データ等を掛け合わせてワークプレイスポートフォリオを導き出するシミュレーションで、ワークプレイス戦略ごとの損益分岐の明確化までお手伝いしています。




まとめ

コクヨでも実証実験として自社のワークプレイスポートフォリオを策定し、「自律的な集合・離散の実現」をコンセプトにオフィスの刷新と、分散していた各拠点・部門の統合移転とサードプレイス活用を導入しました。その結果、サードプレイス利用により可処分時間の大幅増と移転による固定費削減、通勤緩和を実現しています。

企業を対象としたアンケート調査結果などでは、今後のワークプレイス意向として、全体の3割がオフィス回帰、3割がオフィス縮小・テレワーク中心、残り4割がハイブリッド型という意向を示しています。この結果からも、まさに今は過渡期なのだと実感します。

ワークプレイスポートフォリオによって、現時点でベストな配分を見いだせたとしても、今後また環境変化によってバランスは変わってくるかもしれません。一度決めたら固定というわけではなく、例えば出社率の変化やコミュニケーション課題による離職者の増加など、想定と違う状況や課題が出てきた時などは都度見直していくとよいでしょう。
そのためにも、すべてを「所有」や「場所が確定」しているワークプレイスに割り振るよりは、柔軟に対応可能な選択肢があると調整しやすいといえます。

また、オフィスでも自宅でもない場所で仕事をしていくことが常態化する場合、新たなルールや制度作りが必要になります。例えばオープンスペースではWeb会議をしない、機密情報を持ち出さないなどのセキュリティ関連のルール整備や、評価制度や労務管理の整備など、ワーカーが安心して自律的に働きやすい環境づくりが必要となります。また、人材確保や帰属意識を低下させないためのオフィス戦略も必要となるでしょう。

ワークプレイスが多様化するなか、アフターコロナでは「どこで働いてもらいたいのか」「それぞれの場所でどのような体験をしてほしいのか」を改めて考え、自社のワークプレイスの再定義に本格的に取り組むことが求められます。その際、ワークプレイスポートフォリオの考え方を役立てていただければと思います。



吉田大地(Yoshida Daichi)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
ITコンサルタントとして、ITをベースに複数のクライアント企業の課題解決を手掛ける。現在はワークスタイルコンサルタントとして、空間、働き方の両面から、働く人1人ひとりの感性を刺激し、創造性を発揮するオフィス環境の構築を支援中。働く人の能力を発揮させ、互いの知識・情報を共有し、交流を活性化させるオフィス環境の実現をサポート。

作成/MANA-Biz編集部