仕事のプロ

2024.12.17

キャリアアンカーで仕事における自分の軸を知る

キャリアを考える:キャリアアンカー

環境変化が大きいなかでも、できるだけ満足感や充実感を持って働きたい。でも「自分は何にこだわっているのか」、「何を軸に選択すればいいのか」がわからない人も多いはず。キャリアを考える連載第4回目では、仕事で意思決定する時の判断材料となる「キャリアアンカー」について、コクヨのキャリア・コンサルタントの古川貴美子が解説する。

自分が最も重視し譲れないものを知る

キャリアアンカーとは、自分が職業上の決定をする際にもっとも重視し、人生のアンカー(錨)としてゆずることのできない価値観や自己イメージ、満たされるとモチベーションが上がる欲求が何かを診断するツールのこと。
「動機」(どんな仕事がしたいのか)・「価値観」(何に価値を感じるのか)・「コアコンピタンス」(何が得意なのか)の3つの要素が重なる部分がキャリアアンカーです。「人生全体」という意味でのキャリアにおいて自分を知るためのツールもありますが、これはあくまで仕事のうえで重視しているものを知るための診断です。

キャリアを考える過程では、内省する時間をしっかり取ることが大事です。でも具体的に何をどう考えればいいのか...、難しいですよね。その一つの判断材料として、「キャリアアンカー」を活用することができます。

例えば、異動や転職などの環境変化を伴う意思決定をする時に、自分が何を重視しているのかを知って判断材料の一つにすることもできますし、今後の方向性を考えたい時など、キャリアの節目の時に、仕事のうえで自分は何を重視しているのかを知っておけば、選択しやすくなるはずです。

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キャリアアンカーの8つのタイプ

キャリアアンカーは、次の8つのタイプに分類することができます。

1. 専門・職能別コンピタンス
特定の技術や専門知識に優れ、それを活かすことに満足感を得るタイプ。そのため他の業務に異動すると、満足感が低下してしまう場合も。エンジニア、プログラマー、医師など、特定の専門職に従事する人々に多くみられる傾向があります。

2. 全般管理コンピタンス
組織全体の管理やリーダーシップに興味を持ち、経営やマネジメントの役割を重視するタイプ。問題解決が好きで、責任を持つことで成長する傾向があります。企業の幹部、部門長、プロジェクトマネージャーなどに多く見られます。

3. 自律・独立
独立して仕事をすることを重視し、自分のペースで働くことに価値を見出すタイプ。自分の裁量で動けることを重視し、周りからの動機づけがなくとも自ら動くことができます。フリーランスや起業家、芸術家などに多く見られます。

4. 保障・安定
長期的な安定と経済的な保障を求め、安定した環境で働くことを重視するタイプです。大きな環境変化にストレスを感じやすいため一つの企業で定年まで勤務する人が多く、転職はあまり考えない傾向があります。公務員や大企業の正社員などに多く見られます。

5. 起業家的創造性
新しい事業やプロジェクトを立ち上げることに興味を持ち、創造的な活動を追求するタイプです。新しい製品やサービスの開発、組織の立ち上げに力を入れ、新しいものが大好き。起業家、スタートアップ企業の創設者などに多く見られます。

6. 奉仕・社会貢献
社会貢献や他者への奉仕を重視し、社会的に意義のある仕事に従事することに価値を見出すタイプで、自分の仕事を通して「世の中をよくしたい」と思っています。非営利団体の職員、医療福祉関係者、教育者などに多くみられます。

7. 純粋な挑戦
難しい課題や競争的な環境に挑戦することを楽しみ、自己の限界を試すことに満足感を得るタイプで、退屈な生活を好みません。スポーツ選手、研究者、リスクの高いプロジェクトに従事する人々などに多くみられるタイプです。

8. 生活様式の統合
仕事と私生活のバランスを重視し、ライフスタイル全体としての満足感を追求するタイプで、制度が整っている企業での勤務を望む傾向があります。ワークライフバランスを重視する企業の従業員やテレワークを活用する人々などに多く見られます。




8つのタイプに良し悪しはない。結果はポジティブに活かす

必ずしも一つのタイプが突出するとは限らず、人によっては2つ3つのタイプが同じくらいの結果になる場合もあります。その時は、この中でも特に自分が優先したいことは何だろうと考えてみるといいですね。

注意してほしいのは、どのタイプが良い・悪いというものではありません。例えば、「自分は全般管理コンピタンスの傾向は低かったから、管理職にはなれない」というものではないのです。あくまでどういう仕事のやり方が自分にとって心地よいか、どういうことを好むタイプなのかを知るツールです。
先ほどの例でいくと、「保障・安定」タイプの方がリーダーになった場合、危機管理をしっかりしながらきちんと先々までスケジュールを見通して進めていくことができるはず。リーダーをめざしたいのであれば、自分のタイプの強みを活かしつつ、さらに必要なスキルや経験は何かを考えて磨いていけばいいのです。

また、一度形成されたキャリアアンカーは揺らがないものだと思われてきましたが、今は環境変化が激しく、仕事や働き方の選択肢も多様化しています。また学生時代の就職活動で診断した時と、さまざまな経験を積んだ後では価値観が変わるのも当然のこと。参考材料の一つと考えて、あまり結果を重く受け止めすぎないようにしてくださいね。大切なのは、自分がどんな仕事の仕方をすれば満足を得られるのか、何にモチベーションを感じるのかを知ることですから。



古川 貴美子(Kimiko Furukawa)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
1級ファイリング・デザイナー / 電子ファイリング検定A級 営業企画部門・マーケティング部門を経てワークスタイルコンサルティング部門に所属。 主に、ファイリング(情報の5S)コンサルティング、オフィスの運用改善コンサルティングを 担当し、お客様の働き方改革をサポート。2018年発刊「コクヨ式整理術」一部監修。

連載監修/河内律子(コクヨ キャリアコンサルタント)
ライター/中原絵里子