Overview
熊本県庁では働き方改革の一環として、オフィスの全庁リニューアルに取り組んでいます。フリーアドレスの導入や、デジタル化の促進によって、職員一人ひとりの働き方に、どのような変化が生まれつつあるのか。そもそもなぜ全庁リニューアルという大きな決断に踏み切ったのか。「くまもと新時代、共に未来へ」というスローガンを掲げ、強いリーダーシップを発揮する熊本県知事の木村敬氏に直接お話を伺いました。
熊本県知事 木村 敬 氏
目次
Interview
職員の負担を減らし、働きやすい環境を
「最大の理由は、働き方改革を進めるためです。県庁職員が抱える負担は、精神的にも肉体的にも決して小さなものではありません。特に災害時には時間外勤務を含めて、その負担は非常に大きなものとなります。だからこそ、平時から少しでも働きやすい環境を整えておかなければ、職員のなり手がどんどん減ってしまうのではないか。少子化による人手不足が深刻化するなかで、そんな強い危機感がありました。
コロナ禍による働き方の変化も、きっかけのひとつです。特に私が副知事として着任した令和2年は、まさにコロナ禍の真っ只中。多くの民間企業が、テレワークの導入を急いでいた時期です。ところが、県庁でのテレワークの実施は、設備的にも制度的にもなかなかスムーズには進みませんでした。働き方改革の必要性を痛感したできごとです。」
デジタル化と執務環境整備の両輪で促進
「一方で、オフィスリニューアルを契機として、県庁のデジタル化を加速したいという狙いもありました。熊本県では世界的な半導体メーカーの誘致を実現させましたが、今後もここ熊本から新たな産業を生み出し続けていくためには、県全体としてさまざまなデータを集約・活用していかなければなりません。その第一歩として、まずは県庁のデジタル化を促進するためにも、オフィスリニューアルは有効な施策だと考えています。」
フリーアドレス化によって「ひらかれた職場」を実現
「まずはシンプルに、職場が明るくなりましたね。家具だけでなく、内装も含めてオフィスのデザインが一新されたことで、職員の意識にもポジティブな変化が起きています。具体的には、コミュニケーションが活性化し、ちょっとした相談事がしやすくなりました。ひらかれた職場環境の実現に向けて、一歩前進したと感じています。
フリーアドレス化による恩恵も、非常に大きいと思います。誰かに相談したいときや、簡単な打ち合わせをしたいときに、必要な人数でさっと集まることができる。ある種の「アジャイルな空間」ができつつあります。
またフリーアドレス化によって「誰がどんな仕事をしているのか」も格段に見えやすくなりました。そうすると、職員一人ひとりが業務を抱え込まなくなります。困難な仕事は自然と分担して進めるようになりますし、何よりも「誰か一人に業務が集中してしまう」といった事態を避けられるようになりました。
さらにオープンスペースが増えたことで、職員同士はもちろん民間企業や県民の方々といった来庁者のみなさまとのコミュニケーションも活発になってきました。これを機に、さまざまなステークホルダーとともに、熊本県が一丸となって新たな価値を「共創」していければと考えています。
改めて今回のオフィスリニューアルは、「共創」を促進し、創造的な働き方を実現することを通じて本県の魅力をさらに高める、重要な取り組みであると位置づけています。」
リアルとオンラインを上手に使い分けて
「仕事の進め方には、まだまだ効率化の余地があると感じています。たとえば今は、現場の視察などを行った後はほとんどの場合、オフィスに戻って書類仕事をしなければなりません。けれど書類のクラウド管理が進めば、必要書類は移動中の車内などで作成して、オフィスには戻らずそのまま直帰する、といった働き方も可能になるはずです。
また今回のリニューアルによって無線LAN環境も充実したので、これまで対面で実施していた本庁と出先機関の打ち合わせなどは、WEB会議に置きかえられるものも多いはずです。住民のみなさまとのコミュニケーションも含めて、リアルとオンラインを上手に使い分けていければと思っています。」
大切なのは、目的に応じて最適な場を選べること
「世間では「オフィス回帰」という言葉も耳にするようになりましたが、私たちの場合は、まだまだオフィスで働くことが当たり前の状況です。そのためまずは「テレワークという選択肢もあるよ」と言える体制を、ソフト面でもハード面でも整えていかなければならないと感じています。
それと並行して「オフィスならではの価値」もしっかりと提供していきたいですね。心理的安全性も考慮された環境で、執務に集中できる。快適なオンライン環境のもと、大人数のWEB会議もスムーズに実施できる。隣にいる仲間と相談しながら、新たなアイデアを生み出せる。そしてそれらの空間を、自由に使い分けることができる。そんなオフィスを整えることで、職員一人ひとりの創造性を、さらに引き出せればと思っています。」
業務の効率化が、創造性を高める
「今回のリニューアルでは、無線LANやPHSの導入、モニターの配備といったデジタル化施策も合わせて進めたことで、業務効率は間違いなく向上しました。ただ、それはあくまでも目的ではなく手段です。いま流行りのAIにしてもそうですが、大切なのは定型業務の負担を削減することで、職員一人ひとりがより創造的な仕事に打ち込める環境をつくることだと考えています。
実際にここのところ「お!」と思わせるような面白い提案をしてくる職員が増えているんです。これもオフィスリニューアルの効果なのかなと思います。やっぱり毎日同じ場所で同じ顔ぶれと仕事をしているよりも、さまざまな人と自由に会話ができる環境の方が、アイデアが生まれやすくなりますからね。伸び伸びと創造性を発揮するためには、心理的にも物理的にもある種の「余白」が必要なのだと実感しています。」
オフィスは「県民が主人公の県政」に資する基盤
また今回のオフィスリニューアルは、職員だけではなく県民のみなさまにとっても意義のあるものになると考えています。誰もが安心して笑顔で暮らしながら、持続的で活力あふれる熊本の未来をともに創り、地方創生の完成形を目指す。そんな「県民が主人公の県政」を実現するための基盤を整備できたと感じています。
世界に通用する魅力的な執務環境の構築
ライフスタイルや価値観の多様化にともない、今後はますます働き方にも多様性が求められるようになっていくでしょう。だからこそ、職員一人ひとりが育児や介護といったライフイベントにあわせて、時間や場所にとらわれず柔軟に働ける環境を、県庁が率先して構築することが重要と考えています。フリーアドレスの導入をはじめとした今回のリニューアルは、その第一歩です。
その日の業務内容に応じて執務環境を自由に選びながら、職員が主体的に働き、県全体の行政サービスの質と生産性の向上につなげていく。世界に通用するそんな魅力的な執務環境を、職員に、さらには熊本県庁を志す学生や志望者に提供していきたいと考えています。