仕事のプロ
2016.04.06
「仕事」がなくなるその前に身につけるべきスキルとは?〈前編〉
“創造的な仕事”ができる人材への道を切り開く
“A World Without Work”、仕事のない世界。米誌『ATLANTIC』2015年7・8月号の表紙を飾ったこの言葉は、近い将来、現実となるかもしれない。私たちは今、従来の仕事や働き方を根本から見直し、転換する岐路に立っている。これからの時代に求められるスキルや人材像、そしてそのための学びについて、知識リーダーシップ総合研究所の紺野登先生に伺った。
あなたのその「仕事」
10年後には存在しない!?
「コンピューターや人工知能の発達により、なくなる職種、つまり、機械に取って代わられる仕事が続々と増えるといわれています。あなたの今の仕事も、10年後、20年後にそのまま存在するという保障はまったくない、と仕事という軸が揺らぐ、そんな時代が来ているのです」。
紺野先生は開口一番、今の世界が直面する仕事の変化に言及し、警鐘を鳴らす。「仕事」は時代によりかたちを変えてきた。例えば20世紀前半は、フォードT型に代表されるように、機械化による大量生産の時代だった。工場労働者が生まれ、彼らを管理するホワイトカラー層が生まれた。ただ経済は大きくは成長していた。しかしながら、今や機械の管理はコンピューターの仕事となり、経済も低成長、"行き詰まり感"が社会に蔓延している。そんな今こそ転換期であり、新しい目的のための新しい仕事をしなければならないと、紺野先生はいう。
「問題はどの仕事がなくなるか、ということではなく"働く"という概念自体の大転換が起きようとしていることです。企業にも個人にも、仕事や働き方を根底から覆すような変革が求められています。ひょっとしたら、一見「何もしない」ことすら「仕事」になるかもしれない。人工知能やロボットにはできない"創造的な仕事"が、人間のなすべき仕事になるでしょう。そして、創造的な仕事をするためには、自らチャレンジすることが欠かせません。与えられた仕事だけをこなしていては、無用の人材となってしまうのです」
ものごとの仕組みや構造は
"目的"を軸にデザインする
では、"創造的な仕事"をするためにはどのようなスキルが必要なのだろうか。紺野先生は、"構想する力(imagination)"の重要性を説く。
「構想する力とは、ものごとの仕組みや構造を新たに創造し、変化を生み出す力のことです。デザインする力ともいえるでしょう。そこでは、現実を創造的に変革するための"目的"が非常に重要になります。例えば、都市における子どもの貧困問題を解決してより良い社会を実現する、と明確な目的を最初に設定し、そのためにはどうすればいいかという"手段"として仕組みや構造を考えていきます。その際に、従来の概念や手法にとらわれない自由な発想を生み出すことが、創造的な仕事、つまりイノベーションへとつながるのです」
優れた技術や製品を開発すれば売れる時代は終わり、今は技術力や開発力に"+α"の価値提供力が求められる時代だ。"モノ"ではなく"仕組み"を変えていかねば、モノも売れない。アイデアを出し合い、既存のスタイルをぶち壊して、イノベーションを起こさねばならないのだ。
個人に求められる能力も、分析力やロジカルシンキングといった論理的なスキルから、デザイン力や実践力といった創造的で直観的あるいは身体感覚的なスキルへと、時代の流れに合わせて変化している。商品を売る仕組みから社会問題を解決する構造まで、自らの発想でゼロから創り上げることが求められるのだ。
紺野 登 (Konno Noboru)
博士(経営情報)。多摩大学大学院教授(知識経営論)KIRO(知識イノベーション研究所)代表。一般社団法人Japan Innovation Network 代表理事、慶應義塾大学院SDM研究科特別招聘教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー、日建設計顧問。 都市開発プロジェクトやワークプレイス・デザインなどにかかわるとともに、FCAJ(Future Center Alliance Japan)では、数多くの企業が参加するコ・クリエーションの場をマネジメント。また、イノベーションに関する多くの書籍も出版している。