リサーチ
2016.10.17
企業が取り組むべき事業継続計画書(BCP)の実態
災害時に倒産を回避する事業継続計画が必要不可欠な時代に
災害などのアクシデントに備えて策定する事業継続計画(BCP)。あなたの会社はきちんと考えられている? 急に路頭に迷わないためにも、その重要性を確認しよう。
事業継続計画(BCP=Business Continuity Plan)とは、災害や事故などの不測の事態に備えて、重要かつ優先度の高い業務から、速やかに復旧・再開できるように策定しておく計画のこと。災害時、人命や建物などの資産を守るための防災計画を前提とした上で、主に事業の早期復旧に重点をおいたものだ。
2011年3月の東日本大震災後、会社は被災地に位置していなかったにも関わらず、得意先・仕入先の被災、親会社の倒産などで、事業復旧が困難となったり実際に倒産したりするケースが相次いだ。こうした事態を回避するためにも、BCPは災害大国・日本では特に必須の計画と言える。
BCPを策定しておけば、非常事態時の認識や行動について各役職員が理解しているので、実際の非常時に適切な対応を取ることができて、被害を最小限に食い止められる。さらに事業復旧に向け、優先的に取り組むべき業務の判断や、代替手段の選択を適切に行えるので、取引先への影響を最小限に抑えられる。
また、普段からBCPへ真剣に取り組んでいることは、取引先からの信用・信頼を得ることに寄与し、ブランドイメージの向上にも繋がる。社内的にも、BCP策定に取り組む過程で事業影響の分析を行うことによって、業務の優先順位を再認識・共有することができたり、自社の業務プロセスやシステムが抱える弱点を把握することができる。
さらに、BCPを策定している企業は、政府系金融機関等が実施する貸付金利優遇制度や損害保険会社による契約保険料への優遇制度を利用できる可能性があるなど、財務面でのメリットもあるのだ。
しかしBCPは策定が法律で義務づ付けられているものではないため、東日本大震災から5年経った2016年現在でも依然として認知度は低い。その他にも様々な問題点が株式会社帝国データバンクによる今年6月の調査で浮き彫りになった。まずはその策定率の低さだ。調査時はわずか15.5%。「現在策定中」「策定検討中」を合わせても半数に満たない。
規模別に見ると、の規模の小さい企業ほど策定が進んでおらず、従業員数「5人以下」と「1000人超」では策定の割合は10倍以上開きがある。 業種別に見ても、金融業界を除けば、農・林・水産が22.4%で、その他は20%にも満たない。
また、策定している企業も、その内容は51.8%と半数以上が「地震」を想定したものとなっている。「火災」 は19.5%、「水害」は7.7%だ。もちろん地震に対する備えは万全にしておくべきなのだが、その他の災害をないがしろにしてはいけない。昨年の9月に、豪雨により茨城県で鬼怒川の堤防が決壊し、津波さながらの被害になった。被災地の企業損失は169億円と見積もられている。その他の地域でも、豪雪、豪雨による土砂災害など、様々な災害が近年起きた。また、新型インフルエンザやSARS(新型肺炎・重症急性呼吸器症候群)などパンデミックも忘れてはならない。多様な事態に備えてBCPを策定しておくことが肝要だ。
それでは、策定を妨げる要因は何か。平成24年度に内閣府がBCPを「策定中」及び「予定がある」と回答した大企業・中堅企業に対して、BCP策定時の問題点・課題を調査したところ、大企業・中小企業ともに「策定に必要なノウハウ・スキルがない」が1位となり、そのほか「策定する人手を確保できない」、「BCPに対する現場の意識が低い」などが共通の課題として挙げられている。
ノウハウについては、コンサルタントを利用するのも手だ。また、社内での業務分担や人員構成を組む際に、BCPについても役割分担も最初から組み込んだうえで考える必要があるだろう。また、特徴的なのは、「部署間の連携が難しい」「サプライチェーン内での調整が難しい」という項目に関して、大企業のほうが課題感を感じていて、中堅企業と大きく差が開いていることだ。大企業は、設備や人員は揃っているところが多いだろうが、そのぶん、大勢の社員や関連下請け企業といかに認識を共有し、いざという時にスムーズに体制を整えられるかが大きな課題となるようだ。
以上、BCP策定に対してメインとなる問題点を挙げた。「もしもの時」が来ても最悪の事態に陥ることがないよう備えておく。それは経営戦略の一つでもある。何があっても文字通り生き残れる企業であるために、BCPを持つことの大切さを認識したい。
(出典)
株式会社帝国データバンク「特別企画:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」
内閣府防災担当「企業の事業継続の取組に関する実態調査 -過去からの推移と東日本大震災の事業継続への影響-」(平成24年3月)をもとに作成