リサーチ

2017.02.20

仕事中のストレッチが健康を守る

毎日の「5分」で、脳のつながりが強くなるという研究結果

デスクワーク中、ちょっとしたストレッチを行うと頭がすっきりすることは経験的にわかっている。2015年度の「内閣府ImPACT山川プログラム」では、その脳への効果を科学的に明らかにしようと、MRI計測(*1)による実験が行われた。およそ1か月間、毎日5分程度のストレッチをオフィスで行った実験参加者は、脳の健康指標の一つである“FA-BHQ(脳内の神経線維のつながりの質を示す指標)”が、有意に増加することがわかった。

脳の健康を、MRIで見える化する

 
「内閣府ImPACTプログラム」とは、大学や企業での挑戦的な研究開発を促進し、社会に大きなインパクトをもたらすイノベーションの実現を目指す、研究開発プログラムである。現在16の研究テーマが掲げられており、その中の一つに、脳情報の活用を推進するプロジェクトがある。それが、研究開発プロジェクト「脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現」(*2)だ。
 
同プロジェクトでは、世の中にある製品やサービスが、脳の健康に良い影響を与えるかどうかを、MRI(*1)を使って調べることで、脳情報の産業活用をすすめようとしている。
ここで脳の健康を測る指標として使われているのが“GM-BHQ(大脳皮質の量)”と、“FA-BHQ(神経線維の質)”の2つ。BHQ(Brain Healthcare Quotient)は同プロジェクトが脳の健康指標として開発し、国際標準規格として提案し議論されている指標だ。
 
“大脳皮質の量”とは、脳内の灰白質の容積の値であり、学習機能の基盤と考えられる。一方、“神経線維の質”とは、脳内の神経線維のつながりの質の測定値であり、情報処理の基盤と考えられる。20代から60代を対象にした調査では、いずれも年齢と負の相関があり、歳を取ると減少していく傾向がわかっている。
 
コクヨ株式会社では2015年度に内閣府ImPACT山川プログラムのBHQチャレンジとして「オフィスでの定期的な軽運動が脳へ及ぼす効果検証」の実証トライアルを、MRIを使って実施。1か月間毎日オフィスでストレッチをすると、社員30名の脳の健康にどのような影響を与えるかを、“GM-BHQ(大脳皮質の量)”と、“FA-BHQ(神経線維の質)”の指標を用いて調査した。
 
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(提供:内閣府 ImPACT山川プログラム「脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現」)

 
 

たった5分のストレッチで、70%のワーカーの脳が改善

実証トライアルでは、まず、オフィスの一角にリフレッシュコーナーをつくり、ストレッチマシンを4種類設置した。肩を動かす、胸を開く、股関節を開く、もも裏・ふくらはぎを伸ばすといった、いずれもオフィスワークで固まりがちな筋肉を意識的に動かすことができるマシンで、血流を促すことを狙った。
 
28~61歳の社員30名(男性22名、女性8名)にまずMRI計測を行ってから、1か月間できるだけ毎日、平日の在席時間(約9時間)の合間に、約5分のストレッチを実施してもらい、取り組み終了後で再びMRI計測を行った。
結果は、実証トライアル期間前後で、“FA-BHQ(神経線維の質)”が、統計的に有意に増加(p<0.05)。実験前に比べ、70%の社員の神経線維の質が良くなるという結果になった。本来であれば年月と共に減少する指標だが、1日5分のストレッチだけで、逆に増加に転じたという、驚きの結果が得られたのだ。(*3)
 
また、追加の分析では、オフィスストレッチの実施数と、脳の健康指標へ及ぼす効果には、正の相関があることもわかった。ストレッチのできた日が少なかった社員より、毎日ストレッチができた社員の方が、脳が健康になったということだ。なるべく毎日、習慣的にストレッチを行うことが、脳の健康につながるといえる。
 
労働人口が減少する近い将来、ワーカー一人ひとりの生産性を高く維持することがより重要になってくる。また、これまで以上に長く働き続ける社会が訪れ、働くシニアが増えると、脳の健康は、会社にとっても個人にとっても、大きな関心事になるに違いない。
 
「5分間ストレッチ」は、未来の働き方の常識になるかもしれない。
 
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*1 MRI(magnetic resonance imaging)/核磁気共鳴画像法:被験者に高周波の磁場を与え、人体内の水素原子に共鳴現象を起こさせて反応する信号を撮影・画像化する仕組み。