リサーチ

2017.06.02

ストレスチェック義務化で浮かぶ課題とは

高ストレスが判明しても次の一手に動けないジレンマ

職場での人間関係をはじめ、多くの人がストレスに悩まされている。2015年12月より、従業員50人以上の事業所において「ストレスチェック」が義務化された。それにともなう形で行われる集団分析の結果を見ると、職場での悩みが多様化していることがわかる。管理職のマネジメント力や人間関係に答えを見いだせずに、ストレスを抱えたまま職務についている者への対応として挙がった課題とは何なのだろうか。

そもそも「ストレスチェック」とは、従業員のストレス状況について検査を実施し、本人に結果を通知することでストレス状況の気づきを促し、従業員のメンタルヘルスが低下しないように努めることを目的としている。
 
株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントは、2016年末、ストレスチェック義務化1年目においての各企業の状況を把握するため、ストレスチェック実施企業の担当者357人にアンケートを実施した。
その結果、まずストレスチェック以外に実施したこととして、「集団分析(仕事のストレス判定図を用いてストレスの要因を評価しながら、対策を考えていく)の実施やその結果のフィードバック」が64%と半数以上で実施されていることがわかった。次いで「カウンセリングなどの外部相談窓口の設置」が続き、後は管理職や個人への各研修が主に行われているようだ。
 
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その「集団分析の実施、集団分析結果のフィードバック」を実施した企業に聞くと、課題を感じる職場環境として最も多かったのが、「管理職のマネジメント力(部下への配慮、評価の納得感)」。2番目に多いのが「職場の人間関係」で、これらはストレス要因の定番ともいえる理由だ。また、同じように高い数値の「仕事の量的な負担、長時間労働」や、数値こそ低いが「ダイバーシティへの配慮」など、働き方改革の課題とされている項目が挙がっているのも注目したい。
 
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そして担当者がストレスチェック義務化に対して課題と感じているのが、「高ストレス者の医師面談を希望しない人へのフォロー」だ。通常の健康診断結果と違ってデリケートな個人情報なので、あくまで通知は個人のみ。会社側への報告がないため受け身状態であり、積極的に関与ができないのだ。実際、高ストレスの診断が出た人でも、産業医面談を受ける申し出が少なかったという。
 
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ちなみにここで、ストレスチェックを既に実施している、諸外国の状況を見てみよう。
カナダでは「職場における心の健康と安全」というメンタルヘルスの手引きが国家規格として承認されているが、企業の判断に一任されており、法的な義務はない。事業場の責任で当該手引きを参考に、職場のメンタルヘルスのための環境改善に努めることとされている。
イギリスでは労働安全衛生庁が策定した「ストレス管理基準」があり、職場環境の改善が推奨されているものの、法的な義務はない。しかし、労働安全法では職業性ストレスもリスクアセスメントに位置づけられており、実質的にストレス管理基準が則られている。また、ストレス管理の実施の手順として、5つのステップがモデルとして示されているが、その中には、「問題の調査・解決策の考案」、「アクションプランの策定」、「モニタリングと精査、取組の再検討」といったものも含まれ、継続的な改善を図る。
オランダは法的に職業性ストレスにもリスクアセスメントが義務付けられており、ストレス調査表も策定されている。
 
このように職業性ストレスは日本だけでなく、各国でも共通で対策を講じている。企業がどれだけ踏み込んで対策を取れるかにかかっており、特に欧米諸国よりも労働時間の長さや人間関係のしがらみが問題となりがちな日本では、ストレスチェックからの対策を一段と講じることが必要だろう。
 
 
(出典)「ストレスチェック義務化 1 年目に関する調査」(株式会社アドバンテッジ リスク マネジメント)、
    「精神的健康に着目した職場のリスク評価手法の取入れ等 に関する調査研究 報告書」(厚生労働省)をもとに作成。
作成/MANA-Biz編集部